寮生は姫君がお好き94_葛藤

──……錆兎のそばがいい…

無一郎と不死川と炭治郎と4人で細々したことを決めて、最終的に決定してから義勇に今回のことを伝えると、ぎゅっと錆兎の袖口を掴んでそう言って俯かれた。

大きな青い瞳が溢れ出たもので潤む。
そうしてポロポロと目から透明の雫が零れ落ちては白い頬を伝ったところで、錆兎は片手を額に当ててため息をついた。

無理だ…無理。
これをスルー出来るほどのメンタルは俺にはない。

正直…錆兎は泣かれると弱い。
正確には自身が可愛いと認識した相手には?

しかも義勇は育った環境もあって歯がゆいほど我儘も言わず、諦めの良い少年なのでなおさらだ。

──…ウソ……ごめん、迷惑だよな…
なんて、こちらが何も言う前に前言撤回してしまうほどには……

ああ、無理だ。本当に無理だ。

「あのな、勝ちに行くなら、正直、かなり走ることになる。
作戦中は構ってもやれなければ手を貸してやることもできん。
いや…勝負捨てるって手もあるけどな?
俺はこの3年間の寮長生活をお前のために捧げるって決めてるから、それでもいいんだが…」

そうだ。
寮長と言えども一寮生である以上は、姫君に尽くすために存在しているのだから、姫君が否と言うなら、戦略大会の勝利なんて二の次であるべきだ。

錆兎は即座にそう思いなおして、自分が離れない前提で義勇の身の安全を守る方向で色々を考え直し始める。

不死川あたりに知られたら呆れられ、無一郎あたりに聞かれたら叱られそうだが仕方ない。
自分は姫君のための一振りの剣なのだから…。

「お前にとって一番いいようにしてやる。
だから頼む、泣かないでくれ」
と、涙があふれる目尻に軽く唇を寄せる。

すると、錆兎の大切な姫君は泣きながら我儘を言ってごめんと首を横に振るので、錆兎はその小さな体をぎゅっと抱きしめて腕の中に閉じ込めると、

「我儘ではない。
お前は普段あまりに要望を口にしてくれないからな。
姫さんがしたいことを叶えてやれるのは嬉しいし楽しいぞ?
俺は戦略考えるのも嫌いじゃないしな。
お前が俺のそばを離れないで良い方向で、極力トップを狙える方法を考えるからな?」
と、可愛いつむじにちゅっちゅっと何度もくちづけた。


さて…姫君に約束をしてしまったのだから、無理でもなんでもこなすしかない。
金狼寮の寮生は陣地に残さず善逸から引き離すためにも敵陣地を攻めるのに使うという不死川との契約がある以上、自分が陣地に残るという選択肢はない。

となると、義勇の方を連れ歩くことになるのだが…ブレスレットなど正直どうでもいいが、万が一にでも義勇に敵の攻撃手が向かって怪我でもするような事態に陥らせるわけにはいかない。

そうなると、どうするか……
何重にも色々な手を打っておかねば…

今使える諸々を思い浮かべながら、錆兎は考える。
そうして思いついた手を実行するために、茂部太郎を呼んで打診。

「任せて下さいっ!完璧なものを提供しますっ!」
と、その錆兎の依頼に対して、実はそこそこ資産家な親を持ち、愛らしいものが好きらしい…そして何より自寮の姫を敬愛している彼は、思った通りかなりの熱を持って了承してくれた。








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