寮生は姫君がお好き1035_優秀な凡人の画策

亜子が自分の携帯を取り出すと、宇髄は
──これ、借りていいか?直接話したい。
と上から手を伸ばしてそれを取り上げた。

──えっと…それは…
とさすがに戸惑う亜子だが、宇髄は
──これ、代わりに俺の。お互い隠し事はなしな?
とにっこり。

──俺は亜子のプライベートは極力見ないようにするけど、俺のは見てもいいぜ?
と、そこまで言われると否とは言いにくい。

実際、渡された携帯にはパスはかかっておらず、中を見れば普通に童磨とのLineのやりとりや、寮生達とのメッセージなどが見られてしまう。

宇髄は洗脳されていることは理性ではわかっていてそれでも恋愛感情を楽しんでいると言っていたが、これもその一環なんだろうか…。

幸い宇髄に取られた亜子の携帯は今回の作戦のためにJSコーポレーションから支給されたJSコーポレーションの担当とのやりとりのみしかない携帯なので、亜子の側は見られて恥ずかしくなるようなものは一切ない。

だからいいか…と安易な考えで亜子は携帯の交換を了承した。

一応
「えっと…それは依頼主から配布されたもので、通話履歴もLineも担当者とのやりとりしかないけど…」
と言うと、宇髄は
「ああ、それでかまわねえよ。
俺はその担当者と俺の今後のバックアップとか待遇とか諸々について交渉したいだけだからな」
と笑顔で答える。

そう…とても良い笑顔で……。

彼をよく知る者なら警戒心MAXになるその笑顔。
しかし亜子はデータとして彼を知っていても、彼の本質までは知らなかったので、その後の
「ああ、そうだ。いい事教えてやるよ。
今、将軍…銀狼寮の寮長のことな、は、小郎がこっち側にどっぷりつかっていることに危機感を持った金竜の中等部生に逃がされた金竜の姫の依頼で、主だった寮生達を連れて金竜を攻めに行ってるぜ?」
と言う宇髄の言葉にすっかりと関心を持っていかれて気持ちをそらされた。

まあ…亜子にとってそれは非常に重要な情報だということもあるが……

「つまり…今銀狼は…」
「ああ。銀狼寮の寮生はわずかな護衛以外はほぼいない。
敵に回すにしろ抱き込むにしろ、軍曹が戻ってくるまでは銀狼寮の姫君に近づくまたとないチャンスかもな」

「今すぐ行ってくるっ!!」
「らじゃ。俺はここで交渉始めてるわ」

考える間もなく脊髄反射で銀狼寮に駆け出す亜子。
それをヒラヒラと手を振りながら笑顔で見送る宇髄に、気配もなくすぐ近くに佇んでいたモブ三銃士の一人、射人が
「宇髄先輩、マジだますの上手過ぎ。怖っ…。
でもまああの女教師も頭の弱さがやばいですね…」
とため息まじりに言った。

それに宇髄は彼女から奪取した携帯をいじりながら
「楽勝楽勝っ!
たぶんな、敵さんも玄人使うとバレそうだからって素人使ったんだろうけどな。
やり方がもろ恋愛脳だし、そういう女の行動パターンとかに当てはめて行けば、まあ特別な洗脳道具なんてなくても思い通りに動かすなんて簡単だぜ」
と笑う。

「どうせ乙女ゲームか何かのやりすぎで、逆ハーエンドでも目論んだんだろ。
それは良いにしても…たぶん本命を将軍にしてんのがな、馬鹿にしてるよな」
と、それは彼にしてはなんだか不愉快そうで、ああ、やっぱり寮長やる人は自分が一番と言う自負があるのかと思えば、続く言葉は
「本命王道はうちの煉獄だろっ、あのバカ女」
で射人はびっくりしてしまう。

「自分が…って選択肢はないんですか?」
と問えば、宇髄は淡々と
「ああ、俺は主人公じゃないからな。
世の中には主人公張る極々少数のカリスマが居るんだよ。
物語で言うと王子とか勇者とか、なんだかわけわかんないけどまつりあげられるやつな。
でもってこのカリスマってのは生まれつき持ってるものだから、持たない奴はどんなに努力しても無駄だ。
で、優秀だからこそ自分がカリスマになれない人間だってわかっちまってるカリスマより優秀な凡人が俺ってわけだ。
そんじょそこいらの馬鹿だったら自分がカリスマに取って代わろうなんて無謀なあがきをするんだろうけど、俺は優秀だから?
無駄な方向の努力をするよりは、カリスマを補佐してカリスマに必要不可欠な人間だと本人にも周りにも認識させて、自分をカリスマ以上の人間だと思わせることに心血を注いでる。
それには手の内のカリスマには輝いていてもらわないとだからな。
将軍を本命にしているらしいあたりで、もうあの女は俺の人生の敵だな」
と語った。

「なるほど…。
じゃあ煉獄が本命だったら宇髄先輩は俺らの敵に回ってたんですか?」
「いや?銀狼寮を敵に回してる時点で、うちも協力はできねえよ」
とそこで寮長と言う立場に舞い戻った発言をする宇髄に射人が首をかしげると、宇髄は澄まして言う。
「ここだけの話、錆兎には立場的に逆らえねえ」
「へ??」
ますますわからない…と射人が呆けた顔をしていると、宇髄は
「あいつの実家は俺の実家の本家の上司みてえなもんなんだよ。
表面上は互いにそのあたりはスルーしてっから関係でほぼ知られてないけどな」
と、とんでもない情報を明かしてくれた。











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