生贄の祈り 第四章_4

「トーニョ、ちょぃ警備の事で相談あんだけどいいか?」
コンコンとノックして部屋に入ると、ギルベルトはそう声をかけた。
「あ~…」
アントーニョは頭からブランケットをかぶって布団の虫になっているアーサーに目をやって少し迷うが、
「意識戻りはったなら着替えた方がええと思って着替え持って来ましたから、その間に」
と、ベルが後ろから顔をのぞかせると、
「そうやな。着替えさせてやって」
と、アントーニョは立ちあがって部屋を出て行った。

パタンとドアが閉まると、ベルはよいしょ、と、椅子の上に着替えを一式置いて
「アーサー様、起きてはります?」
と声をかけた。

「ベル~」
その声にアーサーはホッとしてブランケットから顔を出した。
そのいかにも小動物が懐いています的な感じに、ベルは胸がきゅんとする。
かっわ可愛ええなぁ~~と、ほわほわと笑みを浮かべ
「汗かかれたでしょ。着替えお持ちしましてん。」
と言うと、失礼します、と、アーサーのパジャマを脱がせた。

「じ、自分でできるから…」
そのまま身体を濡れタオルで拭いてやろうとすると、わたわたするアーサーに、ベルはくすりと笑みを浮かべる。
「背中とか自分じゃ無理ですやん。ええから任せたって下さい。」
と言うと、アーサーは少し困ったように眉尻をさげた。

「ごめんな…。ベルほんとは偉い人なんだろ?」
アーサーの言葉にベルは
「偉い人?」
と首をかしげた。

「トーニョ…国王の乳兄弟だって聞いた…」
「あ~」
ようやく合点が言ったという感じでベルはうなづくと、口を開いた。

「別にうちのお母ちゃんが親分の乳母やったんで親分が目をかけてくれはるだけで、うち平民ですし、偉い事ないですよ?それ言うたらアーサー様やって王子さんやないですか。」

「…王子っていっても田舎の小国だし…あの…ベル…」
アーサーは少し言いにくそうにくちごもった。

「なんです?何でも遠慮なく言うたって下さい?」
にこりとベルが返すとアーサーはおずおずと後ろを振り返って大きな丸い目でベルを見上げる。

うあ~目ぇおっきいな~。ガラス玉みたいやなぁ…。まつ毛なんてうちより長いんちゃう?
お人形さんみたいや。
と、内心色々思いながらベルは言葉を待った。

「あのな…」
「はい?」
「…様って…なくちゃだめか?」
「はい?」
「…いつも一緒なら普通に様とか敬語とかじゃなくて…普通に話しちゃだめか?」
緊張のためかちょっとウルっとしてそういう様子はなんというか……

な、なんやのっ?!めっちゃかわええ~!!!親分、マジかわええんですけど、この子!!
内心悶えて転げ回りたくなるが、それをすれば引かれる事請け合い…な事は理解している。
ベルは内心を押し隠して、アーサーのぴょんぴょんはねたフワフワの短い金糸をなでた。

「うん。公式の場ではあかんけど…二人の時はええで。
うちの事お姉ちゃんやと思って頼ったって。
うちも親分やギルベルトさん、エリザさんみたいにちゃんとやないけど、少しくらいは武術も剣も習っとったんよ。
せやからこれからはアーサーの事弟やって思って守ったる。」
そう言って視線を合わせてにっこり笑う。

「うちな、周り年上ばっかりやったから、弟欲しかってん。
せやから弟みたいな子ぉ出来て嬉しいわぁ。よろしゅうな。」
そう言うと、うん、と、アーサーははにかんでうなづいた。

13という実年齢より童顔で小柄なアーサーは、女のベルよりまだ小柄で、とてもあどけない感じがする。
今まで世話を焼かれて守られているばかりだったベルは、そんな自分より幼い子供に懐かれて頼られるのがとても新鮮で楽しい気分だった。
しかも…たぶんエリザやギルベルトはもちろん、アントーニョよりも懐かれているようでかなり嬉しい。

ああ…可愛ええなぁ…。
ベルは秘かに間違って自分をこの子につけたエルナン・アルバラードに感謝をした。

ベルがそんな風に和んでいる頃、アーサーの部屋の隣、アントーニョの部屋では幼馴染3人が集合していた。




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