悪漢に攫われかけてた少年をギリギリのところで助けた。
さすが俺……
と、思ったのも束の間、自分の正体がばれたら気を失われた。
状況的に警戒くらいはされるかもとは思ってはいたのだが、自分は気を失うくらい恐ろしい容貌をしていたのだろうか…
これまでも戦場で一般人に怖がられたことは当然あるが、ここまで怯えられたことは初めてだ。
これが弟のいる杏寿郎だったなら、もう少し馴染んでもらえたのだろうか…
と、錆兎もさすがに少し落ち込んだ。
しかしそこで早々に気持ちを切り替えるのが錆兎の錆兎たる所以である。
いや、諦めるな、錆兎!
自分にはこの子を守る力も快適な空間を提供する力もあるじゃないかっ!
少なくとも今ここに杏寿郎が居ない以上、この少年を守って安全なところまで保護することができるのは自分だけなのだ。
とにかく本人がそう認識していようと居まいと、今ここに居る中で唯一彼にとって安全な人物は自分だけなので、怯えられようがなんだろうが、これ以上の賊や他国の兵が来ないうちに、すみやかに国境沿いを離れなければならない。
そう判断した錆兎は気を失ったままの少年を乗せて馬で王城まで飛ばす事にした。
そして馬に乗ってみて気付いた。
少年を抱えて馬に乗るとして…これ痛いよな?
どうやったって重鎧姿の自分に抱き締められたら、相手は痛い。
これまで誰かと一緒に馬に乗るとか想定していなかったので、考えてもみなかった。
「ちょっとお前…」
ちょいちょいとそこにいる稲妻隊の隊員の1人を手招きして、一旦少年を降ろして自分も降りる。
そして…おもむろに鎧を脱ぐ。
焦る隊員達。
それに言う錆兎。
「このまま一緒に抱えて乗ったらこの子どもが痛いだろ?」
「ま、まあそうですが、だからと言っていくら王でも危険ですっ!」
「ん、でもまあ…今は俺が多少怪我するよりこの子どもの快適性が重要だ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「わかりました。ではせめて私の装備をお付け下さい」
当たり前に王として何か足りない主張をする錆兎に、付きあいの長い隊員は早々に諦めたらしい。
自分の鎖帷子とサーコートを脱いで王に差し出した。
「私がこの王の鎧を身につけ、他の者と共に残党を狩ったあと目立つように別ルートで戻って囮になりますので、王はなるべく目立たぬよう速やかに王城へとお戻りください」
王は言ってもきかない気が満々のようなので、これが一番建設的かつ安全だと判断した隊員は、そう言って王の鎧を身につけ、王を見送ってため息をつく。
この若き王はこと戦闘となると有能で戦術に長けていて剣技も惚れぼれするほどだが、しばしば自分の身の安全に無頓着なところがある。
まあ、それを含めて最強にして敬愛すべき我らが王だ…と、隊員は苦笑しつつ、仲間を集めて残党狩りを開始した。
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