未来の王様……の護衛??
この男、ただのボケたお人よしな軍人かと思っていたが、実はものすごい大物だったのか?!
「お前…もしかして偉い貴族とかか?」
おそるおそる聞くと、男はこれにもあっさり
「俺な、アントーニョ=へルナンデス=カリエド言うねん。今の王さんの娘の子。ようは孫やで。」
とうなづく。
(マジ…か…。)
めまいがする。
名門とかそういうレベルじゃない。
(大物が良いとか言っても王族とか大物すぎるだろっ…)
と心の中で突っ込みを入れる。
太刀打ちできる気がしない…というか、無理だ。
無言で青くなったアーサーに、男、アントーニョは
「顔色悪いな。長話で疲れさせてもうたかな?堪忍な」
と、また斜め上な心配をし始める。
もしかしてこのボケっぷりはわざとなのか?そうなのか?
アーサーが混乱したまま
「なんで…王族が自分で落とし物とか探しに行くんだよ?!」
と、もうやつ当たりのように口走ると、アントーニョはこれまた当たり前に
「やって…クリスマスやのに一人とか暇やってんもん。あ、ちなみにな、うちの王さん、めちゃしょうもない男であちゃこちゃで女に手出して子供だけでも鬼のような数おるから、正妻以外の孫なんて特別なもんやないで?」
と、気が抜けるような、聞いていいのかどうかもわからないお家事情をあっさり口にする。
はっきり言って、西の国の人種が理解できなくなった。
こんなちゃらんぽらんな王族の国と戦って苦戦してたのか、自分達は…。
なんというか…色々な意味で勝てる気がしなくなってきた。
「王族のくせに…こんな得体のしれないガキ側に置いてていいのかよ」
「ええんよ」
「一応王位継承権とかあるんだろ?謀反とか疑われても知らねえぞ」
「少なくとも王様なじいちゃんや跡取りのロマーノとは疑われるようなつきあいしてへんよ」
「俺…世話になっても礼とか何もできねえぞ?」
「別に礼なんていらんよ?ていうか…秘密裏に金品送っておこか?」
「は?どこに?」
「自分の親に。」
「……なんで?」
「いや…物で気持ち埋められへんかもしれんけど、一応子供と引き離してる事になるんやし?自分の家教えたって?それ相応の見舞いくらいはしたいやん」
「………」
ちょっと待て…どうなってるんだ?と、発想がわからなくて焦るアーサー。
何故世話している方がされている方に物を贈る事になっているのだろう?
というか、実家に物を贈られるなんてとんでもない。
まだなんら成果を上げてない今、現在の状況を兄達に知られたら…考えるだに恐ろしい。
「自分なんやええとこのボンボンぽい感じするし、普通の金品じゃあかんかな?ロマに頼んでええ美術品でも手にいれたろか…」
アーサーが悩んでいる間もアントーニョの話はどんどん進んでいく。
ダメだ!どこかでストップをかけないとっ!
だが色々が急展開すぎて、全く良い考えが浮かばない。
「で?とりあえずどこに連絡いれたらええ?」
パニくっているアーサーをよそに、アントーニョはそう言ってアーサーの顔を覗きこむ。
「えっとな…」
「うん?」
「わかんねえ…」
「何が?」
「……全部」
もう何をどうしたらいいのか思いつかなくて、ついついもらした言葉にアントーニョは一瞬ぽかんとして、次に
「なんやっ、なんでそれ早く言わんの?!」
といきなり初めて声を荒げた。
もうその反応すらアーサーには意味不明だ。
パニックで涙目になっているアーサーに気づくと、アントーニョは少し険しくしていた表情を慌てて和らげて、少し焦ったように言う。
「あ、怒鳴ってもうて堪忍な。ただ…記憶ないならないて言うてくれたらもう少し心細うないように、色々してやれたと思うてな。心配せんでもええよ。何も覚えてへんならうちの子になり?親分が全部面倒みたるから」
安心させようとしてか満面の笑みを浮かべて請け負うアントーニョをアーサーは茫然と見つめる事しかできなかった。
『…なんでそうなる?…というか…思い込み激しすぎだろ、おい…。』
という言葉は声に出さずに飲み込んでおく事にする。
こうして、最強天然KYなのかもしれない男の誤解と思いこみでアーサーの西の国スパイ生活は幕を開ける事になったのだった。
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