生贄の祈りver.普英_10_10

そんな会話を交わしていたエリザが去ったあと、ギルベルトは再びアーサーに視線を移した。

大きな宝箱は確かに言いえて妙だが、それに大事にしまうにはまず、この神様との綱引きに勝たなければならない。


目の前で真っ青な顔で眠るアーサーは、ただの風邪…というにはあまりにも容態がよろしくないように見受けられる。
もしくは…ただの風邪を引いた時の危険性が自分たちの時のそれと大幅に違うという事なのだろうか…。

前回の時と違ってヒューヒューゼイゼイはしていないものの、今日は顔に血の気がなく、どこか苦しいのか時折顔をしかめて体を硬直させる。

自分が看るからというルートの申し出を断って、ギルベルトは時折アーサーの額のタオルを冷やしながら、意識が戻るのを待った。

ルートが看ていてもどうせ気になって他の事が手に付かず、こうして側についているのは同じだ。
ひどく苦しそうな様子を見るのはつらいが、目を離していつのまにか息絶えていた等と言う事になったら、それこそ後悔してもしきれない。


ロヴィーノに言った言葉は本当の事だ。
まだ小国だった頃、ギルベルト自身色々な物を切り捨てて自身の身を守り、国を大きくしてきた。

その中には当時大切だったものもある。
それは物だったり、思い出だったり…兄弟もいた。

当時は国以外の何かを守る余裕もなくただひたすらにがむしゃらに進んできて、今こうして側にいるエリザも…生き残っているのはほんの偶然で、あの当時なら必要とあれば切り捨てていたと思う。

戦って戦って戦って…3大国の1国になった今でも、風の国の王のように自分の楽しみのために人を集めたりした事はない。
興味がない…というより、余裕のない時代が長すぎて、発想自体がわかなかった。

そんな中でみつけた、なくした多くのモノを補って余りあるくらいの大事な宝物。
今まで見た事がないほど儚く柔らかく美しくて…真っ白な存在。
失えるわけがない。

例え風の国の王でも神様でも…絶対に渡したりはしない。

しかし目を覚ました後も、アーサーはただただつらそうに泣くばかりで、どうして良いのかわからない。
なんでもしてやりたい…と思う気持ちとは裏腹に何もできない事に内心苛立つ。

「なあ…なんかして欲しい事とかないか?」
柔らかい髪を梳きながら聞いても、泣きながら首を横に振るアーサーに、悲しくなる。

でも、お前泣いてるじゃねえか。つらいんだろ。
俺はなんでもしてやるし、大抵の事できる力もあるんだぜ?
なのに俺には言えないのか?

言いたい言葉はたくさんあるものの、どれも衰弱しているアーサーを追いつめそうで言えない。
神様に勝とうと思うのはさすがに難しい…。



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