錆兎さんの通信簿_18_とある年の運動会での出来事

俺が小学校5年生になった年だった。
俺と不死川君は同じクラスで、PTA会長の宇髄さんはもうお子さんが卒業していたので、錆兎さんがPTA会長になっていた。

そんな中で迎える運動会。
いつもと同じ時期にあるそれは、いつもと大きく違っていた。

その年からはなんと、毎年あったクラス全員リレーが廃止されたのだ。


俺は正直運動会が嫌ではない。
少し面倒くさいなと思うことはあるけど、昼には錆兎さんだけじゃなくて真菰さんも村田さんも来てくれて、4人で一緒にお弁当を食べるのは楽しかった。

みんなが見てくれているから1番になりたいなとは思ってて、元々足が遅いわけじゃなかったけど、その時期は最後の一瞬まで全力で走れるように、錆兎さんのトレーニングルームのランニングマシーンを使わせてもらって、毎日走り込みをしたりもしていた。
そうやって準備をしていると、だんだん最初は面倒だと思っていた運動会も楽しみになってくる。

でもそんな運動会が本当に嫌だという子もいる。
それは俺のように『面倒臭い』じゃない『嫌だ』というやつで、理由を聞いてみると、なるほど、俺だってその子の立場なら嫌だろうなと思う理由があった。

その話を聞くきっかけになったのは小学校4年生の運動会の時の出来事だ。
俺達はみんな校庭に椅子を並べて5年生の競技を見学していた。

競技はクラス全員リレー。
それは足の速い子も遅い子もクラスの子全員が走るリレーで、参加人数も多いし点数も高い。

うちの小学校では、普通の足の速い子の選抜のリレーは別にあって、それは4年生から、クラス全員参加のリレーは5年生からとなっているので、俺達も来年はやることになる。

とりあえず今年はまだ他人事で、でも先輩たちが勝つか負けるかで赤が勝つか白が勝つかに大きく影響するので、みんなわいわいと盛り上がっている。

抜いたり抜かしたりの時はすごい盛りあがるし、すごく速い選手がいると、敵方でも大きな歓声があがる。

そんな中でちょっとしたハプニングが起こったようだ。
白組の選手の一人が泣きながら騒いでいる。
グランドの反対側の4年生の席からはよくわからないけど、先生も走り寄ってきて、でもその子は首を横に振って、どうやら走らないと主張しているらしく、競技をやめるわけにもいかないから、その子を抜かして、次の子がバトンを受け取って、足りない分は別の子が2回走ることになったみたいだった。

その泣いている子は何人もの先生に囲まれていて、どうやらPTAとして参加していた錆兎さんもそちらに駆け付けたようだ。

そして何かを話し合っていて、そのクラスのアンカーのゴール位置をなんだか他のクラスより遠い位置にしたみたいだ。

そのクラスは結局1等だったんだけど、走らなかった子はすごく足の遅い子だったみたいで、他のクラスの子達はずるい!って怒っていた。

そこで先生たちは集まって困った顔で、結局マイクを錆兎さんに渡した。


「みんな、今回のリレーについて少し説明をするから聞いてくれ」
錆兎さんが言うと、みんなしょっちゅう学校に来て、なんなら遊んでくれる錆兎さんが大好きだったから、口を尖らせ、頬を膨らませながらも、黙って錆兎さんの立つ台に視線を向けた。

「まず勝負について。
5年2組の走ることが得意で無い子が抜けて、得意な子が代わりに走ることになった件について。
一人が走らないということで全員の競技をやめるわけにはいかないからな。
体育の先生に二人の50m走のタイムを教えてもらって、その差の分、2組はゴールまでの距離を長くすることにした。
だから得意じゃない子が走ったら遅れる分をアンカーは長い距離を走って、不公平にならないようにしたんだ。
ということで、それだけ距離の差があっても2組が優勝したということは、予定通り全員で走っても2組が勝ったということだ」

錆兎さんの説明で5年生はざわざわとみんなで色々話をして、結局納得したみたいで静かになった。

「ということで、勝敗については平等だ。
だが走る走らないについてはまた別の問題だよな。
今回は時間がなくて急遽取った処置だが、毎回こういうことがあっても困る。
だからこれから先生やPTA,もちろん保護者全員が色々意見を出し合って、どうしてこういう事が起こったのか、起こさないためにはどうしたらいいのかをきちんと話し合おうと思う。
そうして出た話し合いの結果については皆にもちゃんと報告するから、それまで待っていて欲しい」

そう話を締めると、5年生がまずポロポロと少しずつ、『は~い』と返事をしながら手を挙げ始めて、最終的に他の学年も手をあげて返事をする。

もっとも…1年や2年なんかは何が起きているのか、何に対して返事をしているのかわからないまま、返事をするのが楽しくて返事をしているみたいだったけど…。









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