生贄の祈り 第五章_3

「これ、すごく美味いなっ。」
テーブルに置かれた籠いっぱいの焼き菓子。
それをリスのように頬張って幸せそうな顔をするアーサー。
「せやろ?お姉ちゃん菓子焼くのめっちゃ得意なんやで~。」
と、胸を張るベル。
その和やかな空気の流れる部屋のドアをノックして入って来たのはアントーニョだった。

「ずいぶんぎょうさん焼いたんやなぁ。」
と籠の中から小さめのマドレーヌを一つ手に取って口に放り込む。
「うん、美味いわぁ。やっぱりベルの焼き菓子は世界一やな。」
ご機嫌で言うアントーニョにアーサーもうんうんとうなづいた。

「な、ベル、これ包める?」
「包めますけど?」
「なら包んだって。アーサー、これ持って海行くで」
アントーニョは笑顔で宣言をする。

「海?」
「せやで~。約束したやん。水遊びにはまだ早いから船乗せたるわ。行きたない?」
「行きたいっ!」
アントーニョの言葉にアーサーが珍しく積極的に主張すると、
「ほな、そうしよか~」
とアントーニョは破顔した。

「じゃ、あったかい格好した方がええね。着替え持ってきますわ。」
ベルも笑顔で立ちあがってそう言うが、それをアントーニョがとどめる。

「ええって。天気ええし。」
「でも…」
「そんなに長い事おれへんから」
「そうですか~?」
ベルは納得がいかないようだったが、それ以上は主張せず、
「ほな菓子包んできますわ~」
と籠を持って出て行った。



「お前らさ…ホントに行くのか?」
船の準備に奔走するエリザを横目にギルベルトは窓から空を見上げた。
「行くわよ。なんで?」
鼻歌まじりに支度をするエリザにギルベルトはため息をつく。
「わかってんだろ?今は晴れてっけど、じき降るぞ」
「だからいいんじゃない。」
笑みを浮かべるエリザ。
「なんだか俺…姫さん可哀想になってきたんだけど?」
「変態の餌食にする方がよっぽど可哀想でしょ?」
「どっちもどっちだと思うぜ」
言ってゆっくり歩き出すギルベルトにエリザは
「あら?ギルは行かないの?」
と声をかける。
「んなわけねえだろ。あったかい飲物用意させに行くだけだ。すぐ戻る」
その声にギルベルトは後ろ手に手を振った。




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