──突然で押しかけてすまない。実は俺は冨岡の事が好きなんだ。
ある晴れた夏の日の朝、来客を告げるチャイムの音に玄関のドアを開けた義勇は、そう言われてパチクリと目を瞬かせた。
まず思ったのは“ありえない”だ。
凛々しいのにどこか親しみやすい性格も…
程よく筋肉がついたしなやかな体躯も…
とても珍しい宍色の髪も…
そして…少し吊り目がちなキラキラと澄んだ綺麗な藤色の目も…
みんなみんな好きだった。
ずっと憧れていた。
だからこそわかる。
ありえない。
この展開だけはありえない。
なにしろ彼は社内でも人気者だ。
義勇以外にも彼を好きな人間なんてやまといる。
部署も花形部署で、その中でも目立って仕事が出来て出世頭でもあるのだ。
本来ならシステム部の片隅にひっそりと存在する義勇なんて認知されるはずがない。
だが義勇は彼の親しい友人である同僚宇髄の幼馴染なので、2,3回、宇髄と同席する形で彼と一緒に食事をしたことがあるので、顔くらいは知られていたのだと思う。
でもそんな社内でも有数の人気者が自分なんかを好きになってくれるはずがないのは人の感情の機微に疎い義勇でもさすがにわかった。
いや、でももしかしたら、錆兎の言うこの”好き”と言う言葉は、義勇が考えるような特別な”好き”ではなくて、単に社交辞令的な知人として好ましいという意味かもしれない。
あるいは宇髄と何か義勇の話になったのか、あるいは義勇の事が嫌いなもう一人の幼馴染の不死川あたりが義勇を悪く言って、錆兎がそれをたしなめて、わざわざ義勇は不愉快な人間ではなく好ましく思える人物なのだと伝えにきてくれたのだろうか…。
ああ、そう思えばそんな気がしてきた。
いや、それしかない。
それなら義勇だって応えねばならない。
「ありがとう。
鱗滝はそんな言葉言われ慣れているとは思うけど、俺も鱗滝のことは好きだ。
とても好ましい人物だと思う」
義勇がそんな当たり前の言葉を口にしたら、錆兎はぱあっとお日様のような笑みを浮かべて
──そうかっ!良かった!!
と言う。
いやいや、社内随一の人気者なんだから、義勇に好かれたくらいで何故そこまで喜ぶ?
まあ…嫌われると言う事がないであろう彼からすれば、義勇は愛想がないので嫌われているのでは?と気になっていたのかもしれないが…。
うん、そういう事だろう。
──じゃあ、両想いということで、これから付き合うということでいいだろうか?
──もちろん。
どこにかは知らないが、何か義勇が詳しくて彼があまりなじみのない所にでも行きたいのだろう。
まあ、どこに行きたいにしろ、錆兎は内向的であまり人に馴染めない義勇でも気まずくならないように色々と話題を提供してくれるような男なので、彼とならどこに行っても楽しいだろうと思う。
義勇が大きくうなずいて請け負うと、返ってきた言葉は
「じゃあ、とりあえず付き合っている間柄で名字呼びもなんだから、俺の事は錆兎と名で呼んでくれ。
俺も義勇と呼ばせてもらうな?」
で、義勇はここで初めて違和感を覚えた。
あれ?なんか話が…??
あれれ???
そこで混乱していると、
──義勇、と、名で呼ばれるのは嫌か?嫌ならやめておくが…
と、心配そうに顔を覗き込まれて、義勇は慌ててぶんぶんと首を横に振った。
──そんなことはない!親しい人間みたいで嬉しい!
と、思わず漏れた本音に、錆兎は
──そうかっ!じゃあ、これからよろしくなっ!義勇!
と、またお日様のような明るいキラキラした笑顔を見せて言った。
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