そこで錆兎が電話をかけた先は宇髄だった。
「今、駅からうちに向かう道の途中の商店街を出て2つ目の曲がり角だ。
不死川に絡まれている。
お前が15分で来なければ警察を呼ぶ」
しかしありがたいのは友人ということか…。
なんと電車に乗っていたはずの宇髄は本当に15分以内に駆け付けてきた。
いきなり停まるタクシーの中から宇髄が飛び出してくるのを見て、義勇と実弥は目を丸くし、錆兎は驚いた様子もなく、ただ
──おお~!さすが宇髄だなっ!!
とパチパチと拍手をした。
どうやら札びらをきって急いでもらったらしい。
宇髄が降りるとタクシーは走り去っていく。
その全員の反応をすべてガン無視で、降りた宇随はまず錆兎に殴りかかろうとしたポーズのまま固まっている実弥を投げ飛ばして、その後、強引に座らせて頭をさげさせた。
「悪いっ!ほんっとうに反省してるっ!!
お前、どうせ証拠動画とか音声録音とか撮ってるよな?!
消してくれとは言えねえが、使わねえでもらえるとありがてえっ!!」
「っざけんなっ!!卑怯な真似っ…!!!」
「てめえはちったぁ黙ってろっ!!社会的に終わりてえかっ!!!」
頭をあげようとする実弥にそう怒鳴りつけると、その隣に自分も正座している宇髄はおそるおそる錆兎を見上げた。
「…反省…していなさそうだぞ?お前と違って本人は」
はあぁ~とため息交じりに降ってくる言葉。
そこに何か呆れのようなものを読み取って、実弥は逆上した。
「反省なんかするかァ!!てめえの方を名誉棄損でぶち込んでやる!!!」
叫ぶ実弥に宇髄は頭を抱え、錆兎は苦笑した。
「良いことを教えておいてやる。
名誉毀損罪(刑法第230条)というのはだな、公然と具体的な事実を挙げ、人の社会的評価を低下させる行為 について問われるものだ。
ここにお前と俺と義勇しかいない以上、不特定多数にあたる公ではない。
ここで俺がお前の落ち度を語っても、それによってお前の社会的評価が低下することはない。
ゆえに名誉棄損罪は成立しないな」
「…じゃあ、侮辱罪だァ!!」
「侮辱罪(刑法第231条)は事実を摘示せずに、公然と人を侮辱する行為 のことだから、もっと当てはまらない。
まあどちらにしても、法律に訴えようと思えば立証できる証拠が必要なわけだが、今存在するのはお前の知り合いが俺に暴力をふるったりナイフで斬りつけてきたものと、お前がそれを黙認して俺を襲わせておいてそのすきに義勇を連れて逃げようとしていたことの自白。
あとはお前が俺に殴りかかってきたもののみなんだが?
俺はお前に関してはお前が一方的に殴りかかってきた動画も押さえている」
「て、てめえ、金にあかせて弁護士でもつけて訴えるつもりかァ!!
やるならてめえの力だけで戦いやがれっ、卑怯者!!」
そう叫んだ実弥の頭を宇随がつかんで下げさせる。
「ほんっとうにもう面倒見きれねえぞっ!いい加減にしとけっ」
と言いつつ、実弥の頭を押さえているのとは反対側の手を顔の前で謝罪のように立てて錆兎を見上げる。
すると錆兎は二人の前にしゃがみこんで、そっと宇髄の手を実弥の頭から外させた。
それに不思議そうに顔を上げる実弥の前で、──面倒だからあまり周知はさせたくないんだが──と言いつつ、スーツをめくってその下のジレを見せる。
そして言った。
「安心しろ。金にあかせるまでもない。
一応俺は大学時代に司法試験に合格したうえで、大学は早期卒業制度を使って3年で卒業して、残り1年で司法修習を修了し、その後、正式に日弁連に登録している正式な弁護士だから、自分の弁護くらいは自分でする」
それに隣で宇随が今日何度目かのため息をついて説明を加える。
「ちなみに…ジレについてるバッジな、本物の弁護士記章だからな?
多種多様な人間に触れるためっつ~理由で今うちの会社にいるっていう、ものほんの弁護士先生にてめえはわけわかんねえ謎の法律ふりかざしてたんだよっ」
理解が追い付かない。
でも猛烈な恥ずかしさと爆発しそうな怒りで実弥は頭が沸騰した。
そして…
──ふ、ふざけんなああぁあーー!!!!
と、気づけば宇髄を殴って逃走していた。
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