──俺ァそこまでやれって言ってねえぞっ!!告白だけで良いんだァっ!!
いきなり怒鳴る実弥に宇髄は天を仰いでため息をつく。
相手によっては喧嘩だな、こりゃあ…と思いながらも、その相手は錆兎だ。
同じレベルで喧嘩なんてしてやるはずもない。
ということでコソコソと片付けが面倒なものを実弥からも錆兎からも遠ざけながら傍観者に徹している宇髄の目の前で、錆兎が実弥にむかってにこっと笑みを見せた。
──そこまでと言うのは、付き合いの話か?、理由の罰ゲームについて話したことを言ってるのか?どちらだ?
──両方だァ!
──ふむ…しかしだな?普通告白をすれば付き合う付き合わないという話にはなると思うぞ?
激昂する実弥に淡々と返す錆兎。
もういちいちお説ごもっともだ。
実弥もさすがにそう思ったのだろう。
沸騰しきっていたような温度が少し下がった気がする。
その反応に錆兎はさらに恐ろしい質問を返してきた。
「…で、俺としては前述の通りの理由があって付き合いたいという方向にもっていった。
だがそれが気に食わないということなら、不死川はどういうつもりだったんだ?
ここで告白までしておいて『付き合いません、理由もありません』と言い切ったなら、俺はずいぶんと人間性が終わっている男という判断がされると思うんだが?
そうして俺の名誉と社会的地位に問題が起こったとなれば、当然それを頼んだも同然の宇髄と俺の関係は悪くなる。
もちろん義勇が嫌な思いをするというのも大前提な?」
おわああぁぁ~~!全部ぶっこんできやがったかあぁ!!
自分がやらかしたわけではないが、錆兎の言葉に宇髄まで動揺する。
もちろん当事者の実弥はもっと動揺しているようだ。
客観的に考えれば錆兎の言い分はすべて正しいのだが、自分がやることを客観視できるような男なら、19年も初恋をこじらせてはいない。
最後の義勇が嫌な思いをする=傷つくという1点以外のデメリットはおそらくたった今指摘されたことで気づいたのだろう。
昔から根っから悪いやつではないのだが、ひとたびこうと思い込むと他が見えなくなり、実害が出ていても修正も効かない奴だった。
それを宇髄が実害が少なくなるように実弥がいない場所で必死にフォローしたりもしていたのだが…。
例えば…
粗暴な態度で絡まれやすくて、自分と一緒に居たら危険だろうと、懐いていてそばに居たがる弟妹を外では殴ってでも自分のそばに寄らせないようにしていたが、すでに弟妹であることなんか知られまくっているのだから、守れる兄がいなくてかえって危険になる弟妹達を宇髄がその時手の空いている知人も使って保護してやったりしていたのも今となってはいい思い出だ。
妹達はそのことを本当に感謝してくれて、社会人になっても今弟たちともども自分達がこうして無事過ごせているのはあの時の宇髄の気遣いのおかげだと、年に一度、年賀状を寄こして礼を言ってくれている。
唯一すぐ下の玄弥だけは実弥に殴られてもきかなくて、喧嘩で顔にデカい傷を作って、今でも実弥はそれが自分のせいだと玄弥を自分から離そうとして、一緒にいたい玄弥となかなか大騒ぎの兄弟喧嘩を繰り広げたりするのだが…。
腕に覚えのある実弥がそばにいたほうが玄弥は安全なのだと宇髄がいくら言っても実弥は思い込んだら一筋すぎてききやしない。
まあ…そんな風に自分の考えを変えない実弥ではあったが、今回のことは”それでも良い”と思っていた範囲を超えて指摘されるまで気づかなかったことだらけで、そこは動揺したのだろう。
しかも錆兎が感情的にならず理路整然と説明を始めるものだから、言葉も出ない。
「俺は不死川とは良くも悪くも交流がなかったと思っているんだが?
何かそこまで陥れられなければならないような恨みを買っていたのか?
宇髄は?
宇髄はお前にはずいぶんと気をつかっていたと思うんだが、宇髄にも何か恨みでもあったのか?
義勇は…まあずっと扱いがアレらしいが、そこまで嫌がらせを続ける理由はなんなんだ?
何かよほどのことがあったのか?」
矢継ぎ早に問い詰められて、実弥は口をパクパクしている。
そんな実弥に構うことなく、錆兎の声音に何故か徐々に熱がこもっていった。
「俺については…まあわからないでもない。
競争社会に生きてきたからな。
本分とは無関係なところで追い落としをかけられることなど腐るほどあった。
まあ意味もなく落としてみたくなる何かがあることもあるだろう。
宇髄も同じくだな。
こいつも色々出来すぎてよく妬まれる人間だったからな。
同じく追い落としをということもあるのだろう。
だが義勇についてはわからん。
正直…これを殴れるなんて頭がおかしいんじゃないか?
この1週間、子どもの頃の写真とかもみせてもらったが、控えめに言って天使だった。
それが東大の合格がかかっている入学試験の条件だったとしても、俺はあれに暴言を吐くなんて精神力は持ち合わせていない。
それを怒鳴り殴り…そしてこんなに綺麗に愛らしく成長したらしたで、罰ゲームで告白なんて嫌がらせをしようと言う神経がわからん。
しんっけんにわからん」
真顔で語るその旧友の姿は、いつも優しく微笑みながらも義勇を語る時だけは何か目が逝っていて怖かった義勇を溺愛する彼の姉を思い起こさせた。
…あとで聞いたらこの1週間の間にずいぶんと仲良くなってチャットで義勇談議に花を咲かせる同担の友になったらしいが……
まあそんな事は置いておいて、実弥もようやく色々が追いついたらしい。
──違えよっ
と、勢いのなくなった声でそれでも言った。
──違う?何がだ?
と、わかっているんだろうに敢えてわからぬふりで首をかしげる錆兎が少し怖い。
──嫌がらせじゃねえっ…。落ち込んだら慰めてやるつもりだった……
あ~あ、とうとうバラしたかぁ…と、宇髄はこれで終わりの気持ちだったのだが、錆兎は終わらせてやる気はないらしい。
「慰める?何故?
というか、罰ゲームで傷ついたとして、その罰ゲームの主催者に慰められたとしたら、殴り倒したくなるだけじゃないか?
俺と宇髄のことはとにかくとして、お前は義勇に何をしたかったんだ?
好意を持っていて慰めることをきっかけに自分に気持ちを向かせたかったのか、単に罰ゲームの告白ということで嫌がらせをしたかったのか。
前者なら普通はわかる他人の気持ちがわからないレベルの底辺のバカだと思うし、後者ならやり返してこない相手を選んで嫌がらせを続ける最悪の人間性の嫌な奴だと思うんだが、どっちなんだ?
それとも他に何か理由があるのか?」
淡々と追い詰める錆兎。
そこにとどめを刺したのは、ちょうど錆兎が義勇の口に運んでいた小皿に取り分けておいた鮭大根が切れたことでいったん口の中の物を飲み込んでしゃべれるようになった義勇の、
「不死川が俺に好意を持っているなんてはずは絶対に何があってもありえないから、後者だと思う。
でも今は錆兎もいるしどうでもいい。
それより鮭大根のおかわりが食べたい」
という言葉だった。
おそらくそれで緊張の糸がプチっと切れたのだろう。
──っざけんなぁ!!!
と実弥がいったんはテーブルに置いたグラスを手で払って立ち上がる。
中の日本酒がまるで映像作品のように綺麗に飛び散った。
まあそれも想定して普段は敷いている少し良いラグマットを取り去ってフローリングのままにしているので、いちいちその下準備をしておいた自分を心の中で褒める宇髄。
そうして実弥はそのままいつものように手を振り上げたが、それが義勇に届く前に今日は宇髄が知る限りで最強の防御システム…こと、錆兎がそれを軽く防ぐ。
──俺の恋人に何をする。
と、宇髄が知る鷹揚で気の良い男とは違う顔で低く言う錆兎に、本能に忠実な男である実弥は、これは無理だと悟ったのだろう。
──帰るっ!!
と、攻撃を防ぐために握られた腕を振り切って、一言そう言って部屋を出て行った。
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