生贄の祈り 第八章_2

「エリザさん、どうだった?」
アーサーの部屋を辞したエリザが向かったのはフェリシアーノの部屋だ。

本当は本人が見に行きたいと騒いでいたのだが、フェリシアーノがアーサーの側によるとアントーニョの不機嫌度が増すため、あとで様子を伝えるからと、大人しくさせておいたのだ。
そうでないと、へんなところで行動派なフェリシアーノは抜けだしかねない。

結局アーサーが体調を崩すと言うトラブルでアントーニョがつきっきりなため、どうやって自室を抜け出してアーサーと会った部屋までたどり着いたのかも謎のままだなのだ。

エリザが尋ねても
「え~、言ったら出れなくされちゃうもん」
と教えてもらえない。
これがギルあたりだったらフライパンで殴り倒すところだが、さすがにもう庇護国となった国の王子だと、そうもいかないので、放置中だ。

一応風邪という診断だが、他にも具合悪そうな様子で、でも本人からどこが痛いのか苦しいのかを教えてもらえないという事を話すと、フェリシアーノは
「ね、エリザさん。俺聞いてみちゃだめ?」
とエリザを見上げた。

「ダメに決まってるじゃない。トーニョはフェリちゃんがお姫様に近づくのすごく嫌がってるんだから。」
即答するエリザに、フェリシアーノは、なんで?と首をかしげる。

「俺ね、アーサーの事好きだから、ちゃんと幸せになって欲しいだけだよ?
最初はさ、王様もフランシスさんが俺に対するみたいに、一時的なお遊びでアーサー構ってるのかなぁってちょっと不安だったんだけど、ちゃんとアーサーの事好きみたいだしさ、アーサーだって王様の事とっても好きだから、なんで言えないのかわかんないけど、そこで具合悪くなったら嫌じゃない?」
フェリシアーノの言葉にエリザは目を丸くした。

「なぁに?フェリちゃんお姫様とそんな話してたの?」
「うん。ここ来る途中で王様が助けに来てくれてって話してたんだけどね。なんか、ああ、すっごく好きなんだな~ってわかっちゃう感じだったよ。でね、俺その時は王様がちゃんとアーサー好きなのかわかんなかったから、心配になっちゃったんだけど…」
「そっか~。フェリちゃんとは普通にそういうおしゃべりするのね…」
頬に手を当ててエリザは考え込んだ。

同じ年頃の子だからなんだろうか…。
そう言って独占欲が強いアントーニョが納得するのだろうか…。
考えながらちらりと目を向けたエリザの視線に気づくと、フェリシアーノはにっこり微笑んだ。

「あのね、俺エリザさんの事も好きだよ。美人だから♪ギルベルトさんは見かけおっかないけど、優しい人だよね。だから好きっ。アーサーは…可愛いから好きだし、兄ちゃんは兄ちゃんだから好きっ。みんなそれぞれ好きな部分は違うけど好きなんだ。」
「あ~うん。わかる。別にトーニョみたいにお姫様だけダントツに好きっていうんじゃなくて、大事な人の一人ってことよね?」
「うんうん。そんな感じ♪俺ね、みんながハッピーエンドがいいんだよ♪」

エリザ的にはアーサーとフェリシアーノが二人でピヨピヨとしているのも可愛らしくて良いと思うのだが、アントーニョはとにかくアーサーが少しでも心を許す相手は気にいらないという感じだ。

「とりあえず…今はお姫様がああいう感じでトーニョすごく気がたってるから、刺激するのはやめましょ。何か言いたい事があれば伝えてあげるくらいはするけど?」

「うん…俺の言葉伝えるってよりもさ、エリザさんが聞いてあげて?
一番大事な相手ってさ、意外になんでも話せないんだよね。
嫌われたくないって気持ちが先に立つからさ。
だから一番じゃない人が聞いてあげた方が良いと思う。
だからさ、むしろ王様にエリザさんが話せるようにお願いしてみて?」

フェリシアーノは鈍感なようで人の気持ちに敏感な子だとエリザは思った。
何も考えていないのかもしれないが、何かを感じ取っている。

「ちょっと行ってくるわね」
フェリシアーノを頭を撫でて、エリザは再びアーサーの部屋へと向かった。

「トーニョ、ちょっとだけいい?」
コンコンとドアをノックしたエリザは、相変わらずアーサーの傍らについているアントーニョに声をかけた。
「なん?ここじゃあかんの?」
「うん。できればトーニョと二人で話したいんだけど?」
「じゃ、あかんわ。無理。」
「少しよ?」
エリザが食い下がると、アントーニョは首を横に振った。
「あかん。その少しの間に容態変わってもうたらどないするん?」
二人の声に、うつらうつらしていたアーサーが薄めを開ける。
「…と…にょ。行って来いよ…」
かすれた声で言うアーサーに、あかん、とアントーニョはまた首を横に振った。
「一瞬でも目ぇ離したらほんま後悔するから。絶対に後悔するのわかっとるから。」
「…落ち着いて寝れない……頼むから……」
確かにここで言い合いをされたら、寝れないかもしれない。
そして…エリザは諦める気がなさそうだ。

「5分だけやで」
アントーニョは恨めしげにエリザをにらんで、席を立った。


「あのね、トーニョ、少し私にお姫様と話をさせてくれない?」
ベッドに横たわるアーサーがかろうじて視界の端に映るくらいの位置に移動すると、まずエリザが口を開いた。
「話せばええやん。別に口聞くななんて言っとらへんで?」
「う~ん、二人きりで話してみたいんだけど?」
「なんで?俺いたらあかんの?」
「お姫様が遠慮するから?」
エリザの言葉にアントーニョはガ~ン!という擬音が似合いそうな表情で固まる。
「あ~。悪い意味じゃなくてね」
「どこが悪い意味じゃないねん…結局…俺だけ気ぃ許されてへんてことやん……」
珍しく涙目になりかけるアントーニョ。
あ~、なんだか色々精神的に来てるなぁ…とエリザはそれを見て思う。
「あのね、私とかはわりと遠慮のない人種なわけなんだけどね…」
エリザは言った。
「他の人は違うのよ。フェリちゃんが言ってた」
「なんや、あのガキの入れ知恵かいな」
とたんに不機嫌になるアントーニョ。
それに苦笑してエリザは進めた。
「でもあの子はお姫様の事よくわかってるわ。それはトーニョだって認めるでしょう?」
痛いところをつかれてアントーニョは嫌な顔をする。

「で?」
「うん…あの子がね、お姫様からトーニョの事聞いた時、お姫様は、ああ、ホント好きなんだなってわかる顔してたらしいわよ。」

「はぁ?誰を?」
「誰って、あんたの他に誰居んのよ?あんたの話してた時って言ってるじゃない。」

「そんなわけないやん!じゃ、なんで俺にはなんも言うてくれへんの?」
「……自分の事考えてみなさいよ…あんただって言いたい事言えないでしょうか…」
「へ?」
「らしくもなく遠慮してるでしょ、お姫様には」
ぽかーんと口を開けて呆けるアントーニョ。

「好きな相手だと嫌われたくないから遠慮するもんなの。」
「せやかて…どこ痛いとか言うのまで、なんで気遣いするん?」
「あんただって自分が怪我したら相手が心配するから痛くないって言うでしょ」

「………」
「だから、あたしが聞いたげるから。いいでしょ?って……ちょ、何赤くなってんのよ、気持ち悪いっ!」

「しゃあないやん!好きな子に好き言われたら赤くくらいなるやんっ!
気持ち悪いはひどいんちゃう?!」
「うあぁ~どこの純情なお坊ちゃんよ?ありえないっ」
「うるさいわっ!さっさと聞いてきっ!」
エリザから顔をそむけてピシッとアーサーの方を指さすアントーニョ。
エリザもアントーニョをからかうのが目的ではないので、あっさり引いて
「じゃ、借りるわよ~」
と、アーサーの方へと向かった。


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