とりあえず一旦はアーサーの寝室に戻ってルートと3人でお茶をして、その後をルートに任せて様子を見にエリザの執務室を訊ねたところ、エリザはそう言って、嫌そうに風の国の王がアーサーに寄越した手紙を指でつまんでギルに放り投げた。
「それ…臭いわ。このさい文字読みにくくしてる気障ったらしい模様の類は我慢するけど、この臭い匂いは勘弁よ。
きつすぎる香水って最悪。
甘ったるい匂いで頭痛くなりそうよ。
もしかして本人もこんな悪臭ぷんぷん撒き散らしてるわけ?
他人の迷惑考えないその腐った根性直してから来てほしいんだけど…」
馬鹿にしたように言うエリザからその書簡を受け取って、ギルベルトはクンと匂いを嗅いでみる。
エリザが言うほどにはひどい匂いと言うわけではないのだが、香りというのは確かに好き嫌いのあるものだし、相手の好みがわからない状態でここまではっきりした香りのものを贈ってくるのはいかがなものかとも思わないでもない。
それでも話すべきところはそこではない。
手紙の用紙や封筒についてのエリザの感想は全てスルーして、ギルベルトは話を進めた。
「まあ便箋の趣味はおいておいて、敵さんも本気ってことだよな。
まあ確かにな…三つ巴を崩したくねえからお互い滅ぼすまではやんねえし、だからお互いに必要となって王が訊ねていっても手は出さねえってのは暗黙の了解なわけだけど…
それでも王自らおでましになるってのは本来ただ事じゃねえ。
そのあたりでお姫さんほだされなきゃいいけど…」
アーサーは今の時点でフランシスに対しては会った事もないわけなので当然、特別に好意を持っているわけではないが、それはあくまで今の時点で、ということだ。
良くも悪くも世間知らずなお子様の眼に、一国の国王が自分のために危険を冒してまで他国まで迎えに来てくれたと言う出来事がどう映るだろうかというと、想像に難くない。
ほだされる可能性は十分あると思う。
それでなくとも相手は非常に他人に好かれるタイプで、自分は逆に他人に好かれるタイプではないという自覚はあるので、ため息しか出ない。
そう危惧するギルベルトの主張をエリザは拳を振り上げて退けた。
「あんた何弱気になってんのよっ!
これはね、逆にチャンスよ、チャンス!!
それだけの事してもお姫様の心が動かなかったら、さすがにへこむでしょ?
だからへこましてやったらいいのよっ!
二度と立ち直れないでちょっかいかける気がなくなるようにねっ!」
そう上手く行くなら今まで苦労はしていないわけなのだが……
それでもアーサーを引き渡すと言う選択肢を取る気がない以上頑張るしかない。
「とりあえず…風の王の来訪もあんまり先に引っ張れねえしな。
その前にアルトを舟釣りに連れて行ってやろうと思ってるから、船の手配をしておいてくれ。
この手紙はそのことを話す時にでも渡すから」
風の王からのアーサーへの手紙をヒラヒラと振りながら、ギルベルトはそう言ってエリザの執務室をあとにした。
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