(…あ~あ、だから言ったのに…)
昼休み、宇髄がやや暑いため人が少ないテラス席で待っていると、錆兎が来た。
…義勇を連れて。
いや、それは問題ではない。
一緒に飯を食うという話になった時、義勇が総務に借りだされていると告げると、錆兎がじゃあ同じフロアだから自分が迎えに行くと請け負ったので、二人連れだって来るのは正しい。
問題はその二人が右手の薬指に色違いの石の入った指輪をしていることだ。
二人が揃って自分の前の席に着くと、宇髄はそうこぼして思わず錆兎に恨みがましい視線を送る。
錆兎はもちろんそれに気づいていてニコッと普段なら他意のない、さわやかで好ましいと言われるであろう笑みを浮かべた。
義勇の方は言葉に含まれる複雑な裏の意味に気づいてはいない。
ただ少し不安げにちらっと錆兎の方に視線を向けて、錆兎が笑顔で頷くと、とたんにフンスフンスと鼻息荒くどこか誇らしげに
──俺だってちゃんと告白すれば応えてもらえる相手くらいいるんだっ。
と言って胸を張る。
(…あ~、やっぱりそういう意味にとってやがったかぁ…)
と宇髄はそれを聞いて内心頭を抱えた。
自分もあの時はうっかりしていて、義勇が消えるまでその可能性を考えていなかったからフォローが遅れてしまったのはまずかった。
だが、そもそもが不死川も普通に告白すればいいものを、こんな回りくどい方法を取ろうとするから失敗するのだ。
しかしまあ、あそこで一応知り合いの少ない義勇のことだから身内になんとかしてもらおうと思う可能性は低いし、あの日は錆兎も予定があったはずだから…と、そこに行ったかもしれないということをちらりと考えながらも、脳内でその選択肢を外してしまったのは自分のミスだ。
いや、そもそもが、元々義勇を気に入っていた錆兎の所に義勇を行かせてしまった時点で終わっていたのか。
それでもダメ元、
「なあ、錆兎…」
「ん?なんだ?」
「お前さ、友人との友情と恋人との愛情ならどっちを取る?」
そう聞いてみたら、即
「愛情だな。
友情は複数あるが愛情は生涯一つだけだというのもあるし、愛情は決めた時点で無条件で、いわゆる無償の愛だが、友情は相手が尊敬に値する人間かどうかで多少重さが変化する」
とドきっぱりと言われた時点で、リカバリは無理だと諦めた。
錆兎の中ではおそらく最優先は義勇で、その義勇の側が特に錆兎のことを望んでいないうちは、自分の感情よりも接触を望まない宇髄との友情を優先してくれたが、義勇が望んだ時点で宇髄の希望よりも義勇の希望なのだろう。
そんなことを考えている宇髄の目の前で、錆兎は
「俺も少し宇髄に言いたいこともあるし、今回の経緯は俺から話すから義勇は食事を摂っていていいぞ。
俺の方が食うのが早いしな」
と義勇を促す。
飽くまで『義勇が遅い』のではなく『自分が食べるのが早い』というあたりが、錆兎は心憎いほど義勇の扱いを心得ている。
実弥なら確実に、『お前は食うの遅いんだからさっさと食わねえと時間なくなるだろうがァ!』という言い方をしているだろう。
言いたいことは実は同じなのだが、前者は自分の責任、後者は相手の責任と言う言い方に聞こえるので、与える印象が全然違う。
告白したのは嘘だのなんだの言われないために、さっさと指輪を買ってつけさせるとか、義勇が困難にみまわれないための先回り度がすごくて、宇髄もさすがにこのセコム人間をかいくぐってどうこうできる気がしてこない。
さきほどからため息をつくしかない宇髄の前で、錆兎は食事には手を付けず、ただ、コーヒーを一口口に含んだあとにカップを置くと、テーブルの上に組んだ両手を置いて、義勇に対するものとはまるで違う温度の笑みを口元に浮かべた。
「まず、結論から先に話して、経緯、感想と続くから、全部話し終わるまでは黙ってきけ。
中途半端に口を挟むと時間を取るから」
という宣言はどこか有無を言わせない圧があって、宇髄は黙って頷いてみせる。
「結論から言うと、義勇は俺に告白をして、俺はそれを受けて付き合うことにして、土日を一緒に過ごして今に至る。
で、経緯はこれから述べる通りだ。
俺は金曜は残業で、外に出た時に入口に義勇がいたから声をかけた。
そうしたら義勇が話したいことがあるというので、家に連れ帰った。
で、家で食事をしながら、お前と不死川とのやり取りの話を聞いた。
割愛したいところだが、双方の認識に差異があるとなんだから聞いたことを簡単にまとめる。
お前達二人とカードゲームをして負けて、罰ゲームとして告白をしてOKをもらって来いと言われたから、受け入れてもらえそうな相手として俺の所に来た。
そういうことだった。
で、俺が断る理由はないだろう?
だからOKしてつきあうことにした。
が、そういう経緯だとどうせ本気じゃないだろう、無効だとか言われる気がするから、それが本当だと立証するために指輪を買った。
俺も確かに稼いではいるが、口裏を合わせるためだけにペアで10万かけるほど酔狂じゃない。
ということで、経緯は以上だ」
そう言ったあと、錆兎は少し一息いれつつ、指輪をしている右手をかざして見せる。
まあ…純金に小さいながらも宝石が入っているのでそのくらいはするだろう。
そうして宇髄が納得したところで、今度は少し厳しい視線を宇随に向けてきた。
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