まだ小さいから…あの着物が似合う頃になったら…
と言われてから10年ほど。
おりしも両親が亡くなって叔父が接触してきたのが、まさにあの着物を着られるくらいの年頃なのが怖い。
祖母がどのくらいの背だったかは知らないが、母が祖母から受け継いだという着物を165㎝の姉が着られるので、おそらくおはしょりを調整すれば義勇も余裕で着られるだろう。
そんな時期に両親…特に母が亡くなってしまったのは辛い。
しかし叔父の何が悪いとかを義勇自身もはっきりわかっていないので、姉に説明できないし、叔父しか頼れないという状況でなんとなく嫌だから…という理由で疎遠にするようにいうのも、全てを背負わなければならなくなる姉の立場を思えば辛い。
だからせめて叔父にすべてをゆだねるではなく、単なる話し相手くらいに留めておいてもらうしかないと思ったのだが、姉が共に居ても叔父がいるのは何か怖い。
そんなどうしようもない状況で追い詰められて大学の最寄り駅に逃げ込んだ。
だが駅だって終電の時間が来たら閉まってしまう。
そうしたらどこに行こう……
突然行って泊めてくれるような友人なんていない。
そんな事をかんがえているうち、1人の青年の顔が脳裏によぎるが、義勇は否定するように小さく首を横に振る。
最初に断られたのを再度お願いしてさんざん迷惑をかけることになったのにこれ以上はありえない…
あまりに図々しすぎて呆れられてしまう。
そう考えると、両親が亡くなった時点で自分は本当に独りなんだなと義勇は思った。
悲しさと心細さで涙が止まらない。
そんな時だった。
──助けが居るなら連絡しろ。電話は教えただろう?!
振ってきたのは少し呆れたような声。
嘘だ…と義勇はぽかんと口を開けて呆ける。
だって連絡していない。
だがその様子からして、明らかに義勇のためにわざわざ足を運んでくれたとしか思えない。
偶然…にしてはあまりにありえない時間と場所だ。
色々がくるくる回る。
都合が良すぎる展開に、びっくりしすぎて言葉がない。
もしかして彼は本当に困っている義勇を助けにきてくれたおとぎ話の勇者なのかもしれない。
などと脳内で思って、でもそんなことを口にしたらさすがに正気を疑われそうなので
──え…錆兎さん?…あの…なんで…??
と、とりあえず聞いてみると、錆兎さんはそれには答えず
──その理由もお前の事情も長くなるし場所を変えるぞ。
と言ったあと、その前に…と、義勇がこうしている理由を簡単に聞いてきた。
いわく…義勇は未成年だから連れて行くには保護者である姉に連絡を入れなければならないが、言っていい事悪い事、どのように言えばいいかなどをかんがえなければならないかららしい。
その説明でいよいよ聞かれたくないあたりも全部話さざるを得なくなるかと思ったら、聞かれたことは、姉が家に居るか否かとこっそり家を出た理由。
それに姉は家に居ることとまでは良いとして、後者をどう説明すればいいかと悩んだ挙句、叔父が家に来ていたからと答えた。
これじゃあ絶対に伝わらないよね…と自分でも思ったのだが、何故かわかってもらえたらしい。
『帰宅したらお前が近寄りたくない母方の叔父が居た。
姉は今回の諸々のトラブルを叔父に頼らず解決したいと言うのを、単に親族に頼らず自分で解決したいだけで、叔父を避けたいからだとは理解していない。
だが叔父に色々知られて手を回されるのは好ましくない。
…そんな感じの認識で良いか?』
と、まさにその通りな説明をされて、びっくりしてしまった。
あれだけの言葉でここまで察するなんて、錆兎さんはエスパーなんだろうか?
それともやっぱりおとぎ話の主人公補正?
と本当に感心してしまう。
ともあれ、これで錆兎さんの脳内では義勇を保護してくれるための様々な道筋ができたらしい。
真菰さんに連絡をして色々手配した上で、義勇を駅から連れ出してくれた。
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