寮生は姫君がお好き1008_モブ達の雑談

うちの皇帝は世界で一番カッコいいし、うちの姫君は世界で一番可愛い。
それは東から日が昇り西に沈むくらい当たり前のことである。

そんな二人を戴く銀狼寮の寮生で幸せだと、茂部太郎達、モブ三銃士は日々思っていた。

そして学校が終わって帰寮し夕食を摂ってその後何もない日は、茂部太郎の部屋に集まって今日の皇帝&姫君についての報告会及び萌えを語る会を開催している。

昨日の主な議題は茂部太郎の献上した香水をまとう姫君の素晴らしさと、香水の存在を知って即、その姫君と同じ香水を欲しいと言う、皇帝の姫君に対する愛情についてだった。


結局皇帝はどこまでも職務に忠実で、姫君は神聖不可侵な存在だという学園の方針を遵守。
自分だけではなく寮生全員に配布と命じた。

茂部太郎達にしてみれば二人だけの方が嬉しいのだが、もうこれは仕方がない。

どれだけ姫君を愛おしいと思っているとしても、我らが皇帝は絶対に我欲に溺れず、毅然と皇帝としてあるべき姿を崩さない高潔さがまた素晴らしいのだ。

皇帝は物理的な、姫君は精神的な拠り所であるというのが藤襲学園の一般的な認識ではあるのだが、茂部太郎達に言わせれば、皇帝もまた、自分達の誇りであり、精神的な拠り所でもあるのだと思う。

そんな尊敬すべき皇帝の皇帝たる姿に敬服し恐れ敬うものの、強火担としてはそれでも差別化がしたくて、寮生達にはクローゼットに設置する用と持ち歩く用の2種類の匂い袋で、皇帝にはいつでもつけられるように保管用に大きな物と持ち歩き用に小さな物の2種類のアトマイザーを用意した。

もちろん、そのアトマイザーの色は姫君の瞳のように透明度の高い綺麗な青色である。

小さいアトマイザーの方は姫君の方にも皇帝と同じデザインで皇帝の瞳の色と同じ藤色の色違いの物を進呈したのだが、そのデザインを随分と気にいって頂けたようで、嬉しそうに自分のみならず、皇帝の手先にプッシュして顔を寄せて匂いを嗅いでいる姫君が大変大変愛らしかった。

エルサイアオデッセイの中でも画像に出ないだけでカインとアリアの間でこんな風なやりとりがあったに違いないと、そんな想像だけで3人で一晩盛り上がる。

そうして翌日、3人も他の寮生と同じく姫君と同じ香りのする制服を着て、颯爽と後期初日の学校へと赴いたのであった。


その日は担当は高2だが前代未聞、女性教師が赴任してくることになっていて、ちょっとした騒ぎになっていたが、3人には…というか、銀狼寮生には全く関係ない。
皆、よしんばどれだけの美女が来ようとも、自寮の姫君一筋だ。

むしろ
「うちの姫君と比べられたら可哀そうだよな」
などと女教師に同情するくらいである。

まあそのあたりの姫君崇拝は銀狼寮に限ったことではないが…。

少なくとも同じ1年の外部生で何故かやる気がなさすぎる我妻善逸を姫君を戴いている隣の金狼寮以外はみな、自寮の姫君が一番なのが藤襲学園の学生たちだ。
女教師に惑わされたりするはずがない。

万が一惑わされるような輩が居たとしても、同じ寮生、とりわけ寮長から注意が行くだろうし、混乱が起きるはずなどないはずだ。

そんなことを話しながら恭しく姫君に腕を貸しながら歩くピシッと姿勢良く後ろ姿からしてもう威厳と凛々しさに溢れている寮長と、その頼もしさあふれる寮長とその寮長の弟弟子に囲まれてちょこんと愛らしい様子で歩く姫君を少し下がったところから拝見しつつ学校までの長くはない道のりを堪能する。


学校に着くと、中央校舎から右手の中等部の校舎へ姫君を送っていく寮長を見送ったあとに、茂部太郎達は高等部の校舎へ。

教室に入るともう登校している生徒が半数以上で、同学年の金狼寮の寮生達が姫君をイメージした芳しい香りをまとって自慢げな銀狼寮の寮生達を盛大にうらやましがっていた。

「お~、モブ三銃士、おはようさんっ」
茂部太郎達が席につくと、ヒラヒラと手を振ってくる金狼寮の寮長。

彼は不思議な人物で、気配もなくあまりに目立たないため目の前に居てもしばしば見落とされる茂部太郎達3人を何故か見つけて声をかけてくるのだ。

まあ…一度豪華客船の旅で一緒に遭難し、謎の生物の居る小島でサバイバル後に生還というありえない経験をした仲だからかもしれないが…

「あ、不死川さん、おはようございます」
と茂部太郎が返すと、不死川はチラリと大騒ぎの自寮と銀狼寮の寮生達に視線を向け、
「アレ、錆兎からの配布な感じかァ?」
と聞いてくる。

アレというのは香水の事だろう。
献上したのは自分だが全員配布を決めたのは寮長なので、茂部太郎は迷うことなく
「はい。
うちの皇帝は偉大なだけじゃなく優しく素晴らしい方ですからっ。
姫君のイメージの香を自分も身につけたいと思えば、寮生もそう思うだろうと全員に配布するように手配されました」
と大きく頷いた。

「…そっか…オリジナル?」
「ええっ!」
「…う~ん……」
「…それが何か?」
「いや、うちにも配ってくんないかと…。
寮生達がマジ羨ましがってうるせえ。
つか我妻にもちっと洒落っ気のあるもんつけさせてえし」

肩をすくめて言う隣の寮の寮長に、おいおい、金狼寮は寮生が他寮の姫君のイメージの香水をつけたいとか言ってて黙認で良いのか?とさすがに思う。

そんな疑問が顔に出ていたのだろう。
チラリと茂部太郎に視線を戻して
「…うちは極力目立ちたくねえんだよ。
洒落っ気がなさすぎてもあり過ぎても悪目立ちすっからなァ
銀の影に隠れてんのが一番目立たねえだろ。
お前らんとこは皇帝も姫も目立つからなァ」
と、くしゃくしゃと頭を掻きながら言う不死川。

ああ、なるほどな。確かにそうかもしれない。
と、最初の行事の姫君の顔見せの時のことを思い出して、茂部太郎は大いに納得した。

どちらにしても敵が減り味方が増えるのはいいことだ。
なのでこれは…あるいは金狼寮の寮生達にも行きわたるようにしなければならないかもしれない。
茂部太郎はそう思って、香水開発の担当の使用人に製造量を倍増するようにと申し付けるメールを送った。











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