寮生は姫君がお好き910_対峙

錆兎が全寮長の中で一番手ごわいと思っているのが銀の虎宇髄だ。
まずデカい。
ウェイトがあるということは、それだけ攻撃も痛い。
単純な力比べとなれば、錆兎よりも強いだろう。

それでもそのウェイトからくる腕力の差は、身体を鍛えぬいて技術を磨くことでカバーが出来る程度のものだが、宇髄は体術も馬鹿にできない。
さらに厄介なのはそれに冷静で技術に長けた金虎の童磨がもれなくついてくるところだ。

表の銀虎、裏の金虎。
一応金銀対抗という事も多く、ライバルなはずの2人は小中高と12年間も同学年で付き合いがあるだけあって色々互いの戦いを理解し合っている。
寮以外の事ではわりあいと一緒に居ることも多く、それこそ姫君戦争のような金銀が関係のないイベントでは、これまでの寮長としての2年間もいつも同盟を組んでいた。

付き合いが長く深いため、互いの長所も短所も知り尽くしている感があり、実に嫌な連携を組んでくる。

片方だけなら全く問題はないが、2人揃うと気を抜くと危ない。



…まあ、これを打開する策は練ってるけどな……
と、何重にも張り巡らせた策を思いながら、錆兎はよぉっ!と3年組の寮長に向かって右手を上げつつ笑みを向けた。

「やあ将軍。
きみ、まあぁ~ったく隠れる気ないよねっ。
俺と宇髄、2人がかりでも余裕な感じ?」
と、まずは童磨がにこやかに応えてくる。

このあたり、宇髄に任せると次の瞬間、戦闘になりそうだからと言ったところなのだろうが、童磨のその判断は正直ありがたい。

もっともその童磨の方も
「今回は金狼と組んだんだ?」
と、そのあたりの情報を得たいと言った感じだが…。

「まあ、見ての通りだな。
ついでに言っておく。
銀竜とも組んでる」
と錆兎が自分から手の内を明かすと、3年組の寮長は驚いた顔になった。

「え~っと…手の内明かしていいの?
将軍、何かすっごく余裕?」
先に我に返って質問を返してくる童磨に、

「こっちだけそっちの情報を知ってるのもフェアじゃないだろう?
他は知らないが俺は正々堂々戦略と腕力で片をつけたい人種だから」
とにやりと笑って見せる。

「ふ~ん…まあ、そんな感じだけどね、将軍は。
で?そういうことなら、どこまで知ってるとか聞いていい?」

信じたのか信じていないのか…おそらく前者な気がするが、童磨が小首をかしげてさらに聞いてくるのに、錆兎は内心、しめた!と思った。

そう、嘘じゃなく本当のことだが、それを伝えることによって…正確にはそれを相手が知ることによって自分が有利になる。

なので錆兎は端的に言った。

「金竜が裏切る気満々なとこまでか?
俺にとっては自寮の姫君が一番だ。
だが、他寮でも寮長より先に姫君に手を出そうと言うのはあまり好まないな」

その錆兎の言葉は真実である。
錆兎的にはこの手のイベントはまず強い寮長を倒してそれ以上の抵抗は無駄だと知らしめた上で姫君には降伏勧告をしたいところだ。

彼のそんな性格は彼が有名人だけに他寮、他学年にまで周知されているので、3年生組もあっさり信じたようだ。

「ちょ…それは……」
と青ざめつつ絶句する童磨と、怒りに顔を赤くする宇髄。

「銀竜と組んでいるというのを明かしたのはこれを明かすためでもある。
銀竜の方からうちに情報収集と絶対に裏切らない頭数の代わりに無一郎を一緒に守って欲しいということで売り込んできた。
で、契約通り銀竜が集めた情報の一つが3年生組と金竜が3寮同盟を結んでいるということと、3年組が俺と対峙してる間に3寮分の姫君を守る契約だった金竜が守りを捨てて、寮長と主な兵隊が不在な虎2寮の姫君のブレスを奪ったあとに、俺がいない銀狼の陣地と元々弱い銀竜を襲撃。
最悪虎2寮と銀狼、銀竜の4つの姫君のブレスと銀竜の寮長のブレス、それに自分のブレスを合わせれば6つで過半数になるから、それ持って逃げ回って優勝狙うつもりらしいということだ。
ま、うちは攻めて来ても不死川が守っているから問題ないけどな」

錆兎が肩をすくめると、童磨はかろうじて笑みを張り付けて
「その…花嫁は、フェイク?」
と聞いてくる。

それも想定の範囲内だ。
信用は大事だということで、錆兎は今回は嘘をつかないでやって行こうと思っているので、花嫁を手招きで呼び寄せて、その頭から顔を隠しているヴェールを取る。

その下には義勇とは別の顔があって、これには宇髄が頭を掻きながら
「あ~…そうだよなぁ…。
おチビちゃんの横でいっつも威嚇してるお前の弟弟子がいねえもんな」
と、ため息をついた。

童磨もそれには
「俺達に教えてくれたってことは…とりあえずこれは対金竜用のフェイクってことだよね」
と言ったあと、
「それで…俺達は自分の姫はやっぱり守りに帰りたいわけなんだけど…ここまで明かしてくれたってことはさ、将軍、ここは見逃してくれようなんて思ってる?」
と、苦笑する。

まあ、それは錆兎としても望むところだ。

「たぶん…金竜はもう行動に出ていると思うが、間に合うかもと思って陣地に戻るなら後ろから攻撃をしかけるような卑怯くさい真似はしない。
金竜は宇髄達が来年いないから問題ないという判断らしいが、今の虎寮の中等部生はそれを覚えているし、来年度の虎の寮長は今の中3だ。
あまりに卑怯な真似したら、自分の首絞めることになるのにな。
ま、陣地でかち合ってそちらがちゃんとこちらを向いてるなら、そこは正々堂々戦うけどな」

嘘はつかない。
そう、言っていないことはあるが、嘘はついていない。

「とりあえず俺らは先輩舐めてくれた後輩をブレスのことは度外視で締めておかねえとだから、今回はたぶん優勝は二の次だ。
で、まあ、今回は将軍には借りを作っちまったから、少なくとも銀のおチビちゃんには手を出さねえ。
ってわけで、俺らは戻るわっ!
金竜は見つけたら将軍がボコってくれてもいいが、なんなら俺らにボコらせてくれ」

と、そう言って、虎寮の2人の寮長は寮生と共に反転し、それぞれの陣地へと戻って行った。









0 件のコメント :

コメントを投稿