こうして義勇がまず着いたのは胡蝶家だった。
そこには胡蝶姉妹と2歳下の従妹の栗花落カナヲが3人で住んでいる。
今日はそこに義勇と錆兎さん、それに錆兎さんが呼んだ真菰さんが集まっていた。
こんな時間に男の俺が若い女性の家に居るのは好ましくないと思うから、言うべきこと、やるべきことが終わったら俺と義勇はすぐ爺さんの家に移動するから」
と、錆兎さんが言うと、クラスメートで義勇にはちょっと手厳しいしっかり者のクラス委員である胡蝶しのぶは
「いいえっ!兄さんならいつ来てくれても大歓迎ですっ!
むしろ姉さんが迷惑かけてごめんなさい」
と、ずいぶんと柔らかい様子で言うのでびっくりしてしまった。
その声音で錆兎さんを兄のように信頼しているんだなとわかってしまう。
まあ義勇もつい先日会ったばかりなのにこんなに頼りに思ってしまうくらいの人だから、幼馴染でずっと一緒だったらそうもなるだろう。
というか、こんな頼もしい兄のような幼馴染がずっとそばにいて羨ましいと思った。
「蔦子さん、先日は失礼した」
と、錆兎さんは玄関からあがることなく玄関先で立ったまま真菰さんとカナエさんと共に出てきた姉に頭を下げるとちらりと真菰さんに視線を送る。
それに真菰さんが頷いた。
「えっとね、言われた通り、蔦子ちゃんには義勇君はうっかり聞き忘れていた宿題の諸々をクラス委員のしのぶちゃんに聞いて教えてもらうためにこっそり家を抜け出したって言って、義勇君を迎えに行くからって出てきてもらった。
こっそり出た理由はこんな夜に行くって言ったら、止められると思ったからで。
叔父さんにはしのぶちゃんのお姉さんが蔦子ちゃんの親友で、どうせこれから行くなら泊めてもらおうと思うから、帰りは明日だし大丈夫ってことで」
真菰さんはそういうが、その言葉とは裏腹に、自分が着くよりあとに錆兎さんと一緒に来た義勇に姉は少し不思議そうな顔をしている。
そこで錆兎さんは、蔦子さん、と姉に呼び掛けて自分に注意を向けさせた。
──まず嘘をついて、嘘をつかせて申し訳ない
と、錆兎さんはかけらも悪くないのに頭を下げる。
そのうえで説明をした。
「まず俺が二人の身の安全の保護の確保について引き受けたからには、感情的な要素の入らない情報から客観的な事実を割り出したい。
そのためにはまず、事実が割り出されるまでは二人にも外からのアクションでぶれてミスリードされないように、二人に対して権利の発生する人間、はっきり言ってしまえば父方母方問わず親族からは一定の距離を保ってほしいんだ。
渦中にいると誰が味方で誰が敵と決めつけたくなるし、味方と思い込んだら頼りたくもなる。
だが味方だと思い込んでいた相手が実はそうではなかったら、孤立無援よりもまだ危険だからな。
俺も真菰もカナエも、冨岡家とは全く関係がなくて、その資産にもなんら権利のない人間だから、俺達で客観的な判断をさせてもらって、安全だと思えばそちらを頼ってもらっても構わないし、もちろん、このまま俺達に任せてもらっても構わない。
互いにミスると互いまで道連れにして地獄行きになる可能性があるから、慎重すぎるほど慎重に対応させてほしい」
「えっと…それは真一叔父様のことで……」
と姉が少し戸惑ったように口にするのに、錆兎さんは
「両方だ。父方も母方も。
少なくともここ1週間くらいは二人についてなんらかの権利を持つ人間からとにかく距離を置いて欲しい」
とにこりとどこか頼もしく感じるような笑みを浮かべる。
それを後押しするようにカナエさんが
「錆兎君はね、本人もすごい人だけど、起業している関係で弁護士さんのつても多いから、全てを任せてしまえば安心だから」
と姉の肩をポンと叩いた。
姉もなまじ両親が亡くなったことで義勇の諸々まで背負わなければならないと気を張っていたので、親友の全てを投げても大丈夫と言う言葉に少しほっとしたようだ。
「とりあえずね、今日は情報収集という名の昔話をしながら一晩女子会だねっ」
と、そこで真菰さんが盛り上げるように言うのに、こっくりと頷いた。
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