生贄の祈りver.普英_12_3

「部屋は?荒れてた?」
途中エリザがきいてくるのに、ギルベルトは首を横に振った。


「じゃ、別に誰かに連れ去られたとかでもないだろうし、あれじゃない?
日中ベッドにいるのに飽きて、こっそり散歩とか…」
「ならいいんだけどな…。それだったらそれで言ってくれたらつきあうのに…」
「嘘つき。あんた絶対止めるでしょ」
「一人でこっそり抜け出されるくらいなら、止めねえでつきあうぞっ」
そんな会話をしながら部屋の前に行くと、すでにルートが待っている。

「ルッツ、お前と一緒…なんてことはないな?」
一縷の望みを託してきいてみたが、ルートは首を横に振る。

「なんか心当たりは?」
と今度はギルベルトがルート見ると、彼は少し考え込んだ。

そして、ルートではなくエリザが
「あの…あたしがあんたにお姫様と二人で話させてって言った日あるじゃない?」
と、手を小さくあげて始める。

「あの時さ…西の塔に戻りたいとか言ってたんだけど…違うよね?
あれから説得して普通に生活してたし…」

「とりあえず行ってみようぜ」
返事を待たずにギルベルトはまた走りだした。
とにかく夜風も冷たくなってきた事もあるし、一刻も早くみつけなければ…。


ひどく嫌な予感がした。
前回の事があるからかもしれないが…とても嫌な思い出の残る場所だ。

ギルベルトは前回と同じく一段飛ばしで階段をかけあがり、前回のまま鍵が壊れているドアを開ける。
開けたとたんにビュ~っと吹いてくる風に身震いした。

一瞬…開いたバルコニーに白い幻が見えた気がして思わず瞬きをすると消えたが、ギルベルトはガクリとその場に膝をつく。
ひどいトラウマになっているらしく、思い出すだけで幻のようにその場面が再現されて、体の震えが止まらない。

「ギル、大丈夫?」
腕を差し伸べてくるエリザの手を借りてなんとか立ちあがったが、まだ膝がガクガクしていた。
目まいがする。

「いねえ…な。戻ろう…」
この場所は本当にダメだ。

フラフラしながら部屋を出ようとするギルベルトだったが、エリザがぽつりとつぶやいた言葉で足を止めた。

「ねえ…?……あのあと、ここの窓って誰も閉めなかったの?」

サーっと血の気が引いた。
あのあと…?

バッと引き返してギルベルトはバルコニーに出る。

低い柵の前に…ふわふわの白いスリッパ。
おそるおそる手に取って確認する…いや、確認するまでもない…それは自らが用意してアーサーに与えたモノだ…。特別はき心地がいいように…吟味に吟味を重ねて選んだ物だ。

「う…わあぁぁぁ~~~!!!!!」
次の瞬間、ギルベルトは海に飛び込んだ。


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