続 聖夜の贈り物 - 大陸編 3章_5

「ここか……」
街の人達の協力の元に馬を借りて、アントーニョ達3人が庵についたのは夕方だった。
近くの木に手綱を結ぶと走りかけるアントーニョをフェリシアーノが制した。


「ね、アントーニョ兄ちゃん、落ち着いて。悪い人じゃないって言ってたから喧嘩腰になっちゃだめだよ。とりあえず俺が話をするから…」

アントーニョは昨日から飲まず食わず、睡眠すら取ってない状態で冷静に話をできるとも思えない。本人がその気がなくても敵意のない相手に敵意を持たれては大変だとフェリシアーノは交渉役を請け負う。

それは本人も自覚するところなのであろう。
「ん、俺も冷静に話す自信ないし任せるわ」
と、アントーニョはその提案を受け入れた。

「じゃ行こう。」
フェリシアーノを先頭に、3人は庵の暖簾をくぐった。


「ち~っす」
「ちぃっす…?」
やや緊張気味の3人を迎え入れたのは年若い少年だった。

指を二本立ててちゃっとふりつつ言うのは彼風の挨拶なのだろうと、フェリシアーノは真似をしてみる。

少年はまずフェリシアーノに、ついで彼の後ろにいる二人に交互に目をやって少し考え込み、
「村の人間ではない的な?」
と、少し小首をかしげて、返答をうながした。

「うん、俺達ね、王さんの家の菊っていう人と一緒にいた子を探してるんだけど…。俺達にとってすごく大事な子なんだ。知ってたら教えてくれないかな?」
極々ストレートに言うフェリシアーノに、少年は
「あ~、彼の連れ的な?一応連れ以外は通すなって言われてんすよ。だからちょっと試させてもらっていっすか?」
と様子を伺うように聞いてくる。

「うん、もちろんだよ。ちゃんとアーサーの安全確保してくれてるんだね、ありがとう」
にこぉっと笑顔のフェリシアーノ。

それにニヤッと笑って少年は
「あ~、本物の連れみたいっすね。じゃ、行きますかっ」
と、外に促す。

「あれ?試すんじゃないの?」
少年の後を追いながら聞くフェリシアーノに、少年は
「今の問いが試しっすよ。後ろの怖い兄さん達はわかんないっぽいけど、あんたは少なくとも合格。」
と肩をすくめて指笛を吹いた。

「フェリシアーノに交渉任せて正解だったな。」
「ほんまやな。あの子めいっぱい誠意振りまいてる感じするもんな」
と後ろでこそこそささやく二人。

「怖くないよっ。ムキムキの方はルートでねっ、優しいのっ。俺の大事な人なんだよっ。もう一人のアントーニョ兄ちゃんはアーサーの大切な人。昨日から消えちゃったアーサーの行方徹夜で探してたからちょっと疲れちゃってるだけで、普段は明るい良い人だよっ」
少年の“怖い兄さん”発言が気になったのか、わたわた手を動かしながら弁解するフェリシアーノに、少年は
「はいはい、もういっす。わかったから。」
と、クスクス笑う。

「完全に…年下に舐められてるな…」
とルートヴィヒ。
「ん~でもそれ言ったら自分かてフェリちゃんより年下やし。ああやって警戒させへんのはあの子の強みやで」
とそれにアントーニョが答える。

そんな会話を交わしていると、少年の指笛に応じて雲が飛んでくる。
「うわ~、これ乗れるの?乗れるの?」
おおはしゃぎなフェリシアーノに
「純粋な心の持ち主だけ乗れるっすよ?」
とにやりと人差し指を立てる少年。
「うあ~そうなんだ、緊張するなぁ~」
とおそるおそる足を踏み入れるフェリシアーノの様子に、少年はクックックと拳を口にあてて笑う。
「うそっ!嘘っす!うちの馬鹿兄弟子でも乗れるくらいっすから超平気!」
「え~。本気にしちゃったよ」
とホッと息を吐きながらフェリシアーノはぴょんと雲に飛び乗った。

そんなのどかなやり取りの後、後ろの怖い兄さん認定の二人も乗り込み、雲は一路霊山の頂上へと向かう。

おそらくここの館の住人以外ほとんど目にした事のない霊山の頂上の景色。
高山のためか霞みがかった空気の向こうには大きな館。
といっても豪奢な感じはなく、質素な母屋からなんだかつぎはぎのように部屋が足されている感じだ。

「ここは昔は師匠が一人で住んでたらしいんすけどね、俺らみたいな子供一人二人引き取る度部屋足してって、こんな笑える屋敷になったっぽぃっすよ。」
とおそらく聞かれるであろうと思ったのか、少年が勝手に解説を始める。

「へ~、面白いね~」
といちいち感心しながらぴょこぴょこ付いて行くフェリシアーノ。

普段なら自分の手の届く範囲にフェリシアーノを置いておくルートヴィヒも、霊山の上ののどかな空気に釣られてか、ゆっくりと周りを散策しながらついていっている。

確かに警戒心の足りないアーサーなら普通に付いて行ってしまいそうなのどかさだが、今度からはいくら怖くなさそうな相手でも知らない人に付いて行ってはダメだという事から教えなければ…と、アントーニョは思った。

「あ~、菊さん、丁度良い所にっ」
突然少年が駆け出した先には見事な菊の花の中を散歩する少女…かと思えば
「ああ、香さん、お客様ですか?」
と声をきけばどうやら少年らしい。

「あ~あの子がアーサーと一緒にいた菊?」
フェリシアーノも少年を追う。
「ちゃお~。俺フェリシアーノだよっ。宜しくね♪」
と言ったあと、あ…と気付いたように
「ち~すっ…だったよね?」
と、初め少年香がやったように二本指を立てた手を振って見せる。

「香さん…何を教えてるんです…」
菊が少し柳眉を寄せて小さく息を吐き出すと、香と呼ばれた少年は悪びれず
「いいじゃないっすか。挨拶くらい。それより菊さんの拾ったウサギさん?の連れらしいっすよ。耀は連れは案内していいって言ってたから連れてきたんすけど、どうすればいっすか?」
と、ちらりと後ろを見やる。

「あ…アーサーさんの…」
サラリと音がしそうな綺麗な黒髪を少し揺らして小首をかしげる菊。
声さえ聞かなければその様子は可憐な少女のようで、なるほど警戒心など起こさせる要因がどこにもない。
可愛いモノ好きなアーサーがフラフラと付いて行ってしまうのもうなづける、と、アントーニョは納得した。

「悪いんやけど…アーサー返してもらえへん?」
アーサー自身が望んだからここに連れてきたのだろうと言う事が容易に想像できてしまって非常に面白くない。
つい言葉に険が混じる。

しかし菊は気を悪くする風でもなく、むしろ申し訳なさげに
「申し訳ありません。偶然お会いしてお話するのが楽しくて、私が無理にお誘いしてしまいました。アーサーさんを怒らないで差し上げて下さいね」
とコクンと頭を下げる様子に、毒気を抜かれる。

「あ~、あの子前にもちょぃ倒れてた事あって、今回いきなりいなくなったんでめっちゃ心配してたんで、キツイ言い方して堪忍な。」
片手を頭の後ろにやって眉尻を下げるアントーニョに、菊はにこりと微笑んだ。
「大切に思っていらっしゃるんですね?」
との言葉に
「あ~もちろん!めっちゃ大事な子ぉやでっ。あの子より大事なモンなんてこの世にあらへんわ。俺の大事な大事な宝物なんや、あの子は。」
と迷わず答えるアントーニョ。
その様子に菊はほぅっと胸をなでおろした。

「それを聞いて安心しました。なんだかずいぶん気落ちなさってたので、アーサーさん」
「あ~、あの子なんていうか…めっちゃ落ち込みやすい子ぉやねん。もしかして慰めてくれてたんやね。おおきに。」
「いえ、私もちょっと落ち込んでいて、お話を聞いて頂いていたので…。とりあえず今はこの館の主がアーサーさんにお話があるということで話しておりますので、ご案内しますね」
菊はそう言うと、香にうなづいて王に伝えるよう目配せをする。
そして香が一足先に走っていくと、
「ではこちらへ」
と、自分が先に立って歩き始めた。


「菊さん、耀がちょっと薬草足りないから調合しておいて欲しいって。客の案内は俺にやれって言うんでチェンジ。」
館に入ると母屋から香が走ってきた。

「薬草…ですか。わかりました。」
菊は釈然としない様子で、それでも薬品を調合する用の離れへと向かう。

「んじゃ、こっちっす」
それを複雑な表情で見送って、3人を母屋へと促した。
薄暗い廊下を通り、一番奥の付きあたりの部屋。
「耀、連れてきたッす。」
香がノックをすると、
「入るある。香は行っていいあるよ」
と、中から思いのほか若い声がした。

「らじゃ。じゃ、俺は行くんでごゆっくり」
香はそのまま踵を返す。

「お邪魔しま~す…」
開いたドアからフェリシアーノはおそるおそる薄暗い室内に足を踏み入れた。
もちろんあとの二人もそれに続く。

「我は王耀。カトル・ビジュー・サクレの4つの欠片の一つ、炎の石の守人ある。」
暗闇の中から姿を現した年齢不詳の青年はそう名乗った。

「カトル・ビジュー・サクレ…の……」
王の意外な言葉にぽか~んと呆けるフェリシアーノ。
「そんなんどうでもええねん。アーサーを返したって」
とアントーニョはフェリシアーノを押しのけるように歩を進めて言う。
ルートヴィヒはとりあえず状況がわからずそのままあたりの警戒を始めた。

「先に話を聞くね。そのアーサーに関しての事ある。」
そう言って王は3人に椅子をすすめた。
素直に、あるいは渋々、あるいはやはりあたりを警戒しながらと、それぞれの態度で座る3人。
全員が座ると、王はアーサーに説明したのと同じように、4つの欠片の事、選ばれし者の事を説明し、最後に
「まあここまで言えば想像はつくかもしれねえあるが、アーサーがその、今の“選ばれし者”あるよ。」
と締めくくった。

「ゆえに今後カトル・ビジュー・サクレが揃うまではあの子はその力を欲する者に追われ続けるし、あの子といれば必然的にそれに巻き込まれる事になるね」
そう続ける王に、アントーニョは
「そんなんかまへんわっ!どんな奴がどんだけ来ようと全力で守ったるだけや!あの子返したって!」
とがたっと椅子から立ち上がった。
王はそんなアントーニョを見上げた後、静かに視線を下にそらした。
「あの子はそう思わなかったね。お前達を巻き込む事を嫌ったある。」
「巻き込まれなんて上等やっ!むしろ俺が全部背負ったるわ!とにかくあの子に会わせたって!」
さらに言うアントーニョをちらりとまた王は見上げた。
「会いたい…あるか?」
「当たり前やっ!そのためにここまで来てんで!」
「じゃ、会わせてやるね」
スッと王は椅子から立ち上がり、奥へと歩を進める。

そして続き部屋の扉に手をかけ、後ろを振り向いて言った。
「あの子からの伝言あるよ。『ありがとう。俺はもう十分幸せにしてもらったからもう安心して俺を忘れて自由になってくれ。今度はお前が幸せになれる事を祈ってる』ということね」

「…え?」
一瞬固まるアントーニョ。
しかし、それに構わず王がガチャリと奥の部屋の扉を開けると、弾かれたように奥の部屋へと走って行った。
フェリシアーノとルートヴィヒもそれを追うが、ドアの所で王が足を伸ばしてそれを制する。
「お前らはここまであるよ」
静かだが有無を言わせぬその声に、二人は仕方なくその場にとどまった。


香のかおりがたちこめる薄暗い室内には中央にたった一つベッドがあるのみ。
大の大人が二人くらいは優に寝られるくらい広いそのベッドには一面に白い菊の花。
その白さに埋もれるように、アーサーが眠っていた。

「なんで…息してへんの?」
おそるおそる近づいて顔の上に手をかざしてみても、呼吸をしている様子はなく、慌てて脈を確認しようと触れた白い首筋はひんやりと冷たくなっていた。
「なんで…?嘘やろ?なあ、嘘やんな?!」
どんなにゆすっても叫んでもアーサーはピクリともしない。
「返事したって!!馬鹿でもアホでもかまへんからっ!なんでもええから返事したってやっ!!!」
目の前の現実を信じたくはないのに、涙が止まらない。

「なあっ!!こんなんやめたってっ!!目、あけたってやっ!!!こういうのほんま冗談にならへんでっ!親分心臓止まってまうからっ!!!ほんまやめたって!!!」

冗談にしたいのに…すぐに『だまされたな、ばあかっ!』と笑って欲しいのに…呼吸を止めた体はアントーニョにされるまま力なく揺さぶられ続ける。

「なんでやの?!親分なんかアーサーの気に触る事したん?!だったら謝るからっ!!なんぼでも謝るし、土下座だってしたるからっ!!!こんなんやめたって!!!!」

心臓が握りつぶされてぐしゃぐしゃになっていく気がする。
呼吸ができない…。

「嫌や…こんなん嫌や……。なんで?なあ…なんでこんなひどい事するん?こんなん…殺された方がましや…どうしても死にたかったんやったらせめて待っといてや。一人で逝くくらいなら一緒に連れてってくれたら良かってん…」

「それじゃあ本末転倒ね。その子はそれを望まなかったから一人で逝ったあるよ」
扉のところで王が淡々と言った。

それは事実なんだろう…この子は悲しいほど優しい子だ…でも本当にわかってない…。
とアントーニョは胸が締め付けられそうな気持で思う。

「…自分は全然わかっとらん…わかっとらんわ、このお馬鹿ちん。
大事な大事な…ほんまに大事な子ぉを守りきれんで死なせてまう事くらいつらい事なんてないんやで?目の前でこんな風に…自分が守ってやれんかった現実を突きつけられるくらいつらい事ないんやで…。
この世のつらいこと全部代わってやりたかったわ。親分な、自分を幸せにできるんやったら、どんな事でも耐えられたんや。つらい事なんてなぁんもなかったっ。
自分さえおってくれれば、他にはなぁんも要らんかったんや。
自分だけが俺のこの世の幸せの全てやったのに…それなくしてどうやって幸せになれっていうん?!自分がおらんくなった時点で幸せになんてもうなれへんわっ!!」

アントーニョはギュッと抱きしめていたアーサーから少し体を離した。
そして涙をグイッとぬぐう。
「なあ、仙人。頼みがあるんやけど…」
そこでアントーニョは王を振り返った。

「死人生き返らせろとかいう無茶あるか?」
小さく肩をすくめる王に、アントーニョは苦笑する。

「そこまで無茶言わへんわ。単にな…燃やして欲しいねん。俺もこの子も灰になるまで燃やして一緒に埋めたって。」
「……お前は…アホあるな」
王は心底あきれたようにため息をつくが、アントーニョは大まじめに言う。
「アホちゃうわ。小さな小さな砂のレベルで一緒に混じり合いたいねん。そうしたらもうずっと一緒やん。普通の状態で一緒に埋めてもうても、ぴったり隙まなしってわけにはいかんやろ?小さな隙間程度も離れるの嫌やねん。」

「…一緒に死ぬのが前提か……そんなに好きあるか?」

「当たり前やっ。もう好きなんて軽々しい言葉で言い表せんくらい愛しとるで?生まれて初めてどんな手段を使うても側から離さんて思うた子ぉや。この子のためなら何でもできてん。世界中敵に回したって、世界滅亡させたってかまへんかったんや。この子だけやっ。俺の人生で必要だったのはこの子ただ一人やったんや。この子亡くした時点でこの世界なんて何も意味ないわ。代わりなんておれへん。むしろどうしても死ぬ言うんなら先逝って道整えてあの世でも手ぇ引いて歩いてやりたかったくらいやわ。」

「お前は…それを伝えたあるか?」
ふと思いついたように聞く王に、アントーニョは大きくうなづいた。

「もちろんやで。何度も何度もくどいくらい伝えたんやけどな……死んだかて地獄の底まで追ってくとまで言うたんやで?でもこの子手強いゆうか…めちゃ悲観的やねん。……信じてもらえんかったみたいや。やから有言実行したるねん。親分諦めへんで。ほんまに地獄の底まででもおいかけたるねん」

「それだけの覚悟があれば…大丈夫あるな」
王はクスリと笑みを浮かべて、どこからか掌大の赤い宝石を出した。
「運命を共にする覚悟があるなら、それを身の内に受け入れるよろし。」
と、アントーニョにそれを投げてよこす。

「なん?」
反射的にそれを受け取ったアントーニョが不思議そうな視線を向けると、王はふと笑みを消し、真剣な顔で告げる。

「炎の石。カトル・ビジュー・サクレの欠片の一つにして活力を司る石あるよ。それを一度身の内に取り入れれば4つの石がそろうか100年の年月が過ぎるかどちらかの条件の元、自分の意志で取りだすまでは他者は手出しができない。ようは…死ぬか4つの宝玉が集まるまでは自分でも取り出せなくなるある。結果…選ばれし者と同様に力を欲する者に追われる身になるね。」

「ふ~ん…」
アントーニョは手の中の石をしげしげと眺め、興味なさげに鼻をならした。
「俺にはそんなんどうでもええねん。どうせすぐアーサーのとこ行ってやるんやし。」

そういうアントーニョに王はもう一つ小さな小瓶を投げてよこす。
「我が乞われて与えた仮死状態になる薬の解毒剤あるよ。それを与えれば目を覚ますあるが…このままだとまた同じ事が起きるあるね。でもお前自身がアーサー同様追われる身になれば、アーサーが命を絶つ意味もなくなる。…それでも興味ないあるか?」
にやりと笑みを浮かべる王に、一瞬状況を理解しきれなくてぽか~んとするアントーニョ。

「…生き返るん?」
「そう言ってるね」
「ほんまに?!」
「試してみればわかるね。ただし生き返らせるなら先に炎の石を身に受け入れた方がいいあるよ。止められる前に」
「わかったわっ!どうやるん?」
「ただ両手で持って強く念じるだけある。」
「わかった!!」

少しの迷いもなくアントーニョは石を両手で持って念じてみる。
すると石は赤い光を放ち、アントーニョの中に吸収されて行った。

「じゃ、あとはアーサー起こすだけやなっ!」
アントーニョは勢いこんで瓶の中身を口に含み、アーサーの口に流し込む。
薬がス~ッとアーサーの中に流れ込んでいくと、冷たかった体に少し熱がもどった。
真っ白だった頬もいつもの淡い薄桃色に戻る。

そしてゆっくりと開かれる瞼。
やがて何よりも恋い焦がれた新緑色の大きな瞳がアントーニョをとらえた。

「何やってんだっ!ばかぁ!!」
第一声は罵り声。
それさえもアーサーが生きている証かと思うと嬉しくて頬が自然に緩む。

「あんなもん受け入れやがってっ!もう取り返しつかないんだぞ!どうすんだっ!!」
ぽろぽろと泣きながらいうところをみると、さきほどまでのやりとりは全部聞こえていたらしい。

「え~?ええやん。なんかあれやなっ。二人をつなぐ証っていうか…結婚指輪みたいやん?」
へらへらと笑うアントーニョに、アーサーは一瞬言葉をなくして口だけパクパク開け閉めしている。
「これでアーサーと一緒の運命歩けるかと思うたら、親分めっちゃ嬉しいわ。」
本気で嬉しそうに言うアントーニョに、うつむくアーサー。
「知らねえぞ…後悔しても。」
「一緒におれる事に後悔なんてせえへんよ?むしろさっきまでの方がよっぽど後悔したわ。ていうか…もう自分は親分の半径1mから出るの禁止や。戦闘中だけ大負けに負けて武器があたらんように3mやな」
「なんだよ、それ。」
「当たり前やん。あんな馬鹿な事二度とできへんように決まりや!」
「馬鹿な事じゃねえっ!」
「馬鹿やっ!親分これだけ伝えとるのにいい加減信じぃやっ!」


「ねえ、王さん。あとの3つもやっぱり同じように取り込めるの?」
言い争うアントーニョとアーサーはとりあえず放置して、フェリシアーノは王に声をかけた。
「あ~、みつかればそうあるな。ただし一人が取り込めるのは一つまであるよ」
「そっか…俺も覚悟決めないとね」
「別に普通に持ち歩いても構わないあるが…というか、取り込めるのは石自身に選ばれた者か選ばれし者が無意識に選んでいる者だけだから、望んだからと言って取り込めるわけでもないあるよ」
「そのあたりは大丈夫♪俺達親友だもん♪」
自信満々に微笑むフェリシアーノに、王は
「選ばれし者が悲観的な分、周りが呆れるほど楽観的あるな」
と苦笑した。

そんな会話を交わしている間に、二人の間もなんのかんの言って落ち着いたらしい。
奥の部屋から歩いてくるアーサーの手はしっかりとアントーニョにつかまれていた。




「あ~やっと我の肩の荷も降りたあるな」
子供の頃、父親が殺されたあとご神体を取りこんで以来、取りだすのはどのくらいぶりだろうか…。
みなぎるような力はなくなった気はするものの、なんだか体が軽く感じる。
人としてはありえないほど長く続いてきた生も、おそらく今後は常人並みの短いものになるのだろうが、それもまたいい。

「とりあえず…無限ではない時間を有効に使わないといけないあるな」
まずは闖入者達に教えられた“伝える事”から始めようか。

「香~、菊を呼んでくるあるよ。」
あの子の好きなお菓子を揃えて、機嫌の良いところで事実を伝えよう。

王はそう考えて、香に菊を呼びに行かせた。 






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