──今日は同席を許可してくれてありがとう。鱗滝錆兎だ。よろしくな。
放課後…某駅のマックでにこやかにそう言う先輩は正直言ってカッコよかった。
凛々しい感じがするのに、浮かべる笑みがすごく温かくてホッとする。
兄の想い人の女性の先輩に話をする…おそらく相手は兄だけじゃなく妹まで迷惑をかけてくるのかとうんざりしているであろうことは想像に難くないし、その彼氏ともなれば、自分の彼女にしつこくちょっかいをかけてくる男の妹なんて害悪以外の何者でもないと思うのは当然だろう。
実際、貞子はその女性…冨岡義勇とは全く無関係なクラスメート達からもそんな目で見られ続けていたので、その覚悟はしていた。
なのに女性の方は当たり前にスン…と感情の読めない無表情な顔で座っているのに、その横の女性の彼氏だという、デキる男子としてちょっと有名人な先輩は親しみの持てる温かい笑みを浮かべてくれて、貞子は安堵のあまり泣きそうになった。
事の起こりは一昨日の夜のことである。
長兄のことでからかわれてキレた次兄がクラスメートに暴力を振るって怪我をさせたことでずっと遠巻きにされたり陰で悪口を言われていた貞子達弟妹だったが、夕食後、3男の就也がとうとう物理的に被害にあったらしい。
シャーペンをとられて壊されたことで、貞子の所に相談に来た。
それを貞子が仕方なく自分のシャーペンを貸して帰したあと、今度はすぐ下の妹の寿美がLineで友人からハブられてしまったと泣き始めた。
もうこのままでは限界だ。
そう思って、せめてからかわれる行動を取る長兄にそれをやめてもらわなければ…と、貞子は長兄の部屋を訪ねていった。
どう考えても叶わない相手につきまとうのはやめてほしい。
自分達までからかわれると、そう訴えた貞子だが、長兄は
「言いたい奴には言わせておけぇ。
ま、俺もずいぶん長く好きだって態度じゃなかったからなァ。
あいつも信じられねえんだと思う。
でも鱗滝より長い付き合いだしなァ。
気持ちが伝わればたぶんこっち来るだろうし、それまでの我慢だァ」
と、とぼけたことを言う。
違うよ、違う。
知り合ってからの期間が長ければ好きになってもらえるわけじゃない。
それを言うなら貞子だって小1の時から5年も片思いの男子がいるが、それが真剣なのだと伝わったとしても、今告白なんてしたら絶対に振られる。
小学生の貞子でもわかることが何故兄にわからないのか…。
それでも諦めずに、相手は小等部にもたくさんのファンがいる人気の男子で、想いが叶うはずなんて絶対にないと繰り返したのだが、
──あいつはそういう上っ面で男を好きになるような奴じゃねえんだよ、大丈夫だァ
と言うだけで、全然通じない。
大丈夫じゃない、ほんっとに大丈夫じゃない。
そう繰り返すが、大丈夫としか返ってこなくて、本当に何が大丈夫だというのだろう…と貞子はあまりの言葉の通じなさに宇宙人と会話している気分になってきた。
ということでもうこれは自分のボキャプラリではいくら言葉を尽くしても無理なのだろうと、翌日、家にも来たことのある兄とは親しいらしい宇髄先輩を訪ねて中等部へ。
どうしても相談したいことがあるのだと言えば、連絡先を教えてくれたので、その日の夜に電話をしてみた。
そうしてこちらの事情を全て話すと、宇髄先輩は電話の向こうで、はぁあ~っと大きくため息をついた。
迷惑だ…と思われてるんだろうな…とそれに委縮する貞子だったが、貞子の周りのクラスメート達と違って、先輩だからなのか元々の性格なのか、宇髄先輩の口から出た言葉は
『あ~…それは可哀そうなことになってんなぁ…』
で、その言葉の優しさに、貞子はついつい泣いてしまう。
同情されたいわけではないが、それでも兄の行動で自分達まで悪く思われたり意地悪されたり避けられたりするのが当たり前という周りの反応からすると、それはあまりに優しすぎる反応だった。
そのまま数分泣いている間も宇髄先輩は
『あ~、泣け。今時間大丈夫なら、今のうちに泣いとけ』
と言って待っててくれる。
そうしてなんとかしゃべれるくらい落ち着いて、貞子は思い切って相談してみた。
「兄ちゃんは…もう外野では説得無理だと思うんです。
だから例の彼女さんに本当に嫌で絶対に付き合いたくないって兄ちゃんが諦めるくらいきっぱり断ってもらうことって出来ないですか?
しばらく荒れるかもだけど……」
兄が付きまとう限り、同級生の目にはとまるだろうし、噂は広まる。
兄が暴走しているのは今更なかったことにはできないが、兄の方がもう彼女を見るのも嫌になって離れてくれれば、しだいに過去の黒歴史くらいになるだろうし、新たな火種がなくなれば、ひとはもっと新鮮なネタに移動してくれるだろう。
もうそれしかない!
そう思っていったのだけれど…宇髄先輩は、う~ん…と唸ったっきり。
「…えっと…だめ、ですか?」
と不安になってこちらから聞き返すと、
『いや、ダメじゃねえんだけどな?』
と苦笑。
『実はなぁ…迷惑だからってのは、俺からも相手の冨岡からも、なんなら仲良しな冨岡の班員たちからも言ってんだけど、不死川のやつ聞かねえんだよなぁ…。
なんなら、前回の弟の事件、示談にする交渉してもらうために冨岡の彼氏の鱗滝が出した条件ってのが、冨岡にしつこくウザ絡みをしねえってことだったんだけど、示談が済んで喉元すぎたらそれすらスルーでな』
「うあぁぁあ!!すみませんっ!ごめんなさいっ!!申し訳ありません!!」
知らなかったとんでもない事実に貞子が青ざめて平謝りすると、宇髄先輩は電話の向こうで
『あ~、お前さんのせいじゃねえし、お前さんが謝らないでいい。
それはまあ鱗滝も半分想定の範囲内だったみてえで、今後一切不死川家のゴタゴタが起きても関わらないからな?って怒ってはいねえが呆れて言ってる感じだから、まあ今後がなけりゃあ問題ないんだが…』
と、穏やかな声音で説明してくれるが、それですむはずがない。
「いえっ!頼んでくれた宇髄先輩の顔を潰すようなことしてしまって、鱗滝先輩?にも嘘ついてお手間をとらせてしまって、本当に申し訳ありませんでしたっ!
お詫びのしようもありませんっ」
と、貞子は半泣きだ。
それにも宇髄先輩は
『お前さん、小学生にしちゃあありえねえほど、気遣いの人だな。
不死川の妹とは思えねえ細やかさだわ。
苦労してんな、ほんとお疲れさんだ』
となんということもないというように笑って言ってくれる。
ああ、あれだけのことをしでかしていてもこんなに親身になってくれる良い友達がいるのに…と、貞子はまた泣けて来た。
そのまま泣き崩れる貞子に同情してくれたのかもしれない。
宇髄先輩は、
『あ~…とりあえずな、冨岡に話をできねえか今から連絡してやるから、ちょっと待てるか?』
などと言ってくれる。
もちろん貞子がそれを否と言う理由はない。
「ありがとうございます。お手数おかけしますが宜しくお願いします」
と答えて待つ事1時間ほど。
宇髄先輩は直接冨岡さんの連絡先を知っていたわけではなく、その彼氏の鱗滝先輩に聞いてくれたそうだ。
そして冨岡さんいわく、鱗滝先輩が一緒なら…ということだったので、それでお願いした。
本当はつきあっている彼女さんに兄がちょっかいをかけている相手というだけでも十分気まずいのに、兄が示談にするのを手伝わせておいて約束を破ったということまであるので、貞子は本当はすごく怖かったのだが、そのあたりは察してくれたのだろう。
『あ~、鱗滝は正義と公平さを愛するお殿様だから、兄貴があれだからって妹にひでえこと言ったりする人間じゃねえし、むしろ冨岡とだけ会うよりはあいつに入ってもらった方が話が通じやすいから。
ま、話す時には俺も仲介役として同席するから、安心して良いぜ』
と、宇髄先輩が請け負ってくれて、ホッとする。
そうして翌水曜日の放課後、宇髄先輩と鱗滝先輩と共に冨岡さんに会うことになった。
──鱗滝はコーヒー、冨岡はバニラシェイクだったよな?貞子は?
まず席に着くなり宇髄先輩が言う。
──あ、…いえ、おかまいなく。
とつい遠慮してみるも、そこで笑う鱗滝先輩。
──後輩が水で自分だけとか無理だから。宇髄が美味しくコーヒー飲むために何か自分の飲みたい物をリクエストしてやってくれ。
とその笑顔で言われれば、遠慮するのもかえって失礼かと、貞子は
──じゃあ私もバニラシェイクをお願いします。
と、無難に冨岡先輩と同じものを頼んだ。
──おっけ~!ちょっと待ってろよっ
とウィンク一つを残して、宇髄先輩が飲み物を買いに行ってくれるのを見送って、鱗滝先輩は貞子に視線を移した。
そうして貞子と目が合うとニコッと笑う。
すごいな、先輩方。
こんな状況で後輩である貞子が緊張しないような空気を作ってくれているんだ…と、貞子はひたすら感心した。
だが冨岡先輩の方はあまり貞子に興味はなさそうで、スン…とした表情をしていて、何を考えているのかがわかりにくい。
鱗滝先輩は冒頭のように自分の同席を受け入れた貞子に感謝の言葉を述べてくれたが、この表情が読めない冨岡先輩と二人きりで残されるのも気まずいので、むしろ居てくれてありがたい。
なので
「いえ、こちらこそお時間を頂いてありがとうございます。
お手間をおかけしてすみません」
と頭を下げた。
「お待たせっ!まあ飲みながら話そうぜっ」
とやがてトレイを片手に…そう、文字通り4つのドリンクを乗せたトレイを軽々と片手で持って、宇髄先輩が戻ってくる。
そしてそれぞれの前にドリンクを置きつつ、並んで座る鱗滝先輩と冨岡先輩の正面、貞子の隣にドカッと腰を下ろした。
このお話のうずてんが私はクズさねと同じくらい大嫌いです。
返信削除義勇に六年間友達が出来なかったのは クズさねに粘着されたせいです!おっとりしていても人見知りでも友達は出来ます!義勇に近づこうものならクズさね一味に絡まれるから皆義勇を避けたのです。貞子達の孤立とは訳が違います。なのに貞子が1度泣きついただけで、気の毒にどうにかしてやろうって、はぁ!?本来本当の被害者は義勇ですよ!その義勇を貞子達の問題解決の為に呼び出すなんて結局うずてんはクズさねと同じで義勇を見下しているんですよ!義勇はどう扱っても良い、貞子達は親友の弟妹だから助けてやらねば!なんでしょう。実弥はイイ奴だからそれが理解できれば交際したら幸せだつてアタオカにもほどがある!スレ民の皆が言っていた実弥の家庭の事情なんか義勇に全く以て関係ねぇわ!1度蔦子姉さんに大説教されろ!!
...申し訳御座いません、とっても大好きなお話なのですが蔦子目線寄りな義勇ファンな為、六年間辛い思いをしている義勇を軽んじるうずてんへの怒りをどうしても吐き出したくなりました。でも義勇ファンなら同じ思いの方がいらっしゃると思うけどどうでしょうか
?
ん~考え方受け取り方は人それぞれなのですが、実際にいじめがあったとして、特に親しいわけでもない単なる同級生が全面的にフォローをいれてくれるかと言うと、入れてくれる人ってすごくレアだと思うんですよ。
削除この話のうずてんは基本的には周りの人間にはニュートラル。
誰かが誰かをイジメていたとしても、相手を自分が嫌いじゃなければ一緒に右習えでイジメたりはしないし、自分の目の前で行なわれていた時は止める。
けど、相手に自分が名指しで助けを求められているんじゃなければそれ以上は関わらない。
この場合は、貞子はうずてんに直接助けを求めているから自分が無理のない範囲で動いたし、過去の義勇は自分に何か言ってきたわけじゃないから特に動かなかった。
貞子は可愛くて義勇を見下しているとかではないんですよ。
それに対して錆兎はKmtの煉獄さんと同じで、自分が強いならその力は他者のために使うべきだと育てられているので、クラスの平和は俺が守るくらいな感覚を持っている感じです。