生贄の祈り 第七章_2

新しい人質…とったんだな……
ベルに連れて帰られた自室で医師を待ちながら、アーサーはボ~っと思った。

見るからに人懐っこい明るい感じの少年だった。
人見知りな自分ですら思わず親しみを感じてしまうくらいに…。

『友達になろう♪』
なんのためらいもなく笑顔と好意を向けられる性格がうらやましい。
自分みたいに愛想のない、面白みのない人間といるより、どうしたって楽しそうだ。
アーサーはため息をつく。

「アーサー、どないしたん?やっぱりあの子になんか言われたん?」
そのため息を聞き咎めて少し表情を厳しくするベルに、アーサーは
「いや、フェリはなんにも。…なんだか今日は朝から少し疲れてるだけ」
と慌てて首を振った。

いけない。自分が勝手にコンプレックスを感じて滅入っているのだから、何も悪い事をしていない彼を巻き込まないようにしなければ。
そうは思うものの気分は晴れないし、いつものようにふるまえそうにない。
そうするとやはりフェリを巻き込んでしまう。

「ごめん、ベル。絶対にここ動かないから冷たい水1杯もってきてもらえないか?」
と、一瞬ベルを部屋から追い出して、胸元のお守り袋から慎重に薬を取りだして、一錠選んで口に放り込む。
長期的に飲むとまずいものだが、一度飲むだけなら軽い風邪に似た症状が出るだけの薬だ。
これで風邪気味だから寝たいと言えば放っておいてもらえるだろう。

たぶん…これまで唯一の人質で、全てを当たり前に独占するのに慣れてしまっていたから、急にもう一人来た事に思考がついていっていないだけなのだろう。
一日すればきっと浮上する。
大丈夫…最悪また一人に戻るだけだ。
人質部屋には戻されるかもしれないがそれ以下にはならないだろう。

ずきん…と心臓が痛んだ。

一人になって人質部屋で……西の塔で思った時のように、アントーニョが優しかった頃の思い出を思い出すんだろうか……。
そして…その頃にはきっとその優しさはフェリシアーノに向けられている。

それを感じながら一人部屋で残された思い出とだけ過ごす日々が始まるんだろうな…と思うと、なんだか目まいがした。

つらい…と思うのは、最初は人質ですらなく、ただの生贄だった自分の立場を思えば、随分と贅沢なのだろう。
それでも…一度手にしてしまった物を失うのはつらい……。


「アーサー?!しっかりし?!!」
ガチャっとグラスを置く音。
気付いたらベルが戻っていて、顔を覗き込んでいる。

「とりあえず寝ときっ!すぐお医者さん来るさかいっ!」
とうながされて、逆らわずベッドに横たわる。
元々寝て放っておいてもらうのが目的なので異論はないが、ベルの慌てっぷりはなんなんだろう?とぼ~っと思った。


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