生贄の祈り 第五章_5

「なあ…ベル。この国とさ、風の国って結構違うのか?」
城に帰って着替えると、ベルが入れてくれた温かいミルクティを飲みながらアーサーは髪を丁寧に拭いてくれているベルにきく。
「そりゃ違う国やから同じやないけど?」
質問の意味をとらえかねてベルが首をかしげる。

そこで
「えと…性格?トーニョとフランとか…国の雰囲気とか…」
と付け足すと
「あ~、そういう意味」
とベルはうなづいた。

「簡単に言うとうちは力の国なんよ。親分もそうやけど良く言えばまっすぐで悪く言えば単純。あんま飾りたてる事もせえへんしね。
領土増やすんも戦って勝って併合するいう感じ。

それに対してあちらさんは技の国言うんかな。良く言えば文化的いうか…飾りが多くて、悪く言えば回りくどいんや。
領土にしても戦闘はあんま得意やないんやけど、外交得意でな。色々噂流したり根回ししたりで滅ぼすっちゅうより、知らん間に取りこんでる感じ?
で、王さんもそれぞれそんなお国柄反映してて、あっちの王さんはオシャレさんやね。
いつも男女問わず綺麗な人連れてて、あちこち小国回って気にいった子いると人質に出させて手出してはるらしいわ。」

「トーニョは?違うのか?」

「あ~、うちは今までそういうの関わってへんかったからよう知らんけど、親分の場合は人質って文字通り人質で、あんま可愛がったりせえへんかったみたいやな。
一応人質用の部屋が集まった場所あるんやけど、一人以上の人質がいるのみたことあらへんし。面倒な事嫌いやさかい、趣味で必要以上の人質とったりせえへんみたいや。

アーサー連れてきたんも最初は森の国をこっち側の陣営にいれて他の2国けん制するためやったんよ。せやから最初はその人質用の部屋の一室に部屋用意しとったんやけど…。
アーサーに会って一目で気に入って即、当時女官長やってはったエリザさんに自分の隣のこの部屋用意するように命じはったんやって。

別に身内やから言うわけやないけど…親分は身内と他人めっちゃ分けはる人やから、今後どこぞの人質取りはったとしてもアーサーと一緒にはせえへんで。
あんたは親分の特別でもう身内やさかい人質ってくくりには入ってへんし戻らへん。

風さんの方はそういう区別ないんちゃうかな?
一時的に気にいって側におきはっても、別のお気に入りできたら普通の人質にみたいな?
そうやないとあんなとっかえひっかえできひんわ。」

髪がすっかり乾くと、ベルは今度は櫛で丁寧に梳いてくれる。
その感触がとても気持ち良くてアーサーは軽く目を閉じた。

「まずそういう事はないけど、万が一何かあって親分があんた手放す言うたら、うちと一緒に暮らせばええんやから、この国におる限りなんも心配せんでええんよ。あんたはうちの可愛い弟なんやからね。」

そう言ってぎゅっと後ろから抱きしめるベルからは石鹸の良い匂いがした。
普通の家族…というものはこんなに温かいものなんだろうか…。
本当にベルの弟に生まれたら人生幸せだっただろうな…と、アーサーはそのぬくもりを感じながらそう思った。




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