わざとではない。
わざとではないのは小等部からの付き合いだからよくわかる。
でも義勇はいちいち不死川のイラつくポイントを突いてきすぎだ…と、宇髄は内心ため息をついた。
まあそれまでの不死川の行いの悪さのせいと思えば、義勇だけを責められないのだが…。
親が普段居ないので、昼食用にいつも登校途中に買うKamadoベーカリーの美味しいパン。
種類も多いから色々種類を変えれば毎日の昼食がそれでも全く飽きることがない。
そんなパンなのに、こんな修羅場で食べるとどうも味がわからない。
伊黒と二人で勘違い発言を繰り返す義勇に
「いい加減にしろォ!!」
と叫んだは良いが、さて不死川はそのあとどう続けるのかということが気になり過ぎて、食事に集中できない。
なので食事をいったん諦めてパンを置いた宇髄の目の前で、不死川はなんと
「俺がつきあいてえのは冨岡で、甘露寺じゃねえっ!!」
と暴露した。
そのあまりに計画性のない、告白というよりまさに暴露といった発言に宇髄は頭を抱える。
これ…成就するとか振られるとか言う以前に信じないんじゃね?と内心思っていたら、
「嘘だなっ!
そんなことを言って俺を油断させるつもりだろう。
甘露寺、不死川には近づかないように。騙されるなっ」
と伊黒が言うと、続いて義勇が
「そうだよね。嘘つくんでも私が好きとかよりはまだ、実は同性が好きな人間で伊黒君を好きだから蜜璃ちゃんと引き離したかったんだとか言う方が信憑性があると思う。
だって、私が好きなのに小等部からいじわるし続けてるとかだったら、不死川はただの頭のおかしい人だよ」
と、恐ろしい発言をしてとどめを刺した。
それに伊黒が
「…俺は甘露寺がいるという以前に、同性に恋情を持つことはないっ」
と思い切り引いていて、それを宥めるように甘露寺が
「大丈夫よ、伊黒さん。
別に本当に不死川君がホモというわけじゃなくて、単にそのくらいありえないことを言っているっていうだけだから」
と、さらにグサグサと突き刺さる発言をしている。
どちらにしてもつい暴露してしまったものの、皆が皆こんな反応で不死川は涙目だ。
しかしそこで
「あ~…どちらにしても…」
と、それでもなんとか話を進めようとする鱗滝はすごい!と、宇髄は感心した。
もうあまりにカオスすぎて、不死川の友人で協力者のはずの宇髄ですら、仲裁にはいってやらなければ…という考えが思い浮かばなかった。
そこでなんとか平穏にと頑張ってくれる鱗滝には頭が下がる思いである。
「うちの班の女子に関して言うならば、甘露寺さんは伊黒と付き合っているし、義勇は俺と付き合っているから。
不死川がどういう理由でうちの班の女子達に興味を持ったのかはわからないが…あるいは、前回の調理実習のことを引きずっているせいなのかもしれないが、本当にもう強く感情的に何かを引きずっているということはないから、気にしないで普通のクラスメートとして接してくれれば良いと思う。
昨日、宇髄から聞いた条件とか諸々は、別に寄るな触るな近づくなという類のものではなくて、問題が起こってすぐは互いにぎこちないものが残るだろうし、落ち着いて平穏に接することができるようになるまで少し距離を置いた方が平和だろうというだけのものだから、安心して欲しい」
ここで新事実、鱗滝と義勇が付き合っていたという話は初めて知ったが、どちらにしても不死川が気まずくならないよう、しかし近づきたくないと思っている伊黒や義勇の気持ちも汲んだ、実にうまい言い方で、ああ、こいつはマジ地頭がいい奴なんだな…と宇髄は彼に対して再認識した。
とりあえず…こういう言い方をしてもらえたなら、不死川も引き返せるはず。
宇髄はそう思ったのだが、不死川は納得していないようだ。
黙って席を立ちあがると、部屋を出て行った。
これからどう出るつもりなんだろうか…
もう本当に客観的に判断すると、少なくとも学年で有数のモテ男と付き合いだした時点で、不死川に勝ち目はないだろう。
しかも相手はただのモテ男じゃないのだ。
女子だけじゃなく、男子にも好かれていて、義勇の唯一といっていいほどの友人の甘露寺の彼氏で気難しい男である伊黒ですら好意的な感情を向けている稀有な人間である。
前も言ったが、この状況を覆すのは、同じくモテ男である宇髄が当事者であったとしても難しい。
ましてや不死川は女子のほとんどに嫌われている男だ。
勝負を挑んだところで、99%どころではない。100%勝ち目はないと言い切れる。
不死川が『暗いがり勉』と言い続けてイジメていたせいであまり気づいた人間はいなかったが、実は義勇の方だって成績優秀な上に目を瞠るくらいの美少女という、かなり高スペックな中学生だ。
普通に心証がマイナスだったりしていなくても、数学以外、特に文系科目はほぼ壊滅的な成績で素行が宜しくなく、ブサメンとは言わないが特別にイケメンなわけでもない不死川が言い寄ってどうこうなれていたかというと、疑問の残るところだ。
100%無理を90%くらい無理に緩和することが出来たとしたら、それは不死川自身がずっと義勇にだけ優しくし続けることくらいだったんじゃないだろうか。
他には粗暴な男が自分にだけは優しくて大切に大切に接してくる…そんなシチュエーションに憧れる女子も居なくはない。
だがそれをするどころか率先してイジメてきた時点でアウトだ。
不死川は義勇にとって今後親切にしようと近づいても警戒される相手となってしまったわけだし、むしろ傍に居ないでくれるのが一番嬉しいと言われている時点で、彼氏がいるいないに関わらず終わっている。
せっかく鱗滝が不死川の発言は調理実習のことで嫌われたのを気にしての暴走という形にしようとしてくれているのだ。
それに乗っかるのが不死川が一番傷つかなくてすむ方法だと宇髄は確信する。
なので昼休みを終えて午後の授業を受けて放課後、一緒に帰って道々それを伝えて説得しようと思ったのだが、宇髄のクラスのホームルームが終わって隣のクラスに駆け込んだ時にはもう不死川は帰ってしまっていた。
なので宇髄はLineで、諦めた方がいい。今が引き時だということを伝えたのだが、既読はついたものの返事はない。
まあ小等部6年間抱え続けてきた初恋を諦めるとなれば、そんなにすぐ、はいそうですかとはいかないだろうとは思う。
それでもきちんと考えて諦めてくれればいいんだが…と、思っては見たのだが、不死川はどこまでも不死川だった。
宇髄が諦めることを勧めた時点で、別方向を巻き込んで暴走することになる。
暴走のバリエーションが広がるさねみん(இ௰இ…被害者を増やさないで欲しい…!
返信削除次回、暴走の世界が広がっていきますw
削除そして巻き込まれの一部は楽しんでいる😁