ペナルティらぶVer.SBG_10_チクチク苦言

──…ということで経緯の説明は終わったわけだが…

と言ったあと、いきなり冷ややかになる錆兎の視線に、宇髄は自分がとんでもないヘマをしたことに気づいた。

先ほど友情について錆兎が語った”尊敬するに値するかどうか”という言葉は、これからするであろう話の伏線だったんだろう。

それに気づいた時、飽くまでこれまで他人事のように思っていた不死川の恋愛成就云々からくる今回の諸々が一気に自らの交友関係にも降りかかってくることを察して、宇髄は心底焦ってしまった。

そうして弁明をしようと口を開きかけたが、ふと思い出す。
話が全て終わるまでは黙って聞けと言われてたということを。
なので宇髄はかなりの理性と自制心を持って、開きかけた口を閉じた。

それに錆兎も気づいたらしい。

──一応指摘されたことは覚えていて自分を律するところは評価する。
と言う。

とりあえずまだ首の皮の1枚で友やめまではいっていない感じか…。
と、ヒヤリと冷たい汗をかいた。

錆兎は宇随がこれから何を言われるのか察したことにも気づいているようで、はあ…と呆れたようにため息をついて話を続ける。

「もう察しているようだが…宇髄、お前はなぜ不死川の暴走を止めないどころか自分も乗ったんだ?
お前なら気軽にできることも内向的な人間にとっては過度のストレスを感じる行為でしかないというのはわからないお前じゃないな?

俺は以前、俺も義勇と交流を持ちたいと言ってお前に止められた時、確かにほとんど見知らぬ俺が近づくのは人見知りの義勇にストレスを与えるであろうし、既存の人間関係の中に居る方が義勇にとっては心地よいだろうと思って諦めた。
それは聡いお前なら気づいていただろう。

交流のなかった俺でさえそこまで心を砕いていたのに、お前は長年の友人相手にそこまでひどい事を平気でするような男だったのか?

正直、今回のことで俺はお前にはかなり失望させられた。
言い出しっぺの不死川のことはもちろん軽蔑したが、お前もそれと同罪だ。

これまでの交友関係があるから、すべてを断ち切るまではいかないが、今後の付き合い方については色々検討しなおそうと思っている」


錆兎は本来声のデカい人間だ。

怒る時はが~っと怒って、しかし反省すればすぐ許すしあとをひかない。
そんないわゆる雷親父のようなところがある。

大きな声になるのは誤った認識を持ったり誤ったことをしている相手を心配して正そうとしているからだ。
彼の周りはそれをわかっているから、彼は怒らせたら怖いが頼りになる人間として慕われている。

しかし一方で錆兎は淡々と相手の非を述べる時もある。
それは相手に対して怒るほどの感情がない時だ。

今の状況はまさにそれで、これはかなりまずい……と、宇髄は内心頭を抱えた。


宇髄の中で順位の高い3人の友人の中で、実弥と義勇は言い方は悪いが同等以下の面倒を見てフォローをしてやりたいと思っている相手で、唯一錆兎だけは同等かそれ以上の存在だと思っている。

色々とそつのない宇髄はあまり他者の助けを必要とするような事はないのだが、もし何か困って自分だけではどうしようもなくなった時に助けを求める相手は、実弥でもなく義勇でもなく錆兎だという認識を持っていた。

そこに切り捨てられると正直めちゃくちゃ辛い。

なのでこの苦境を何とか乗り切るには…と、宇髄はこれまでにないほど真剣に脳内で計算を始めた。
嘘は絶対にダメだ。
これ以上少しでも信頼をなくすことをすれば、容赦なく切られる。

それでも相手に伝わりやすく、相手の譲歩を引き出せる形で……と考えた結果、宇髄はガバっと義勇に頭を下げた。

「冨岡、すまねえっ!
実はあれ、実弥がお前ともう少し仲良くなりてえって言うんで、交流を持つ切っ掛けを作るために計画したやつなんだっ。
言い訳じゃねえんだけど、俺は一度は止めたんだぜ?
普通に仲良くしてえって言えばいいじゃねえかって。
それに対してあいつ曰く言おうにも自分が居るとお前が逃げるからって。
でもどうしてもこのまま関係が悪いのも嫌だし、仲良くなれればもう暴言も暴力も控えるっつ~から、その方がお前にもいいのかと思って乗ったんだ。
俺だって幼馴染二人がしょっちゅう揉めてんのも嬉しくはねえしな」

嘘はついていない。嘘は。
ただ、実弥の”仲良くしたい”友情ではなくて恋情であることに言及していないだけだ。
そして自分については正直にほぼすべてを話している。

錆兎の方は以前に義勇に想いを寄せている人間が居ると伝えてはいたので、おそらくそのあたりの話していること敢えて触れないでいることについては気づいているはずだ。

表情は変わらないが醸し出す温度のようなものは変わったように思う。
……宇髄の希望的観測かもしれないが……

少なくともその視線が宇髄から義勇へと移ったので、結論は義勇次第ということだろう。

宇髄に名指しで謝罪されて、義勇は口に入っていたものをゆっくり咀嚼、飲み込んで、それからまったりと冷茶を一口。

気が弱いのにこのマイペース差がすごいな、冨岡だよな…と宇髄は感心しつつ義勇の言葉を待った。

そして義勇の口からはぽつりと一言。

──もういい。


これ…どういう意味での”もういい”なんだろうか…

気にしていないとか、許すとか、そういう意味なのか、もうお前とは付き合う気はないから言い訳や説明は要らないという意味の”もういい”なのか…

義勇はもともととても口下手で言っていることがわかりにくい。
普段ならそれでもまあなんとなく流すのだが、ここは流せない。

そんな必死な形相の宇髄に構わずなのか気づくことなくなのかはわからないが、義勇は言うべきことは言ったとばかりに、また食事に戻る。
意味がわからない。
確認したい。
宇髄はそう思うものの、ここで意味が通じていない、理解できないと指摘したらそれはそれで終わる気がした。

たら~りたら~りと汗をかく宇髄。

しかし驚いたことに、錆兎はその意味を正確に理解しているらしい。

「良かったな。
お前がとりあえず悪意はなかったということはわかったし、その点についてはもう気にしなくていいらしいぞ」
と補足してきた。

え?え?今冨岡はそんなとこまで言ったか??
と目を丸くする宇髄に、錆兎は

「とりあえず…今回については義勇は流すことにしたらしいが、揉めたくなければ相手を騙すような形にとられかねない画策はするな。
今後何か義勇に関してあるなら俺に言え。
相談には乗ってやる」
と締めてきた。








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