ペナルティらぶVer.SBG_4_幸運の女神の前髪

週の終わり…金曜日の終業時刻後。
その日は大手の案件の結果が出るのが終業時刻ぎりぎりで、そこからGO!が出たら大まかな確認だけしてすっきり週末を迎えようということで、終業時刻を超えての部内打ち合わせとあいなった。

幸いにしてOKが出て、それぞれ担当や必要な作業の確認をして、週明けから実質的な作業に入れるようにというところまでもっていったところで、とりあえず企画が無事通ったことに対しての打ち上げをしようと残業後だというのに皆テンション高く玄関に向かう。

呑むのも騒ぐのも好きな連中が揃っているのでやたらと理由をつけて飲み会が開催されるのだが、今回もそんな感じで、いつも幹事役をしている同僚の一人が大勢で入れそうな店を即ピックアップするのもまあいつものことだ。

実は錆兎は酒は嫌いではないものの飲み会自体はそれほど好きというわけではない。
だが、円滑なコミュニケーションのためにはそういう付き合いも大事だと割り切っている。
なので当たり前に予定も聞かれずに頭数に入れられていても当たり前に参加していた。

そんないつもの日々のはずだったのだが、今日はイレギュラーが起こった。
いや、自分にはおそらく関係がない可能性があるイレギュラーに自ら首を突っ込んだというのが正しいか。


盛り上がる面々から一歩下がって歩いていた錆兎は、玄関横に信じられない姿を認めた。

今日はノー残業デーで自分達以外の社員はとっくに帰ったはずなのに、なぜかそこに佇む影。
遠慮がちな性格だからだろうか…どこか空気が薄く感じるその姿。
だが錆兎の目には誰よりも強烈に飛び込んでくる。

彼、冨岡義勇は部署の違う同僚だ。
学生時代に通っていた塾でずっと一緒だった友人の宇髄の幼馴染で、宇髄と共に何度か食事をしたことがある。

最初に出会ったのは入社間もない頃だった。
まるで少女のように綺麗な顔立ちをしていて、どこか線が細くて…人慣れない様子が庇護欲をそそる。
まあありていに言えば、容姿も性格も錆兎の好みのど真ん中をついていた。

しかし錆兎が彼に近づこうとすると、宇髄がさりげなくガードしてくる気がする。

「…もしかして俺なんか冨岡を不快にさせるようなことをしたか?」
と、後日宇髄に聞いてみれば、
「いや、そういうわけじゃねえんだけどな、お前、心証良すぎるから、それと比べられ始めるとちっと辛いやつがいるというか…」
と、どこか困ったように言われて、錆兎も少し困って眉を寄せた。

もしかして恋人とかなんだろうか…。
清く正しい祖父に育てられたのもあって、いくら好きでも恋人から略奪というのはためらわれる、

「え~っと…つまり…宇髄と付き合っている…とかか?」
と、宇髄ではないだろうなと思いつつ聞くと、宇髄はやっぱり困った顔で
「俺じゃねえってのはわかってんだろ?
冨岡は良いやつだし、大事なダチではあるが、そういう意味で好みじゃねえ」
と案の定な答えが返ってきて、少しだけホッとした。

いや、恋人が自分の友人じゃなければ良いというわけではないが……しいて言うなら、友人だと目の前で仲の良い様子を見る機会やエピソードを聞く機会が多くて辛いといったところだろうか…。

「俺のな、もう一人のダチの想い人なんだよ。
まだ恋人にはなってねえが、長い付き合いで、その長い付き合いの年月ずっと想ってるっつ~感じだから…」
と、その後に続く宇髄の言葉。

恋人ではない…ということは別に略奪とかにはならないのだろうが、宇髄の目が頼むから遠慮してくれと言っているのがわかってしまって錆兎はため息をついた。

まあ…義勇は人見知りが強そうだし、新しい何かに馴染むのに時間がかかりそうなタイプで、そういう意味では昔から彼を知っていて大切に想っている相手がいるのなら、彼のためにもあまり新参者の自分が距離を詰めない方がいいのだろう。

「…わかった……」
と錆兎は短く答えた。

そしてその後はそれから3年経つが数回ほど社食で宇髄と居る所に義勇が合流してという感じで一緒に食事をしたのみである。

そんな一度は諦めた想い人ではあるが、こんな時間に出会えばついつい声もかけたくはなる。

相変わらずどこか心細げな雰囲気。
とても綺麗なのにぴょんぴょんと無頓着に跳ねた漆黒の髪。
かすかにのぞく横顔は、なんだか不安げで、何かを探しているようにも見えた。

気づけば体が動いていた。

同僚たちの横を駆け抜け、錆兎は彼、冨岡義勇に
「冨岡っ?!冨岡じゃないかっ!
どうした?忘れ物か?」
と声をかけた。

するとすごく困った顔をされてしまう。

それが地味にショックだったが、それに対して返ってきた
──そ、そうじゃなくて……は…話したいことが……
という言葉に、錆兎のテンションは一気に浮上した。

秘かに好意を持っている相手に自分に話したいことが…と言われて喜ばない人間なんて居ない。
宇髄には悪いが、今回に関しては自分がちょっかいをかけたわけではない。
義勇の方から話したいことがあると言われたのだ。

それを無視するなんてことはできないし、宇髄だって人見知りの友人が錆兎にわざわざ勇気を出して何か相談事をしたいと言ってきたのを断って彼を傷つけてほしいとは思わないだろう。

そこからは脳内での判断は早かった。

まず義勇の性格からして錆兎がこのあと同僚と飲み会だと知れば遠慮する。
だからそれを知られる前に、杏寿郎に約束があるから飲み会はまた今度と断りを入れた。
それだけですべてを察して他との諸々をとりなしてくれるのは、幼馴染ならではの察しの良さか…。

その後は義勇にそのやり取りに対して突っ込まれないうちにと、さっさとその場を離れて、万が一にも皆の飲み会の会場と重なったりしないよう、自宅で話を聞くことにする。

今からだと込み入った話ができるような個室を取りにくいから…と、義勇の手から彼のカバンを取って自宅へと誘導すると、もともとおっとりしている性格なのか、少し酒が入っているようなので若干酔って判断力が鈍っているのか、義勇はあっさり流されて、錆兎と共にタクシーに乗ってくれた。








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