暑い夏。日本の夏。
産屋敷商事の同期会の社員旅行は今年は何故か夏も真っ盛りの8月だった。
こんな暑い中で?真面目に?とうんざりはするものの、本社だけではなく普段は顔を合わせることの少ない各支社の同期に会うのは楽しみではあるし、なによりそこでの情報交換は仕事を進めるなかで有意義なことも多いので、欠席と言う選択肢はない。
それでも湿気が多くて暑い…わざわざ不快度指数の高そうな場所でやりたくない。
ということで、今年の幹事である宇髄天元は宣言した。
「どうせなら湿気が少なくて涼しい場所でやるぞ!」
もちろん彼は言うだけの男ではない。
実に豊富な情報量とマメさを駆使して信州蓼科の某高級旅館を予約した。
「まあ…全室貸切露天風呂付きなんで、一人一部屋っつ~のはさすがに無理だったから、二人一部屋な?」
という程度のことはご愛敬。
一部、金持ちのボンボンで実家が太い宇髄なら一人一部屋取れる宿も用意できたのでは?と不思議に思う輩もいたが、実は敢えて個室を取らなかったその理由を知るのは当の宇髄とそれを依頼した同期の一人だけ。
それでも二人一部屋でも十分贅沢ではあるので、皆、そのあたりのことはまあいいか、と、流すことにした。
「とりあえず俺に出来るのはここまでだぜ?
あとはお前次第だ。
いい加減、甘えたことばかり言ってねえで頑張れよ?」
現地集合現地解散と言うことで、自分の移動のために車を出すついでに乗せた旧友にため息交じりにはっぱをかける宇髄。
それに
「わあってるっ!俺だって好きで揉めてるわけじゃねえ!」
と口を尖らせる旧友、不死川実弥。
今回宇髄が敢えて2人部屋にしたのは、想い人である学生時代からの同級生、冨岡義勇と二人きりになって少しでも距離を縮めたいという不死川のためだった。
なので不死川としては当たり前に同じ部屋にしてもらえると思っていたのだが、宇髄は彼が思っているよりもずっとスパルタだったらしい。
「部屋割りはまだ決めてねえよ。
そこはまず自分が冨岡と一緒の部屋になりたいってアピールする気概を持てよ」
と言う。
まあ、随分と長い間、素直になれない不死川に苦言を呈してきただけに、手助けをするにしてもそろそろやる気を出したところを見せてみろと言ったところか…。
それに不死川は気まずそうに、しかし、素直に頷いて見せる。
そして
「あいつぁ不器用だからよォ…色々手助けしてやることできっかけに出来るだろうしな。
まあ…なんだ、帰りはあいつと二人で電車で帰らぁ」
と、くしゃくしゃと頭を掻きながら、照れたように言うので、
「あ~、そうかよっ。じゃ、俺は帰りはどこかで可愛い子でも見つけて帰るわ」
と宇髄はそう返して笑って見せた。
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