「じゃ、そういうことで男二人はこの時間に一緒はまずいし、うちに居るから。
なんかあったら電話をくれ。すぐ駆けつける」
錆兎さんは姉が納得したところで軽く片手をあげて、義勇を外へと促した。
そうして連れていかれたのは、『すぐ駆けつける』という言葉が大げさじゃないくらいの近さ。
胡蝶家から歩いて2分。
立派な門構えの大きな日本家屋だった。
真菰さんの家なのに?と思っている義勇に気付いてか、
「ああ、ここは元々俺と真菰の爺さんの家で、両親が海外を飛び回っていた俺たちはここで一緒に育ったんだ」
と教えてくれる。
「昔はここで爺さんが道場をやっていて、お弟子さんもたくさん住み込みで居たんだが、爺さんが招かれて海外に殺陣を教えに回るようになって、道場の機能自体は爺さんの弟子だった杏寿郎の親父さんに引き継がれて、今は杏寿郎の家でやっている。
今の会社の仲間はその時の剣道仲間だ。
で、今日、お前が駅に居るって教えてくれたのも、剣道やってた頃の妹弟子だ」
と、その言葉で、誰かが自分がそこに居ることをこの人に伝えてくれたのか…と初めて理解した。
それでもまあ普通の人なら知ることはない。
錆兎さんのように優秀で人脈の広い人だからこそ、こうして助けてもらえたのだ。
と、義勇はやっぱり錆兎さんはすごいなぁ…と、そこに行きつく。
ただすごすぎて本人はすごく気さくなのに少し近寄りがたい気がしないでもない。
…と、そんなことを思っていたのだが、家に招かれて数分後、その唯一の欠点とも言えない欠点が解消されることになる。
連れてこられた錆兎さんのお爺さんの家は錆兎さんや真菰さんが普段使っている母屋とお弟子さんが居た頃に使っていて、今でもたくさんの部屋があって客間として使っている離れがある広い広い家だ。
今回は義勇と二人ということもあって、錆兎さんはまず母屋の少し小さめの和室に案内してくれた。
そこには大きなローテーブルがあって、その上には
──時間がないから食事の準備できなかったから、何か取るなりレトルト食べるなりしてね。
という真菰さんの書置き。
それをまじまじと見たあと、はぁ~と大きく息をつく錆兎さん。
そして義勇を振り返ると、男らしく太い眉尻を下げて、少し困った顔で聞いてきた。
「すまん。保護するとか言って飯がない。
食材はあるんだが急だったから真菰が作る暇がなかったみたいで…。
本当に情けないことだが、俺は料理はレンチンか湯煎くらいしかできない、真菰に言わせると料理に関してはへっぽこな男なんだ。
すぐ食いたいならレトルトならあるし、食べたいものがあるなら取るが…」
「…へっぽこ……」
と、その言葉に思わず吹き出してしまう。
「錆兎さんでも出来ない事があるんですね。ホッとしました」
と義勇が言うと、錆兎さんは
「あ~…俺は勉強と武道、あとは仕事は出来るが、真菰の言葉じゃないがそれ以外は本当にへっぽこな人間だぞ。
掃除はかろうじてできるが、洗濯物は干そうとして皺を伸ばす時にひっぱりすぎて破いて以来、下着は乾燥機付き洗濯機で、その他はクリーニング愛用者だし、料理はレシピを見てもグラム数とか書いていない適量とかがわからなくて、悩んでいるうちに真菰や内弟子さん達に台所から追い出されて終わっていたから…」
と大きくため息をついた。
「じゃ、俺が作ります。
両親が共働きで家事は姉と交代だったから」
と、義勇はポケットからゴムを出して長めの髪を後ろで結ぶ。
「え?良いのか?」
と少しびっくりした顔の錆兎さんに、
「エプロン借りますね」
と、台所の椅子にかけてあったエプロンを借りる旨を伝えて身に着けると米を炊き、許可を取った上で冷蔵庫の中を覗いて適当に何品かおかずを作った。
錆兎さんは彼の諸々の優秀さを目にしている時の義勇のように、ほおおぉ~~と心底感心した視線を向けてくる。
間違いなくすごい人なのに、こんなことでそんな顔をしている彼は少し可愛かった。
こうして義勇が作った夕飯を二人で食べて、洗い物は二人でして、その後、居間に戻って食後にとお茶を淹れたところで、
──さあ、じゃあ状況把握を始めるかっ。
と錆兎さんが言った。
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