ペナルティらぶVer.SBG_17_魔王

そうして3人の姿が消えたところで、コロッと穏やかな表情に戻った錆兎は

──もう大丈夫だぞ、義勇。
と後ろを振りむいて言葉をかける。

その声に
──錆兎、怪我はっ?!大丈夫っ?!怪我はないっ?!!
と義勇は泣きそうな顔で錆兎の前に回り込んだ。

いや…お前、見てなかったのかァ?
こいつマジヤバイ面してただろうがァ!!

実弥はそう思ったが、考えてみればずっと錆兎の真後ろに居た義勇には、あの地獄の底から降臨した魔王のような錆兎の笑顔は見えなかったのだろう。

義勇から見えた光景はおそらく、錆兎が一発殴られたうえでナイフを持った男にスーツを斬られたこと。
そして”危険から身を守るために”ナイフを持つ男の腕を取ったら男が勝手に地面に倒れこんだこと。
そんな感じなのだろう。

最初に立ち止まった時に錆兎が義勇に囁いたのは絡まれたら動画を取っておけと言う事で、その動画すら錆兎の真後ろで取られたものなので、見た人間の認識は義勇と大差ないと思う。

それを全て計算づくでやっているとしたら、こいつはとんでもなく恐ろしい男だ…。
そんなことを思って固まっていた実弥に、なんと恐怖が襲い掛かった。


──で?お前は黒幕なのか?通りがかりにしてはずっと距離を置いてついてきてたしな。

数メートル離れた曲がり角に隠れている自分にいきなり向けられる視線と言葉に実弥は驚きと恐怖で叫びだしそうになった。

単純に殴られるとか怒鳴られるとかなら慣れているが、錆兎はなんというか…得体が知れなさ過ぎて怖い。
そもそもがさきほどの一団が去るまで実弥に気付いていたのにスルーしているあたりが本当に気味が悪い。

──え?…黒幕…?
と、そこで初めて実弥に気付いた義勇が、そんな錆兎にしがみつく。

疑惑と若干の嫌悪の目。
これはまずい…色々とまずい。

そう思った実弥は即塀の影から出て、

──黒幕じゃねえしっ。確かにやつらが襲撃しようとしてんのは知ってたけどよォ。グルじゃねえ。
と、身の潔白を訴えた。

──ふむ…なぜ知ったかと、知ってて隠れてたのはどうしてかを聞いても?

錆兎はその言い分を肯定も否定もせずに、質問で返してくる。

とりあえずそれで言いわけはできそうなのでホッとした実弥は、自分のSNSを見て自分に恨みを持つ誰かが自分の交友関係のあるあたりを狙うというメッセージが来たことを打ち明けた。

それに義勇が眉をしかめたまま言う。

「それ…変じゃないか?俺は知り合いではあっても不死川とは親しくない。
そういうことなら狙われるのは俺じゃなくて宇髄じゃないか?」

…親しくない、そうはっきりと言われるとなかなかに傷つく。
普段なら傷ついた勢いで逆に殴るか怒鳴るか、とにかく攻撃に出てしまうのだが、義勇の横でニコニコしている男がとにかく不気味で怖い。
傷つくことよりも先に、自分がグルではないということを証明しなければ…と思う。

「知らねえよ。ま、宇髄よりてめえの方が弱そうだからじゃね?」

さすがに数日以内に付き合う予定の相手だとSNSで言っていたというのは気恥ずかしいので、そんな風に言って口をとがらせた。

その発言に義勇がむぅぅ~と膨れるが、錆兎は先ほどまでとは違う柔らかい笑みを浮かべて、その義勇の頭をポンポンと軽くたたく。

それになんとか空気が変わったか…と実弥はホッとしたのだが、甘かったようだ。

義勇に向けていた優しい目が、実弥に向いた瞬間、また絶対零度に戻る。

──それで?知っていて何も言わず隠れてついてきていたわけは?
──…あいつらが…鱗滝に向かってやばくなってきたら冨岡連れて逃げようと思ってた……
──信じられないっ!!この卑怯者っ!!!

もう隠す方が事態が悪化する気がしたので、情けなくも恥ずかしい実情を素直に明かすと、怒りをあらわにしたのは錆兎ではなく義勇の方だった。

「バカじゃないかっ?!
俺は錆兎が危なくなったからと言って逃げたりしないっ!!
ましてやお前みたいな卑怯者と一緒になんてまっぴらごめんだっ!!」

子どものようにこぶしをぎゅっと握りしめて怒る姿は愛らしいが、非難を向けられるのは心が痛い。
特に卑怯者とのそしりは本当に心が痛すぎる。

これまで自分に対しては常に怯えた様子を見せていた義勇が知り合ってから初めてくらい毅然と非難してくる要因が彼が好いた恋人のことだというのも辛すぎて耐えられず、思わず手が出た。

ひゅっ!と渾身の力を込めたこぶし。
しかしそれは義勇に届くことなく、彼の遥か前でリーチがずいぶんと長い錆兎の手で止められた。

──普通に義勇の身の安全という意味で言うなら、その判断も間違いではない。

そういう錆兎だが、実弥の行動を容認しているわけではなさそうだ。
声が恐ろしく冷ややかである。

「自分が相手を絶対に止められる自信がなくて義勇に危害が及ぶかもと思えば逃がすのも一つの手だし、戦略的撤退というのは悪い事ではない。
…が、その前に、義勇にストレスを与えないためにあらかじめそれを未然に防げる手を打つべきだし、それをやらずに機会だけ伺っているのなら、ただの愚かな卑怯者と言われても仕方ないな。
今回で言えば、一緒だった宇髄に報告すれば宇髄からそれを警告されるであろう俺はタクシーを使用したし、SNSで脅されたとするなら、しばらくは車通勤に切り替えたうえで、情報開示という手を取れただろう。
それを怠って義勇を危険にさらしたうえで、守れたとしても不安な思いをさせるなど言語道断。
それが友情だろうと恋情だろうと好意を持っている相手に対する対応としては誠意がなさすぎるな。
ましてや相手にそれを非難されたら暴力で黙らせようなど、恥を知った方が良いと思うぞ」

──うるせえっ!!

もう何も反論ができないまでに追い詰められた実弥は今度は錆兎に殴りかかろうとするが、あっさり避けられる。

避けられた勢いで体制を崩すが、また向かっていこうとする実弥を全く相手にすることなく、錆兎はいきなりスマホを手にした。






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