彼女が彼に恋した時_13_後編

信じていないわけじゃない。
鱗滝君は浮気なんてする男子じゃない。

そうは思うものの、自分と貞子を比べてみたら、女子力と言う意味では完全に負けているし、年齢だって男性は年下が好きだとよく聞くから、2歳下の彼女には負けている気がする。

そんな資質として自分よりも上な貞子が自分より可哀そうな境遇だったとしたら、優しい鱗滝君が揺らいでも仕方ないのではないだろうか…。

そんなことを思いながら、あの話を聞いた日から数日悶々と過ごしている。
鱗滝君と二人きりになるのは怖いし、貞子と二人きりは辛い。
だから恒例の早朝登校も朝起きるのが辛くなったといって、しばらくお休みして、双方と二人きりになるのを避けていた。

本当に色々辛いわけなのだが、何が一番辛いといえば、問題になっているのが”ハンカチ”だからだ。

そう、ハンカチと言うのは義勇が鱗滝君と付き合うに当たって、かなり重要な位置を占めていたアイテムだった。

最初の出会いで転んだ義勇の手当てをしてくれたハンカチ。
その後も義勇が泣くたび鱗滝君は自分のハンカチを提供してくれていた。

その歴代の渡されたハンカチの分、義勇の部屋にはそれを飾る額縁が増えているわけなのだが、考えてみれば義勇の方からハンカチを贈ったことはない。

というか、鱗滝君が持参するハンカチが義勇の手に渡る率が高すぎて、義勇がハンカチを贈るとそれはかなりの確率で最終的に義勇の手元に戻ってきてしまう気がする。
だから義勇もなんとなく鱗滝君にハンカチを贈るのは気が引けた。

でもだからと言って他の子がハンカチを贈るのが良いかと言うとなんとなく嫌だ。
だって何かで義勇がまた泣いた時に差し出されたハンカチが他の子が贈った物だったとか言うのは嫌だし、かといってそのハンカチが使われることなく大切に鱗滝君の家の引き出しにしまわれているのも嫌である。

贈られたというハンカチを見るたび、鱗滝君が貞子に思いをはせるのもすごく嫌だけれど、単なる世話になったお礼を渡されたことまで目くじらを立てるなんて心が狭すぎて、優しい鱗滝君に引かれてしまいそうだ。
鱗滝君にだけは冷たい嫌な女子だと思われたくない。

そんなこんなで必要以上に甘露寺さんにひっついて過ごしたぎこちない3日間。

──どうしたの?最近義勇ちゃん元気ないけど、鱗滝君と喧嘩でもした?
と、彼女は心配をしてくれるが、さすがに鱗滝君が助けてあげた可哀そうな下級生からお礼にハンカチをもらったのが気に入らないなんてことは言えない。

──なんとなく…女子としての自信がなくなってるだけなの…
と言うしかなくて、それではどう考えても正確なところは伝わらないわけなのだが、そこは優しい甘露寺さんは

──どうしてそう思ったのかしら?義勇ちゃんは女の子の私から見てもとっても可愛いわよ?
なんて言ってくれる。

ボロボロに落ち込んだ心にその優しい言葉が身にしみはするが、とても申し訳ない考えだとは思うけれど、よしんば甘露寺さんにとって可愛らしく映ったとしても意味はないのだ。

鱗滝君の目から見て、貞子よりも女子として魅力的でなければ意味がない。
優しくてよく気の付く女の子…そう思われたい。
だけどそれは義勇にとってはすごく高いハードルな気がするのだった。






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