──ほう、今回はピクニックとはのどかなお題だな
水柱の『ファンの皆様の仰せのままに』の4回目の収録中である。
というか、お題が『二人でピクニックデート』となった時に、何故か前日まで地方で仕事の予定だった伊黒が絶対に出演したいと、仕事終了後、タクシーを飛ばしてスタジオのある東京へと戻ってきた。
彼が何故そうまでして出演したいか…というのはお察しというものだろう。
そう、今回は甘露寺蜜璃が初の女性のコメンテーターとしてスタジオ出演するからである。
──あ~…今回のは錆兎の奴がお題リクエストのはがきの中から絶対にこれって主張したんだとよ
と、ガリガリと頭を掻く宇髄に、
──秋は美味しい物も多くてピクニックには良い季節ですもんねっ!
と、笑顔を見せる甘露寺。
その甘露寺の言葉には、当然甘露寺のいう事は全て正しいという伊黒が
──そうだな。素晴らしい選択だ
と、腕組みをしながらうんうんと頷くまでがお約束だ。
何故そこでピクニック=遊ぶでも景色を楽しむでもなく、美味しい物という選択肢になるのかは追及してはいけない。
それはひとえにコメンテーターが甘露寺だから…という、理屈ではない圧倒的な理由だからである。
──料理番組も持っている錆兎さんのお弁当ですもん!楽しみよねぇ
と、錆兎が持つカバンの中に鎮座する弁当を想像したのか、甘露寺がうっとりとした表情を浮かべる。
まあ確かにそれはそうなのではあるが、これは『ファンの皆様の仰せのままに』であって『派手に作るぜ!漢の料理!』ではない。
そこは食べ物以外にも話題をふらないとという、強面で大雑把そうな見かけのわりに、意外に常識的で気遣いの人間な不死川が、
「義勇にとっては初ピクニックらしいからなァ。
錆兎は弁当も含めて色々良い想い出を作ってやりたかったらしいぜ。
俺ん家なんかは貧乏子沢山だったから、長期休みに母ちゃんが作ったおにぎりや胸肉の唐揚げとか持ってよくデカい公園に行ったもんだァ。
当時はテーマパークとか連れてってもらえる金持ちの同級生とかが羨ましかったもんだが、一緒に出掛ける家族が居ただけ、まだマシだったんだろうなァ」
などと、自分の経験も加えて、そう語る。
それで少ししんみりとした空気を今度は宇髄が
「ま、ピクニックは俺らが知り合ってからもよく一緒に行ったよなっ」
とカラッとしたものに変えて、
「NOUKIN二人が子どもに混じって遊具で遊んでたな…大人げなく…」
と、伊黒がチクリとそう付け加えた。
一見完全に変わった話の流れ。
しかし
「あ~!運動してお腹がぺっこぺこになったあとのお弁当って最高ですもんねっ!
私も行きたかったなぁ~」
と、そこで甘露寺がまたそう言い始めて、結局弁当に戻るのか…と、不死川はそこから話題を離すのは諦めてがっくりと肩を落とした。
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