自分はあの美しい海に拒絶されたのだろうか…
人質になれず…泡にもなれず…自分はどこに行けばいいのだろう……
この世の全てからはじかれた気になって悲しくなってくる。
苦しさと悲しさとで胸がつまり呼吸ができない。
縋れるモノなどないのに手は苦しさのため掴むものを探して宙をさすらう。
その手が何かに触れ、そのまま包み込まれた。
…温かい……
ぽつりぽつりと手を濡らすのは何なのだろうか……。
かすかに心をかすめる好奇心を満たすために起きるには疲れ過ぎていて、でも、ひどく苦しくて眠ってしまいたいのに眠れない。
息ができない…。
一生懸命空気を取り込もうと口を開いても、胸からヒューヒュー音が漏れるだけで一向に吸う事も吐く事もできなくて、苦しさに手を包むものを必死でつかんだ。
何かが遠くで聞こえて、雨が激しくなる。
嵐……
何かを引き裂くような雷のような大きな音が聞こえたような気がした。
自分の名を呼んでいるようで…そうでないようで…
手がグイッと引かれて身体ごと引っ張られた。
そのまま身体全体が温かい何かに包まれる。
さすがに急激な変化に驚いて、重い瞼を無理やり開けた。
ぼんやりとした視界に映るのは褐色の肌…。
ああ…夢を見ているのか…と虚ろな気持ちで思う。
夢はもう見たくない…。
「これ飲んで。」
と何かが口元に差し出される。
黙って固まっていると
「薬やから…これ飲んだらきっと良うなるから…元気になるから……」
と半分泣いているような声で言葉を添えられた。
…元気になって?…それで?
そんな事きっと誰も望んでいない…。
「お願いやっ…飲んだってっ!頼むわっ!このままじゃ自分死んでまう!」
悲痛な声が聞こえるのは気のせいだ。
だって…自分はきっといなくなった方がいい…。
アーサーはゆっくりとまた目をつむった。
優しい夢は見たくない…目が覚めた時につらいから…。
意識を失う前…悲鳴を聞いた気がした…。
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