『サンタさん。クリスマスプレゼントにはかぞくをください。
おれだけのそばにいて、おれだけをみてくれる、おれだけのかぞく。
おとうとかいもうとがええです。
おれおとなになったらめっちゃつよくてやさしいおやぶんになってぜったいにたいせつにまもったるから、クリスマスプレゼントにおれだけのかぞくをください。』
(クリスマスには欲しいものをサンタさんにお願いするんですよ。
良い子にしていればきっと持ってきてくれますからね。)
そう教えてくれたのは実母亡きあと自分を育ててくれた乳母だった。
両親を早くに亡くしたアントーニョを育ててくれた優しい老女はクリスマスプレゼントに家族が欲しいと言った小さなアントーニョに困ったような笑みを浮かべた。
しかしどう考えても無理なこの願いは、驚いた事にその年のクリスマスにかなえられたのだ。
クリスマスの朝目覚めたアントーニョの隣には小さな温かなぬくもり。
ふくふくしたもみじの手をぎゅっと握ったまま眠る小さな赤ん坊。
ほわほわと柔らかい茶色の髪は、一房クルンと飛び跳ねていた。
それが自分の祖父とその正妻との間の双子の孫の片割れだとか、その父親である王子が暗殺されたため第一王位継承者となったその子の存在を安全のため隠して育てたかったとか、そのために王族ではあるものの祖母が身分の低い農民の娘で王位継承権の順位が果てしなく低い上、両親がいないために宮廷にほぼ関わる事のなかったアントーニョの家に白羽の矢がたったとか、そんな大人の事情は知る由もなく、またそんな事を知ったところでどうでもよかった。
小さなアントーニョにわかったのはただ、その赤ん坊がとてもとても大事な贈り物で、絶対に…自分の命に変えても守らなければならない存在だと言う事だけだった。
可愛い可愛い弟、ロマーノ。
ものごころついた時からひとりぼっちだったアントーニョに出来た、なにより大切な家族。
それから数年たって成長したロマーノが素直でない口をきくようになろうと、アントーニョが成長して大人の事情を知るようになろうと、それは変わらなかった。
未来の王ということでロマーノを狙う輩がいれば自分が守ってやる。
そしていつかロマーノが王となったなら、自分はロマーノを助け、ロマーノが治める国ごとロマーノを守ってやるのだ。
だってロマーノは人見知りで不器用で怖がりで…自分がいないとダメな自分のただ一人の可愛い弟なのだから。
そうして将来ロマーノが治める国のため、アントーニョは身を粉にして働いた。
権力闘争に明け暮れ身内同士での小競り合いを繰り返す貴族が多い中、積極的に西の国に害をなす他国との戦いにのみ赴いて、時に最前線で戦った。
自らが最前線で兵を鼓舞する稀有な王族。
評判は民から貴族、貴族から宮廷へと広まって、それまでは後ろ盾のない取るに足りない王族とみ向きもしなかった貴族達が蟻のように群がってきたが、興味はなかった。
将来ロマーノの補佐をする時に人見知りのロマーノのため自らが調停役を買ってでなければならないだろうと、一応誰とも当たり障りなく接して人脈を作るものの、そこに一切の個人的感情はない。
明るく裏表なく話しやすい人間…そう思わせる事ができれば、それ以上付き合いを深める必要性は感じなかった。
全てはロマーノのため。
自分だけしか身近にいない環境で自分だけを見て育って自分だけを頼りにしている可愛い弟、ロマーノのため…そのはずだった。
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