太陽の国に送った書簡で提示した条件はかなり破格のものだった。
それに対してよもや断りの返答が返ってくるとは思わなかった。
風の国の王、フランシスは太陽の国から送られてきた書簡をヒラヒラと白く美しい指先でかざす。
「こんな透かしも模様も入ってない愛想のない紙で手紙送ってくるとかありえないよね。もっとありえないのはこんな美しさのかけらもない国に俺のチビが拉致られてる事だよ」
フランシスは美しい顔をしかめてその書簡を放り出した。
初めて見染めたのはまだアーサーがまだ幼児の頃だった。
クルンと綺麗にカーブした金色の長いまつげに縁取られた大きなまんまるのペリドット…。
外交で出かけた森の国で、自分を珍しいモノでも見るような目で凝視してきたその綺麗に澄んだ瞳にまず魅せられた。
自分のモノより若干落ち着いた色の金色の髪はピンピンと跳ねていて、さぞや固いのかと思いきや、触れてみると小鳥の羽のように柔らかい事に驚く。
ぷにぷにとした薔薇色の頬、唇を落としてみると甘い香りがした。
欲しいと思って父王に強請ってみたら、自分に甘い父親は圧力をかけてあっさりとその幼子を手に入れてくれた。
しかし風の国に着いた途端、子供は何も口にせずただただ泣いて弱っていき、見かねた周りがまだ国から一人で引き離すには幼すぎるのだろうと、14になったら再度この風の国に引き取るという約束の元、森の国へ帰したのだ。
決してあれの所有権を放棄したわけではない。
その証拠にフランシスは皇太子時代はもちろんのこと、王となってからもしばしばアーサーに会いに森の国を訪れた。
次に連れて帰る時はもう森の国へ帰すつもりはなかったから、綺麗な服、美味しいお菓子など、自国の自慢の品々を与え、風の国で暮らす事がいかに幸せであるかをアピールもしてきたつもりだった。
そしてもうすぐ14になったら引き取ろうと、飽きっぽいフランシスにしては随分と気長に準備をして待ったのだ。
初めて手に入れた時が確かアーサーが3歳くらいの時だから、実に10年も待って今更横取りされるなんて冗談じゃない。
しかし…最後に会った時は13という年齢の割にかなり成長が遅く、まだまだ子供と言ってもいいような風貌で、来年来た時にはまだ手出せないかなとフランも思っていたくらいだったのに、会わない少しの間に急成長でもしたのだろうか?
そう思った瞬間、はらわたが煮えくりかえった。
「ああ…腹立つな…あの蛮族がっ!」
と、フランシスはよくサファイアに例えられる美しい蒼色の双眸をスッと細めた。
あの傷一つないすべすべした白い陶磁器のような肌…。
見た目に反して柔らかい、金糸の髪。
少し薄めの淡いピンクの唇。
そして…フランシスが何より気にいっていた大きく丸い夢見るようなペリドットの瞳…。
どれも触れて良いのは自分だけなのに…。
あの太陽の国の蛮族の浅黒い手が自分ですらまだ触れていないあのまだ華奢な体中を這いまわり、秘められている部分を暴いたかもしれないと思うだけで鳥肌がたつ。
(まあ…あの野蛮で無骨な人種が何も経験のないあのチビに悦びを教えてやれるとは思わないけど…)
フランシスは玉座に肘をついて考え込んだ。
できれば初めては全て自分が良かったのだが…非常に不愉快だが起こってしまった事はしかたない。
それよりも、おそらく乱暴に無理矢理手折られた事によって心が傷つき弱っているであろう今なら、そこに優しくつけこめば容易く手に堕ちてくる気がする。
元々反抗的なところのある子供だったから、普通にこちらに連れてきても簡単には心を許さなかっただろうし、こうなったら今回のハプニングをせいぜい利用させてもらおう。
あの反抗的な態度がなりを潜め、ペリドットが自分の手によってトロトロに蕩けて潤み、あの華奢な白い手足が自分を求めて絡みついて情けをねだる様は、確かに美味しそうだ。
そうだな…美味しく頂く下準備くらいは蛮族にやらせてやるのも仕方ない。
仕上げを自分でやって自分好みの味つけに完成させればいいのだ。
そう折り合いをつける事にしたフランシスは、繊細な作りのガラスのベルをチリンチリンと鳴らした。
そしてかけつけた使用人に言う。
「俺、太陽の国までチビ迎えに行くから。早急に太陽の国の王に謁見するアポ取るように大臣に言っといて」
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