錆兎が宇髄から聞いた義勇のアパートに突入する前日の話である。
その日は金曜日で、錆兎と実弥が宇髄に招かれて宇髄のマンションに集まっていた。
せいぜい会社が同じだったので、たまに宇髄を介して共に昼食をとる程度だった。
錆兎の認識だとむしろ宇髄が実弥と一緒の時はもう一人の同級生である義勇と3人でいるというものだったので、そこで何故義勇の代わりに自分が招かれたのかがわからない。
──今日はなぜ俺が?普段、不死川と居る時は一緒に居るのは冨岡じゃないのか?
と、不思議に思って聞いてみると、宇髄から返ってきた答えは、
──あ~、冨岡はあんま飲めねえから。今日は良い酒が入ったから飲み明かそうと思ってな。
と、まあもっともとまではいかないが不自然すぎるものでもなかったので、錆兎はなんとなくすっきりしない何かを飲み込んで、ありがたく銘酒のご相伴に預かることにした。
そうして3人で雑談をしながら宇髄のマンションにたどり着くと、宇髄の第一声が
──錆兎、つまみ頼むわっ。
で、あるいは自分を誘ったのはこれだったのか…と、錆兎はそこで初めて納得する。
そう、宇髄も料理が出来なくはないが、錆兎は幼い頃から忙しい祖父の元で料理もみっちりさせられて育っているので、年季が違う。
旨い酒には旨いつまみをと思ったのか…と、言われて冷蔵庫を覗けば刺身用の良い魚が丸ごと入っているのを見て察してしまった。
数種類の魚をさばいて大皿に綺麗に盛り付け、他にも冷蔵庫の中にある素材で数品ちゃちゃっと作り、なかなか美味そうに出来たつまみの数々を見て思う。
呑めなくても料理だけ食いに冨岡も誘ってやればよかったのに…と。
正直、錆兎は冨岡義勇についてあまりよくは知らない。
宇髄の小学生時代からの幼馴染で、内気な性格。
現在は同じ会社のシステム部に所属している。
知っているのは本当にそのくらいだ。
まあ愛らしい顔をしているし、性格もわりあいと嫌いではないタイプなのだが、とにかく接点がない。
宇髄と実弥と共に一緒に食事をする機会は何回かあったが、その時はなぜか宇髄が間に入るような形であまり話す機会が持てない。
たいていは友人知人の輪を広げようとする宇髄があえてその態度なので、あるいはそのあたりは宇髄的にあまり自分にかかわってほしくないのかもしれない…と、錆兎はその意を汲む形で本当にその時のみの付き合いに留めることにしていた。
なので今日の呑みに実弥と共に誘われたのは正直驚いたとともに、宇髄が近づけたくなかったのは小学生組の幼馴染の中で義勇の方だったのかと思う。
まあそうと知ったからと言って、多少好奇心が刺激されなくはないが、宇髄が話したくないのならスルーしておこうと思うくらいの理性と分別はあったので、追及はしない。
そしていつもは長くはない昼の休憩のひと時に飯を食いながら世間話くらいしかしたことのない実弥と今回初めてくらいに普通に話をすることになった。
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