祖父の葬式以来なので、1年弱ぶりくらいの母の実家。
義勇が訪ねていくと、まずキッチンで少し冷たいお茶を出されてその場で飲むように言われる。
なるほど。
ここでは着物を汚さないように飲食禁止なのだな、と納得して、義勇がそれに目を向けると、叔父が
「ああ、おじいちゃんが亡くなったからね。
本格的に遺品整理をしているんだけど、ここは元々はおばあちゃんの実家だったから、おばあちゃんの物の方が多いんだ。
おばあちゃんの娘時代の着物とかも綺麗な状態でとってあるから、いずれは蔦子に着てもらうかな。
少し開けて見てみるかい?」
と笑みを浮かべる。
そして数枚のたとう紙のひもを解いてくれた。
中に見えるのは美しい絹の数々。
色とりどりの花や蝶、毬などの模様に義勇は目を奪われた。
そんな中でも目を引いたのが、濃いめの青の地に淡い水色の花の模様の美しい着物。
派手さはないのに凛とした美しさがあって、目を引き込まれる。
そんな風にそれに止まった義勇の視線に叔父は破顔した。
──さすが義勇。母さんの孫だね。
と言われてコテンと小首をかしげる義勇に、叔父は本棚の中から大切そうに古いフォトファイルを出してきた。
──ほら、見てごらん。
と開いたファイルに収納された写真に目をやると、目の前の着物を身に着けた清楚な美少女。
──綺麗だろう?義勇のおばあちゃんだ。祖母と孫というより親子みたいに君に似ている。
確かに少女と母、そして母と義勇よりも、少女と義勇の方がよく似ている。
というか、まるで義勇を女性にしてそのまま成長させたような美しい少女だ。
──これはおばあちゃんが18の頃。まだまっさらで汚れのない少女の頃の時代の写真だよ。
叔父がうっとりした目で言う。
今同じことを言われれば感じる違和感も、子どもの義勇にしてみれば、祖母本人には会ったことはないし、よその老人を見ていれば、やはりそれなりに年を経てシミや皺が刻まれていたりするので、若い=まっさらな綺麗さと言うのにも納得してしまった。
そして
──おばあちゃんも着物もすごく綺麗だね。
と、深く考えることなく頷く。
──義勇にそっくりだろう?
──うん。
と、その言葉にもこっくり首を縦に振ると、叔父はもう一枚の写真を見せてきた。
──これはもう少し前の写真。たぶん義勇と同じくらいの年の頃の。
と、いう言葉に写真に目を落とすと、思わず、ほおぉ~~と声が漏れる。
だってそっくりだ。
さきほどよりもだいぶ子どもらしい、蝶と花の模様の赤い着物を来た少女。
もし同じ着物を義勇が着たら、まるで双子のように見分けがつかないんじゃないだろうか。
そんな義勇の考えを読み取ったように、叔父は義勇を立たせて隣の和室へ。
そこには居間で広げられていたものよりもだいぶ小さなたとう紙がちんまりと置いてあった。
中身は写真の着物。
──これ…本物だぁ…
と、写真と同じ着物であることに少し興奮する義勇に叔父が笑みを浮かべる。
──せっかくだから着てみるかい?蔦子にはもう小さいしね。
と言われて、義勇はコクコクと頷いた。
深い意味はなかった。
それは女の子用ではあったが姉によく遊び感覚で姉の着れなくなったワンピースを着せられたりもしていたし、家ではそのまま遊んだりすることもあったので、外に出なければ問題ないという感覚だった。
それよりなにより、自分にそっくりな少女と同じ格好をしてみるというのが面白い気がしたのだ。
義勇としては洋服感覚でささっと着て終わるつもりだったのだが、叔父はなかなか本格的に準備をしていたらしい。
上と下に分かれた綿の肌襦袢と裾除けの上に白と淡いピンクの絹の長襦袢。
この長襦袢が肌触りが良いだけではなくて可愛らしくて、なんだかこのままでも十分な気がしてしまうくらいだった。
その上からようやく振袖。
子どもの義勇から見てもそれは上等な物とわかって少し緊張するが、身に着けるとなんだか気分が上昇する。
そのあと叔父が髪も綺麗に整えてくれて、仕上げにと唇に薄紅の紅を引いてくれた。
そうして姿見の前に立つと、本当に写真の中の少女そのままの自分がいる。
自分で言うのもなんだが、すごく愛らしい。
着物すごいな、さすがだな、と、鏡の前で映る姿に見惚れていると、少し離れてその様子を見ていた叔父が、
──本当に面白いくらいそっくりだね。そうだ、写真を撮ろうか。
と言うので、義勇もこのまま脱いでしまうのがもったいない気がして頷いた。
単にスマホか何かで撮って、それを印刷してもらって姉に見せたら喜ぶだろう、と、そんな感覚だったが、叔父は違ったらしい。
──地下に撮影用に光の入らない部屋があるんだ。そこで映そう。
と、義勇の手を取って義勇がこれまで知らなかった、地下室への階段へと足を向けた。
0 件のコメント :
コメントを投稿