彼女が彼に恋した時_14_6

不死川と付き合うなんて絶対に嫌だし、断固として拒否をする。

そうしてくれと面と向かって言われたら、やめてくれと絶叫はするが、今回の諸々に関して言えば、すでに終わったことで、もう誰が望んだとしても同じようなシチュエーションが起きる事はない。

だから貞子は土下座せんばかりの平謝りで、鱗滝君はその点については絶対に許せないとは言っていたが、義勇個人としては鱗滝君がはっきりとその想いを拒否した上で、貞子本人ももう二度と目の前に現れることはしないと言うので、もういいや、と思う。

それを告げると貞子も鱗滝君も苦笑。
2人ともその反応が優しい義勇らしいと言う。

それを敢えて否定はしない。
否定をしたっていい事はない。

だが、それが優しさから来ているわけではないことを義勇本人は自覚していた。


正直、貞子が可哀そうな目にあっているだけの良い子だったとしたら、本人は否定しているが、庇護欲の強い鱗滝君が何かの拍子で万が一…という可能性だって0とは言えないかもしれない。

それが今回、貞子の行動が鱗滝君は受け入れられない類のもので、今もこの先も絶対に貞子を好きになる事がなくなって、貞子自身も絶対に鱗滝君の前に現れないと言うのだ。
それ以上望むことなどない。
藪をつついて蛇を出したくはない。

別に誰かを踏み台にしたいとか、誰かの不幸を望んだりとかするような性格ではないことは確かだが、鱗滝君だけは絶対に渡せない。
この一点だけは義勇にとって譲れないところだし、そのためには心を鬼にだってする所存だ。

そんな義勇だからこそ、ある意味、鱗滝君が欲しすぎて手段を選ばなくなった貞子の心情がわからなくはないし、彼女の方から今回の事で反省した証に鱗滝君を諦めて遠くへ行くというのだから、それ以上責めても自分にとって良い事はないと思うのである。


こうして義勇と鱗滝君は貞子の謝罪を受けて、3人の話は終わったわけなのだが、村田君が病室から出てこない。

鱗滝君は本当なら村田君の気のすむまで付き合うつもりだったらしいが、義勇が居るのでずっとここで待つのも…と、思ったようだ。

それを察したのは義勇ではなく、やっぱり色々に気が回る貞子の方で、
「もし村田さんがこのままこちらに居たいということなら、母と病院には私から伝えますし、何か変わった事があって鱗滝先輩に伝える必要が出来たら、冨岡さんにその旨を送るので、冨岡さんから聞いてください。
鱗滝先輩には村田先輩のご家族にだけ、事情をご説明頂ければ…」
と、申し出てくれたので、ありがたくあとはお願いすることにして、義勇と鱗滝君は病院をあとにした。


そうして二人で手を繋いで義勇の家へ送ってもらう道々…鱗滝君が言った。

──最近ずっと考えてたんだ…。義勇、俺が至らなくて色々危ない目に合せてごめんな…
と、その言葉にびっくりする義勇。

鱗滝君は今回の諸々について言っているのだろうか…?
確かに酒を飲まされたことは大したことなのかもしれないが…病院に担ぎ込まれる羽目にもなったが…でも実際は念のための処置であって、大した実害はなかったと思う。

そもそもが、今回のことは鱗滝君のことを好きな貞子が不死川と義勇がくっつけば鱗滝君がフリーになるからということで仕組んだことではあるのだが、鱗滝君が何かしたわけでもない。

というか、鱗滝君が居なければ義勇は今も相変わらず不死川に殴られ怒鳴られしていただろうし、それこそ中学生になってさらに力のついた不死川に殴られたら、寿美のように重傷と言えるくらいの怪我を負っていた可能性だってある。
だから鱗滝君が何か義勇に対して責任を感じる必要なんて何もないのだ。
………と、伝えたいのだが、脳内で思ったことを言語化することが著しく苦手な義勇は、上手く伝えられる自信がない。

しかしそれで彼が責任を感じすぎて、義勇とは居られないとか思ってしまったら大事件だ。
それだけは絶対に嫌だ。

そこで必死に考えた結果が…
──鱗滝君は何も悪くはない。だけど……守ってあげたくなった?

あ…失敗?ダメだった?
と一瞬思ったのは、鱗滝君が目をまんまるくして固まったから…。

しかし彼はすぐ
──ああ、そうだな。とりあえず義一さんと話をするか…
と言って歩き出す。

お父さんと??
と、その唐突な言葉に今度は義勇が目を丸くしたが、その手はしっかりと鱗滝君とつながれているので、歩き出す彼につられて一緒に自宅への道を歩き出した。








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