勇也は嘘はついていないだろう。
嘘をつく理由もないし、誤った情報を流させたいなら、こんな若者ではなく、もっとそれが上手そうな海千山千な人物を送り込んでくると思う。
だから多少の希望のすり合わせは必要になる可能性はあるが、さほど警戒はしなくてもよさそうだ。
あと父方の方で問題なのはただ一つだ。
錆兎は父方の親族を判断するための最後の質問をなげかけた。
「冨岡家の方が蔦子さんに害意がなく、むしろ手厚く保護したいと言う考えなことはわかりました。
ただ私は蔦子さんのではなく義勇君の実質の代理人役なので、確認させてください。
さきほどから義勇君についての言及がありませんが、冨岡家側としては蔦子さんと同程度の保護を考えていらっしゃいますか?」
そう、そこだ。
今までの話は全て蔦子に関してで、義勇に対しての何かは言及されていない。
それが勇也の感情的なことを話しているためなのか、あるいは冨岡家の総意なのかが知りたい。
まあ…蔦子だけでも身の安全を保障してくれるなら、負担が半分になるので悪くはないのだが…。
錆兎の問いに勇也は乗り出した身を少し引いて、う~ん…と腕を組んで考え込んだ。
そして少し困ったように眉尻を下げ、
──どこまで話して良いのか微妙なところなんですが…
と言う。
「とりあえず蔦子ちゃんに関しての発言が多かったのは俺の私情もありますが…他にもいくつかありまして…。
まずうちの従兄弟はかなり年の離れた俺の姉と蔦子ちゃん以外、全員男なんですね。
だから…もちろん蔦子ちゃんの意志が一番ではあるんですが、婚姻という形で法的に完全に様々な権利を持って守るという事ができるのは彼女だけなんです。
うちの姉は既婚者ですしね」
なるほど…とは思う。
確かに遺産や婚姻前の資産については特有財産で配偶者にはなんら権利はないが、夫婦になれば相互扶助の義務が生じるので、他から守るための権利と言うものが主張しやすい。
そういう意味では彼女を守りたいと強く思っているために籍を入れたいというのは別におかしなことではない。
というか、義勇が泊まっていった日にそれまでの親族との関係をあれこれ聞いていたのだが、少なくとも義勇が小学生の頃に双方の親族と接触を断った直後は、姉の蔦子は仲の良い従兄弟達と会えなくなったのを残念がっていたというから、関係は良かったのだろう。
それからは一切接触がないらしいから、彼女の側が積極的に父方の親族と距離を置かなければと思ったのはひとえに母方の叔父が与えた情報からである。
それも考慮に入れるなら、この情報は相手からしても隠すようなことではない。
錆兎がそう判断して彼が続けるのを待っていると、勇也は悩んだ上で、何度か口を開いて閉じてを繰り返し、結局大きなため息と共に言葉を吐き出した言葉は
「それとは別に、義勇君は少しばかり厄介な問題を抱えているので…
俺個人としては蔦子ちゃんとは切り離して対応したいんですが…」
と言うものだった。
──すみません、ひどいですよね…
と言う勇也。
その表情は本当に申し訳なさに溢れていて、まあ彼を責めても仕方ないと言う気になる。
そこで錆兎は
「いえ、言いにくいことを打ち明けてくださって感謝します。
私個人の立場としましても、もちろん姉弟両方に思い入れを持って頂ければりそうではありますが、蔦子さんの方だけでも身の安全を確保頂けるなら、それはそれでかなり負担が減るので、ありがたくはあります」
と、相手の自己非難に対して柔らかく返した上で、
「さらに…その、義勇君だけ抱えている厄介な問題というものについて教えて頂けるとありがたいのですが…」
と、相手にうながした。
そこに
「仲の良い姉弟なので、義勇君に何かあれば蔦子さんも無関係というわけにも行かないでしょうし、私の側もすでに信頼できる弁護士と共に動いているので、守秘義務は守ります」
という相手に対するプレッシャーとこちら側に信頼を持ってもらえそうな情報も与えておく。
それに話す気になってくれたらしい。
勇也は
「そうでしたか…。
これは…証拠とかはないので、飽くまでうちの母が蔦子ちゃんのおばさんから聞いた話なんですが…」
と、前置きして話し始めた。
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