「こんな時間にこんな場所からか…」
と、錆兎は呆れかえった。
が、石を投げた人物はなんとなく分かる気がして、警戒もせずに窓際に足を運ぶ。
そして、窓の外に木の枝の上にいる人物たちを目にして、少し吊り目がちな綺麗な藤色の目をまん丸くした。
と、窓を開けながらそう言う錆兎に、
「よぉ」
「ばんわ」
と、それぞれ言って部屋に入り込む二人。
正直…不死川は予想通りだったが、そこに無一郎までついてきているとは思っても見なかった。
素直にそう口にすると、
「ん~、だってね、もうすぐ戦略大会じゃない?
うちの村田ほど戦略からほど遠い寮長はいないし?
俺も自分の身は自分で守りたいなぁって」
と、無一郎はにこやかに言う。
なるほど…と、ここに来た理由は理解したものの、錆兎も対応に関しては少し悩む。
おそらく武力という意味で言うと金銀あわせて6寮中ダントツ最下位の銀竜寮の姫君である無一郎としては、どうあっても他寮と組まなければならない。
しかし戦力にならない銀竜と組もうなどという寮は早々ないだろう。
錆兎にしても個人としては助けてやりたいとは思うが、それが自分のみではなく、寮や自寮の姫君を巻き込むとなれば話は別だ。
状況を察して考え込む錆兎の思考は当然無一郎も予測してきているので、彼はニコリと可愛らしい笑顔で近づいてくる。
「あのね、俺達3寮組むことが錆兎の…ううん、義勇の銀狼寮がトップになるのに一番確実な道だと思うよ?」
それは悪魔の囁きだと錆兎は思う。
実際に手足を使って戦う事、そして、それの延長線上の戦闘面での戦略では錆兎は自分が学園一だと自負しているのだが、あいにく戦闘を離れた心理戦になるとその限りではない。
逆に生まれた時からお家騒動の中で自らに敵の目が向かないように巧みに立ち回ってきた無一郎はその道の猛者だ。
敵う気がしない。
聞いたら最後だ…と思うのと同時に、それでもより確実な道を模索するためにはより多くの情報を集めておかねばならない…と思う自分もいる。
そのまま話そうとする無一郎を一旦押しとどめて、2人にコーヒーを淹れるわずかな時間に必死に検討した結果、結局天秤は後者に傾いて、錆兎は不死川と無一郎にそれぞれコーヒーのマグカップを渡しつつ、
「で?その根拠と条件は?」
と、自分もコーヒーをすすりながら先を促した。
「あのね、金狼はもう姫君戦は一切捨ててるし、今回の戦略大会の一番の課題は戦いのどさくさで我妻を暗殺されないことなのね。
でもって、たぶん金狼寮には何人か暗殺者や内通者が紛れ込んでるから、出来ればどさくさに紛れられる状況の時は寮生から我妻を離したいんだ。
だから、戦略大会の間、我妻を銀狼寮の陣地で守って欲しい。
もちろん、護衛に不死川も一緒にってことで」
「…それ…銀狼側のメリットは?」
と、当然だが聞く錆兎に、不死川が手を挙げて言う。
「俺が銀の姫君も一緒に守る。
なんなら他の寮の攻撃からっていうことで言えば、我妻より優先してもいい。
あと…うちの寮生全部、錆兎が他寮攻める時に使ってくれぇ。
俺的には我妻に対する暗殺者を傍に置くよりは外に連れて行ってくれた方が安心だし、銀狼側からすりゃあ1寮分の兵隊全部使える…ってのは結構なメリットにならねえか?
もちろん錆兎がそれで奪った他寮のブレスは銀で持ってってくれてかまわねえ。
銀から攻撃のために割く兵を減らせるから、銀の姫君の護衛も厚くなるし、俺が絶対に錆兎を裏切れない理由は錆兎も知ってるだろぉ?
表向きはもう俺と我妻じゃ戦うだけ無駄だし、我妻が銀の姫君とダチで守りてえって言うから好きにさせるついでに自寮のブレスだけ守らせてもらうって感じで問題ない。
というか、それで問題なら俺が責任は被る
錆兎が超気合入れて他3寮のブレス総取りすれば、それでうちは3位決定。
ってことでいいかぁ?」
「あ~…確かに理は通ってるし、悪い条件じゃないな…」
と、錆兎も納得する。
確かに銀狼寮には無関係なだけに善逸に関する暗殺者も内通者もいない。
ようは不死川からしたら、金狼寮に大勢忍び込んでいる暗殺者達に気づいていると知らせずにそれらから引き離しておきたいというのが一番なのだろう。
それには誰がというのがつかみきれない以上、全員を外に攻めに行く錆兎につけてしまえばいい。
そのうえで善逸が滞在する銀寮陣地には、自寮の寮生だけではなく不死川という力のある戦力が護衛として残るので、銀の護衛のパワーアップになる。
なるほど、winwinな提案だ。
無一郎君の一人称が俺になってますが、「僕」じゃなかったかと思いますのでご確認ください。^^;
返信削除ご指摘ありがとうございます。
削除修正しました😊