アントーニョは玉座に行儀悪く肘をついて、謁見の間でギルベルトの報告を受けている。
「今回湖の国を攻める兵を配置したから、慌てて連絡取ってきたみたいだな。」
ギルベルトはそう言って苦笑した。
風の国へのけん制のため、大地の国に中立を保たせようと大地の国が欲しがっていた湖の国を切り取って献上しようという太陽の国の行動は、当の湖の国の周りの小国にも波紋を呼んだらしい。
そのあたりの小国はこぞって太陽の国、あるいは、風の国へと、自国の安全をはかるために使いを飛ばしていた。
小川の国はそんな小国の一つだ。
今回は王位についたばかりのまだ幼いと言えるくらい若い王の双子の弟をぜひ側に置いて欲しいと申し出てきているらしい。
「あそこん子は確かにかわええ顔しとるそうやけど…なんでうちなんやろなぁ…」
「そりゃあ…隣国攻めてきてる張本人だからじゃないの?風に送って助力頼むよりは、攻めないでくれって攻めてる側に送った方が確実じゃない。」
何を当たり前の事を…という風にそう言うエリザに、同じ事を思いついたらしい男二人顔を見合わせた。
そしてそれを口にしたのはギルベルトだった。
「いや、動くか動かないかって意味で言うなら風の方がまだ確率たけえぞ?
トーニョは結局人質に影響されて動いた事ねえし…。
お姫さんだって結局最初はこちらの方が森の国との関係を維持する道具として来させてて、気にいった後だって、まだ外交的にはなんら便宜はかったりとかする機会ねえままだしな。
顔可愛くて気にいられる自信あるなら、まだそういうの好きで動いた実績ある風のほうだろ。」
「え~っとだから?」
あまりそういう関係を追って行く事が得意でないエリザは頭にはてなマークを浮かべた。
それに、これだからNOUKINは…と小さく吐き出されたギルのつぶやきをしっかり拾ってフライパンで殴り倒すのはお約束だ。
「つまり…やな、」
頭を抱えて床をゴロゴロ転がっているギルベルトの代わりにアントーニョが続けた。
「あのアホの差し金やないかと思い始めてんけど。」
「あ~~~!!!そっか~~。」
エリザはようやく合点がいったというようにうなづいた。
「でも…トーニョはともかくこんな不憫に見抜かれるような策しかうってこないって…外交の風も大したことないわね」
というエリザの言葉にギルベルトは半分立ち直りかけて涙目で立ちあがる。
そして、フライパンが飛んでこないように十分距離を取った上で
「その俺様さえ気づく事に気付かなかったNOUKIN女が…」
と言いかけて、空を飛んだフライパンに再び床に沈められた。
あ~あ、アホちゃう?フライパンは空飛ぶんやで…と、それを遠目で見てつぶやきながら、アントーニョは話を続ける。
「結局あのツラなんやろなぁ…。あの人形さんみたいな顔に皆騙されんねん。
せやから自分であのツラ下げて出て来んと効果半減やな。
あとは…自分の方が引っかけられた経験なくて頭に血ぃのぼってるんやろなぁ…。
結局苦労知らずのボンボンがドン底から這い上がって来た叩き上げに勝とうって思うのが甘いねん。」
にやにやと人の悪い笑みを浮かべるアントーニョ。
「お前…相手が白いととことん弱いのに、腹黒合戦だと強いよな…」
と、寝てれば良いのにまた起きあがってきて余計な事を言うギルベルトは、当然のごとく、アントーニョにアイコンタクトを送られたエリザに再度フライパンで沈められた。
そして…今度こそ静かになる。
「じゃ、断るのね?」
と、普段ならギルベルトが取る確認を、撃沈したギルベルトの代わりに取るエリザに、アントーニョはきょとんと
「なんで断るん?」
と聞き返す。
「え?だって…風の策略なんでしょ?」
と、こちらもきょとんとするエリザに、アントーニョは
「策略わかっとるのに見逃してやる道理はないやん?せいぜい利用させてもらうわ」
と、またニヤリと黒い笑みを浮かべて言った。
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