そう言って、アントーニョは嫌そうに風の国の王の謁見を申し込む書簡を指でつまんでギルに放り投げた。
「それ…臭いわ。このさい文字読みにくーしとるそのわけわからん模様の類は我慢したるけど、この臭い匂いは勘弁や。こんな迷惑な紙で公式の手紙送ってくるその腐った根性直してから来てほしいんやけど……」
馬鹿にしたように言うアントーニョからその書簡を受け取って、ギルベルトはクンと匂いを嗅いでみる。
アントーニョが言うようなひどい匂いと言うわけではないのだが、香りというのは確かに好き嫌いのあるものだし、公式の文書にここまで趣味に走った用紙を使うと言うのは確かにいかがなものかと思ったが、まあそれはともあれ、問題は用紙の良し悪しではない。
「まあ確かにな…三つ巴を崩したくねえからお互い滅ぼすまではやんねえってのは暗黙の了解なわけだけど…王自らおでましになるってのは本来ただ事じゃねえぞ。そのあたりでお姫さんほだされなきゃいいけどな…いっそのこと断るか?」
アーサーは今の時点でそれほどフランシスに対して好意を持っているわけではない、と、判断したのは確かに自分だが、それはあくまで今の時点で、ということだ。
良くも悪くも世間知らずなお子様の眼に、一国の国王が自分のために危険を冒してまで他国まで迎えに来てくれたと言う出来事がどう映るだろうかというと、想像に難くない。
ほだされる可能性は十分あると思う。
そう危惧するギルベルトの主張をアントーニョはにやりと笑って退けた。
「そんだけの事してもお姫さんの心が動かんかったら、さすがにへこむやろ?
せやからへこましたったらええねん。二度と立ち直れんでちょっかいかける気のぅなるくらいにな…。
ベルは…難しいか。エリザ、自分ならできるな?
お姫さんにあの色魔の悪い噂思いつく限りふきこんどき。ギル、自分もやで?」
「任せてっ。」
と、やはりにやりと笑みをうかべるエリザ。
そして…二人してあくどい笑みを浮かべる幼馴染達を前に、ギルベルトは秘かに悪い大人達に翻弄される事になるであろうアーサーに同情した。
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