生贄の祈り 第二章_3

「あれ…どう思うよ?」
エリザがアントーニョに頼まれて用意した部屋にアーサーを運びこみ、医者が診ているのを待っている間、ギルベルトは少し離れたソファに座って、同じく隣に座っているエリザに声をかけた。



「どうって?」
と、首をかしげるエリザ。

「まずいと思わね?」
「何が?」
「トーニョさ、心臓えぐり出そうとしやがったんだけど?」
「げ…あの子の?」
「いや自分の」

「……まずいわね……」
そこで二人ともは~っとため息をついて、身の回りの世話のためにベッド脇に付きそうベルの隣でずっと立ちすくんでいるアントーニョに目を向けた。

「まあトーニョって…実は直情型のNOUKINだからねぇ…」
頬に片手をあててふ~っとため息をつくエリザ。
「NOUKINなお前にNOUKINて言われたくないだろうけどな、トーニョも」
というギルの頭を本当にどこから出してくるのかフライパンで殴るエリザ。

「あんたはNOUKINな職業のくせに色々気にしすぎんのよ」
「いや、お前ら気にしなさすぎだからなっ。少しは気にしろよ」
ギルベルトは当たり前に殴られた頭を涙目でさする。
「トーニョは無条件に好意向け過ぎだ。まだ向こうも多少欲得あっても友好を結ぶ方向で動いてくれりゃあいいけど、危害むける方向に動かれるとやばいぞ。」
「じゃあ飽くまでアントーニョに好意向けるようにさせればいいでしょ?」

「簡単に言うけどよ…どうやってだよ」
「ん~、力技で?」
「おい…」
「風や大地の国の意向うけて動いてたって、うちの国に付いた方が得だって思わせればいいわけだから、むしろあの子の方を取りこんであの子から自国に対してこちらにつくように発信させればいいのよ。森の国を完全にこちら側の陣営に取り込めれば国としても他の2国へのけん制にもなるし一石二鳥じゃない。」

「なるほどな…それ上手い考えだな。」
「でしょ?トーニョはそのための融通ならいくらでもきかせる気あるでしょうし、今回みたいに勘違いした馬鹿が手出ししないように気をつける事と、本人の説得くらい?問題は」

「…それ俺様が?」
と聞くギルにエリザはにっこり首を振って
「ううん。あたし♪」
と自分を指さす。

「……お前…楽しんでるな?」
「あらぁ…一応トーニョの為って言うのも考えてるわよ?まあ…多少趣味と実益兼ねてるのは認めるけど…」
「ま、いっか。じゃ、俺様は内に対してはフォロー程度で外に目光らせとくから宜しくな」
「了解っ!」


「親分…すみません。うちが確認せえへんかったから…」
ベルは普段の陽気さからは考えられないほど気落ちした様子で唇をかみしめて肩を落とした。

ギルベルトとエリザと医者を伴ってアーサーを連れて帰ってきたアントーニョは、もう一目で様子がおかしいとわかるくらいだった。
一時アーサーの心肺が停止したのだとギルベルトの口から説明を受けた時、ベルは気を失いそうになった。

極端なくらい身内にしか興味を示さなかったアントーニョが唯一執着した相手である。
どれだけ大切に思っていたかは他の誰にわからなくても一緒に育った乳兄弟のベルには感じられていた。
だからこそアントーニョ自身が離れている時にアーサーの身を任されたのだと思う。
それなのに何故簡単に離れてしまったのだろう…。
せめて部屋に無事送り届けてから確認を取れば良かったのだ…。

ほんの短時間に憔悴しきったアントーニョの様子を見て、ベルは泣きそうになる。
アントーニョは他に対して容赦ない分、身内に対して非常に愛情深い人間だ。
国で一番偉い国王という身分についてからでさえ、しばしば自分より乳兄弟であるベルを優先してくれたりする。

いつもなら自分がつらくても悲しくても乳兄弟のベルが落ち込んでいれば真っ先に慰めてくれるアントーニョが、今はそんな余裕もなくうつむいていた。

「…堪忍な…今親分めっちゃ余裕ない…。自分が一番悪いってわかっとるんやけど、何か言われたらやつあたりしてまいそうやから…」
だから言わんといて…と、握りしめるこぶしが震えている。

それでもぎりぎり気を使われているのが切ない。
せめてやつ当たってくれればまだいいのに…と思うが、それをしないのがアントーニョなのだ。

「水…替えてきますわ」
呼吸が戻ったと言っても意識は戻ったわけではなく、冷たい水の中に長く浸かったためか高熱をだしたアーサーの額に乗せるタオルを冷やす水の入った小桶を持ってベルは立ちあがった。

それはせめて自分の出来る事をしなければ…というだけではない…。
数日間ではあったが自分が守ってきた子が死にかけているのを見ているのが正直怖い。
何かに怯えたようになかなか懐いてくれない子が徐々に打ち解けていってくれる様は、なんだか人慣れない野生の小動物のようで可愛かったし、最後には本当に頼りにされているのがわかって嬉しかった。

「なんでうち離れてもうたんやろ…」
廊下に出てパタンとドアを閉めた瞬間、ベルはその場にしゃがみこんで嗚咽をもらした。


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