働かざる者食うべからず、あ~んど、適材適所。
魔法の使えるアーサー、戦闘力のある自分やルートに比べて、フェリシアーノが貢献できる事は極端に少ない。
そこでアントーニョはフェリシアーノの最大の長所、人懐っこさを生かしてもらう事にした。
簡単に言えば…街の人達と仲良くなって、情報を集めてもらうのだ。
そのための足掛かりとして、まず自分の仲良くなったおばちゃん達に引き合わせるべく市場までやってきたのだが、フェリシアーノの対人能力は期待以上だった。
自分の従兄として紹介したのだが、あっという間にアントーニョ以上におばちゃん達に馴染んでいった。
元々話をするのが好きなのだろう。むしろアントーニョよりよほど盛り上がっている。
「あのね、あっちにいるムキムキがルート♪俺の一番大切な恋人なんだよ♪」
男同士とかそういうためらいはないらしい。あまりにあっけらかんと当たり前に言うので、皆も全く不思議に思わないようだ。
「そういえば…アントーニョちゃんも駆け落ちしてきたって…」
そういう話題が大好きなのが女性。
おばちゃん達も例外ではなく、目を輝かせる。
「うん、ルートの隣にいる子がそう。可愛いでしょ?俺とも一番の親友なんだよ♪でも本当にあまり外にも出た事ない子で人に慣れてないから放っておいてあげてね」
フェリシアーノの言葉におばちゃん達の視線が一斉にルートヴィヒの隣のアーサーに注がれる。
「アントーニョちゃん……もしかしてすごく年下好き?というか…まだそういう対象には早い年なんじゃない?」
やはりそう見えるか…と、アントーニョは苦笑した。
「年なんて関係ないねん。ただ一緒に生きていきたいだけや。家いると一緒にいるのも許してもらえへんから…もちろんまだ色っぽい事とかしてへんで?ちゃんと大人になるまで待っとるつもりやし。」
さすがにおばちゃんとはいえ、女性相手にそういう会話は恥ずかしい。
というか…同じ感覚でおしゃべりできるフェリシアーノはすごいと思う。
アントーニョがさすがに少し赤くなりながら言うと、おばちゃん達は
「純愛ねぇ…」
と、それはそれは楽しげに盛り上がっている。
盛り上げ役はこの際フェリシアーノに任せてと、アントーニョがどうやらバトンタッチできた事にホッとして一息ついていると、それまで少し離れてこちらを見ていたルートヴィヒがかけよってきた。
「あれ?アーサーは?」
そちらに目を向けても当然一緒にいると思っていたアーサーがいない。
アントーニョが聞くと、ルートヴィヒが言う。
「ああ、今それを伝えにきた。少し気分が悪いから、あちらのベンチで休むと…宿に連れ帰った方がいいだろうか?」
「フェリちゃん頼むわっ」
その言葉でアントーニョは返事を待たずに駆け出した。
自宅で一緒に暮らしていた時も倒れていた事があったアーサーの事だ。
また倒れていなければいいのだが…
そう思って急いでそれまで死角になっていたベンチへと向かったが、誰もいない。
(…アーサー……)
一気に血の気が引いた。
「ルート!おれへんで!!」
即取って返してルートヴィヒにむかって叫ぶ。
「あっちのベンチやんな?!」
「ああ、そう言っていたのだが…」
アントーニョの剣幕にルートヴィヒも緊張を高めた。
「いなくなっちゃったの?!」
それまでおばちゃん達と話していたフェリシアーノも話を中断して、聞いてくる。
「どないしよ…あの子に何かあったら…あの子にもしものことがあったら…」
嫌な記憶がよみがえる。
体の震えが止まらない。
血を流してだんだん弱っていったあの時のアーサーの姿がフラッシュバックする。
絶望感に目の前が暗くなった。
「大丈夫かっ!!」
倒れかけたらしい。気がつけばルートヴィヒに腕を取られて支えられていた。
「なあ、あの子に何かあったらどないしよ?!死んでもうたら!!」
頭がガンガンして何も考えられない。
急に真っ青になって不穏な言葉を吐くアントーニョに驚くおばちゃん達に、フェリシアーノがフォローを入れる。
「えっとね…体弱い子なんだ。だからどこかで倒れたりしてるかもだし…おばちゃん達も探すの手伝ってもらえる?」
「もちろんよっ!あの真っ白な服は目立つし、他の皆にも声かけてあげるからっ!」
おばちゃん達はそう言って散っていく。
「アントーニョ兄ちゃん、大丈夫だよ!みんな探してくれるし、すぐ見つかるから!」
かけよってそういうフェリシアーノの声も耳に入らないようだ。
「探さな…あの子探さな……」
ブツブツとうわごとのようにつぶやきながら、アントーニョは駆け出して行った。
連絡係にフェリシアーノがその場に残って、アントーニョとルートヴィヒ、それにおばちゃん達が集めてくれた市場の大勢の人達で探したが、アーサーは見つからなかった。
大事なモノは一度手にしたらしっかりと抱え込んで絶対に手を離してはいけない…。
わかっていたはずなのに、何故自分はそうしなかったのだろう。
アントーニョは後悔と自責の念で気が狂いそうだった。
カークランドの名を持つ者として恨みを持つ者に連れ去られたか、単純に普通に何も知らない人間に連れ去られたか、もしくは探しきれてない場所で倒れているのか……
どちらにしてもここまで見つからない時点で普通の状況ではありえない。
「交代で探して見つかったら連絡いれてあげるから、あんた達はちょっと宿に帰ってなさいよ」
すっかり血の気を失ったアントーニョを心配して、人のよいおばちゃん達がそう提案してくれるが、
「こうしてる間にもあの子に何かあったら嫌やし、俺は残るわ。あの子に何かあったら生きていかれへん。フェリちゃん達は宿戻り」
と、状況をききにいったん戻ってきたアントーニョはまた雑踏の中へと走って行った。
「…アントーニョ兄ちゃん……」
フェリシアーノは困ったように眉を寄せると、ルートヴィヒを見上げる。
その視線に気づいたルートヴィヒも少し困ったように眉を寄せた。
そして
「俺が目を離したせいでもあるからな…。俺も残るからフェリシアーノは宿まで送ってもらってくれ。アーサーももしかしたら宿に戻る事もあるかもしれないしな」
と、ポンと軽くフェリシアーノの頭に手をおいた。
「仙人王?」
その情報が入ったのは翌朝の事だった。
ねこのみみ亭の酒場の片隅でルートヴィヒに寄りかかるようにうつらうつらしていたフェリシアーノは、眠い目をこすって体を起こした。
「東の霊山の上にいる不思議な人なんだけどね…」
と、おばちゃんは仙人王について一通り語ってくれたあと、
「でね、そこの子で菊ちゃんていうしょっちゅう下降りてくる男の子がいるんだけど、その子がね、お人形さんみたいに綺麗な真っ白な服の子を連れて歩いてたのを今日来たお客さんが見たっていうのよ」
「それだ!間違いないよっ!で?どこに行けば会えるの?」
眠気が一気に覚めたフェリシアーノが身を乗り出した。
いつも眠そうに細められているその目が珍しくぱっちり開いているあたりで、彼の本気が伺える。
おばちゃんの話によると、霊山の上まで行くのは無理だが、山の麓には彼との連絡用となっている庵があるとのこと、
「聞いたでしょ、ルートっ。俺ここにいるからアントーニョ兄ちゃんに伝えてきてっ!」
フェリシアーノは隣のルートヴィヒにそう言うと、さらに話をきくためにおばちゃんの方を振り返った。
0 件のコメント :
コメントを投稿