諦めが悪い2人の人生やり直しバトル_26_恋愛成就のために

前世でもそんなことはなかったのに今生では義勇本人にも嫌われて、義勇の姉弟子の真菰にもその周りの女子達にも義勇に近づくのを嫌がられて、本当に四面楚歌。
どうしていいかもわからずため息しかでない。

これは…もう、女たちがなんだか義勇とくっつけたがっている水柱様、もとい錆兎に特攻するしかない。

彼がそういう意味では考えられないと言えば、とりあえずその線が消える。
それでも競争相手はものすごい数が居るだろうが、少なくとも勝負する機会は持てるだろう。


とりあえず相手は腐っても柱で多忙を極める人間なので、チャンスはこの館で彼に鍛えられている間だけだ。
ここを出たらそんな込み入った話をする機会をもつのは無理だと思う。

だが他はとにかく修行については真面目で厳しいので、岩も斬れないうちに色恋の相談などした日にはさすがに見捨てられそうだ、
だから話すのは岩が斬れたその日にしようと決めた。


そして…その日はそう決めてからそんなに経たずに来る。

最初は逆らって追い出されて匡近にまで迷惑をかけないために渋々やっていた基礎鍛錬は、しかし思いのほか実弥にとって足りないものを授けてくれたらしく、錆兎について実戦に出ると以前と同じ事をしているつもりなのに何故かサクサクと鬼を斬れるようになって、楽しくなってきた。

前世の全盛期の頃には遠く及ばないが、稀血を使わなければほぼ斬れなかった鬼を普通に斬れるようになってくると、さらに強くなるために頑張れる気がしてくる。

そうして鍛えて鍛えて鍛えて……──そろそろじゃないか?──と錆兎に促されて大岩の前に立って刀を振るうと、最初は絶対に斬れることなんてあるはずがないと思っていた大岩が真っ二つに割れた。

やった!!と実弥が振り返ると、腕組みをして立つ錆兎が笑顔で頷いている。
義勇もその横で喜んでいるが、たぶん理由は錆兎とはちょっと…いや、かなり違うんだろうと思うと、喜んでもらえていることを素直に喜べない。

まあ…それでも今更あとには引けない。
自分に錆兎をとられたくないと思っている義勇の考えを、錆兎に自分を取られたくないというように変えて見せる!!

落ち込む気持ちを振り払うように実弥は顔をあげて、
「世話になりましたっ!
弟子卒業する前に聞きたい事があるんすけど…」
と、錆兎に視線を向けた。

「義勇も一緒で大丈夫か?」
「いや、二人だけで」

そう言った瞬間、義勇にすごい目で見られた。
そして嫌だと言わんばかりに錆兎の羽織を掴む義勇の反応に一瞬困った顔をする錆兎。

しかしそれは本当に一瞬で、すぐ義勇を見下ろして、

「おそらく実弥はここを出る前に、人間関係の構築について確認をしておきたいのだと思う。
剣術については他の柱や兄弟子も教えてくれるだろうが、他人に好かれるにはとか、親しい者には気恥ずかしくて聞きにくい人間もいるだろう?
自信がない部分がなくなれば実弥も安心してここを出られるし、実弥が人当たりもよく剣術も優れた人間として活躍できるようにして送り出せば俺は責任が果たせるし、俺に剣士を育てると言う事をその後ろ姿で教えてくれた鱗滝先生の評価にもつながる。
だからお前は真菰と一緒に実弥の修業終了祝いに美味しい夕食を用意してやってくれ。
お前の料理はすごく美味いから、俺も楽しみだしな」

と笑顔で言えば、実弥が卒業して錆兎を返してもらえること、そして錆兎が自分の料理を楽しみにしてくれていることに機嫌を良くした義勇はとたんに笑顔になってうんうんと頷いて真菰の居る母屋の台所へと駆け出していった。

ああ、可愛い。
他の男を想ってということでなければさらに可愛いんだが…と思いながらも、そこで思い通りに行かないからと機嫌を悪くすれば元の木阿弥だ。

他人に善意を持たれたければ、まず自分が善意を表すこと。
特に理由がないならば、悪意より善意、けなすより褒めるを心がける。
それがこの数か月で実弥がこの臨時ではあるが同い年の師匠から学んだことの一つである。

なので苛立たしさはグッと飲み込んで、
「冨岡は錆兎のことをすごく好きなんですね」
と言えば、錆兎はやっぱり笑って
「他人とも衝突を起こさなくなったし、礼儀もある程度覚えた。
大岩も斬れた時点で俺はお前に教える立場ではなく同い年の隊士にすぎないから、もう敬語でなくてもいいぞ」
と言った。

これ…鵜呑みにして良いんだろうか…と、散々礼儀礼儀と叩き込まれてきた実弥は悩むのだが、錆兎は
「同い年で入隊時期もそれほど変わらない人間に敬語を使われると落ち着かない。
…みんなそう言っても聞いてくれないわけなんだが…」
と苦笑する。

なるほど。これは本心だろう。
かなり長い時間を一緒に過ごして来て、ある程度は性格もわかってきたのもあって、実弥はそう判断して従うことにした。

「あ~ちっと相談したい事があんだが、それとは別にいつ頃ここを出て行けばいいんだァ?」
とまず時間をとってもらうにしても共に居られる時間を確認しなければならないが、それでなくても匡近がかなり無理に頼んでくれて置いてもらっている身としては、そう長居をしたら迷惑だろうと思って聞くと、錆兎はあっさり

「出て行きたくなったら…か?
まあお前ひとり居ようと居まいと困るほど狭い家でもない。
お前もいい加減知ったと思うが、母屋なら真菰の友人もよく泊っていくからな。
落ち着かなくなければ好きなだけ居ればいいが、粂野には修業が終わったことだけは報告してやれ。
心配しているだろうから」
などと返して来た。

ああ、そうだよな。
お前、良く言えばおおらか、悪く言えば大雑把な男だもんな…と、その返答も本心なんだろうと実弥は納得する。

「お前さ、目上の人間への礼儀とか修業は厳しいけど、他に関してはすげえおおらかな性格なのは一緒に居てわかったんだけどなァ…」
と始めると、錆兎は、ん?と言う顔をして、
「相談…だよな?ここで良いのか?」
と聞いてきた。

「ああ、家だと他もいるしなァ。
他の奴に聞かれたくねえ」

それにちらりと母屋…それも台所の方に視線を向けた実弥に、なんだか察したらしい。
「もしかして…義勇に関してか?」
と、聞いてくるので、その察しの良さに実弥はびっくりする。

「…すげえなっ。なんでわかるんだァ?」
と思わず言えば、
「真菰や義勇に聞かれたくないというならそうだろうと思った」
と返って来て、
「それだけでっ?!」
とさらに返せば、錆兎は苦笑。

そして
「お前に初めて会った時に義勇を守ると言っていたからな。
単に話の流れから言ったという可能性もあるのかもしれないが、あえて本当に義勇をと言うなら、初対面でいきなりそれだったから何故だろうと気になってはいた」
と言うので少し驚く。

これまで真菰にはそれとなく触れられはしたが、錆兎は全くその時の事に触れて来ないのでてっきり気にしていないか忘れているかだと思っていた。

それを言うと、錆兎は少し考え込んで、
「俺は器用な方ではないから、何かを成し遂げようと思う時にはなるべくやるべきことを単純化したほうがいいというのが持論なんだ。
俺の責務はお前を鍛え、お前の素行を良くすることで、それには知る必要のないことだったし、俺の好奇心を満たすよりやらねばならないことを優先すべきだからな。
もしそれを知らないことで何か支障がでるようなら、真菰が対処するだろうと投げていた」
と言う。

なるほど。
水柱は柱の中でも優れ者で色々に余裕があると言われているが、それは他の柱が一人でやっている彼が苦手とする部分を姉弟子が引き受けてくれているからなのだろう。

それを肯定するように
「真菰と義勇が居るから俺は柱になれたし、今もなお柱としてやっていけている」
と錆兎は当たり前にそれを認めて言うが、実弥だったらもし実際はそうであってもそんなに素直に認められない。
このあたりの優れている人間である前提での謙虚さと言うのも彼が評価される要因の一つなのだろう。

錆兎と居て一つ学んだのは、優れた人間なら謙遜したからと言ってそれを真に受けて侮られることはないし、実際は劣った人間であるならいくら虚勢を張っても馬鹿にされるだけだということだ。

だから敬われたいならまず、自分を磨くしかない。
真菰風に言うなら、とにかく鍛えて鍛えて鍛えるしかない、のである。

まあそれはおいておいて、他が来る前にさっさと本題に入らねば…と、実弥は話を戻すことにした。

「わかってんなら話は早え。
俺は冨岡に俺を特別に好いて頼って欲しいと思っている。
でも真菰にあんま好まれてねえせぇか、冨岡の反応も悪いしよォ…。
どうしたらいいのかと思ってなァ」
と切り出せば、錆兎はふむ…と少し考え込む。

そして
「たぶん…だが、真菰は確かにお前に義勇を託すのは絶対に無理だと思っていると思う。
それで近寄らせないようにしているように、俺は感じていた。
だが真菰がそう思う真意がどこにあるのか俺にはわからない。
で、俺はというと、やみくもに反対するつもりもないが、やっぱり真菰と同意見なんだ」

「ああぁ??なんでだよっ!!!」

賛成されて協力を得られないまでも、反対はされないと思っていたので、実弥もついつい久々に感情的になる。

それに錆兎は
「別にお前が嫌いだとか悪い人間だと思っているとかではないんだけどな」
と、困ったように眉尻を下げた。

「俺達は先生の元で一緒に育った家族だから、当然互いが誰よりも大切だ。
だからつきあうならその大切な家族を幸せにしてくれるというのが絶対に譲れない条件だ。
これがもしお前の想い人が真菰ということなら、少なくとも俺は強固に反対するつもりはない。
あいつは賢いし立ち回りもうまい。
だからたいていの相手となら上手にやっていけるから。
だが義勇は相手を選ぶやつなんだ。
人の感情の機微に絶望的に疎いから、相手の方が周りの空気とかを読んで色々と取り持ってやらないと誤解を生んで揉める。
そのあたり、お前は今回がまさにそうだったが、義勇を助ける以前に自分が誤解されて孤立しかねないくらいには、そのあたりのことが上手くできないだろう?
下手をすれば義勇の方がそれに巻き込まれて一緒に孤立しかねない。
だから本当に申し訳ないとは思うが、賛成も協力もしかねる。
お前が悪いわけでも義勇が悪いわけでもなく、単に相性が悪い」

腹は立つ。
腹は立つが、あまりに実弥のことも義勇のことも理解しすぎていて言葉がない。

確かに今生ではこんなに可愛い可愛いと人気者な義勇が、前世では強さでは評価されていたものの性格的には引かれていて、胡蝶しのぶや弟弟子の竈門炭治郎など極々一部の人間以外には距離を置かれていた。

それはひとえに今生のように錆兎や真菰がいなかったせいだろう。
ではその代わりを自分が出来るかと言えば、錆兎から離れたら下手をすれば自分自身さえ孤立するかもしれないくらいなのに出来るわけがない。

非常にもっともな言い分だと思う。
だが実弥だってだからと言って諦められるはずがない。

義勇を幸せにすること、それが錆兎の一番の判断基準だとしたら、まだ手はあるはずだ。
と実弥は考え考え…そして一つの結論に至る。

信用されるかどうかは別にして…ある程度話して情に訴える、それが実弥に取れる唯一にして最後の手段だ。








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