ファンタスティックタイム_9_まだまだ質問コーナー

暇な時はお互いのことを考えている二人に、この質問はないだろう…
…と思ったのは村田だけだったらしい。

続いてきた質問は…──お互いの好きなところは?

これ…語り始めたら一日が軽く終わるんじゃないか?と村田は指先でクルクル回していたペンをノートの上に落してしまう。

しかしまあ、これに関してはなんとなく想像がつくしメモを取らないでも記憶できる気がする。
村田はそんな風になかば開き直ったような気持ちでスマホから流れる音声に耳をかたむけた。


まず聞こえるのは錆兎の珍しく柔らかな声音。

「たくさんあるけど…一番はほわっとした柔らかな性格。
俺はすごく硬質で融通の利かない性格をしているから、さっきの暇な時はって質問でもあったけど、スケジュールを合間なく詰めてしまう所がある。
でも人間てやった方がいいかもしれないということはたくさんあっても絶対にやらなければならないことってそんなになくて、何もかもきちきち詰め込んだ俺の一日と言うのは時に味気ないものになりがちなんだけど、そんな時に義勇にこれやりたいなぁって誘われて予定を変更してやると結構楽しくて…。
なんだろう…うまく言えないんだけど、義勇の要望って時に唐突なんだけど、その唐突さが余裕がない俺のスケジュールに楽しい色どりを添えてくれる感じなんだ。
義勇はいつだって、姉にもよく『何を生き急いでるの?』って言われる余裕がない俺がぽっきり折れる前に引き留めてくれる。
あ…これ、好きなところってより、必要な理由になって来てるな」

と言う錆兎の声はとても甘くて、村田は聞いていてなんだか新婚家庭にお邪魔した独身男のようにむずがゆくも居心地の悪い気持ちになってきたが、おそらくモブ子を始めとするリスナーのお嬢さんたちは現在絶叫中だろう。


その後、
「あと好きなのは容姿。
真っ白な肌もよく潤んでキラキラしている大きな青い目も、つやつやした漆黒の髪もすごく好きだ」
と、外見的なものに言及して錆兎の答えは終わる。

──これって…なんか同性の友人に対して言う言葉じゃないよなぁ…
と、村田はそこですでにそう言いながらはぁ…とため息をついた。


そう、錆兎の答えもすごかったが、義勇の勢いはさらにすごかった。

「錆兎の好きなところなんて一日一か月…ううん、1年でも話してられるっ!」
で始まる言葉。

おそらくスタジオで両手に握りこぶしを作って目をキラキラさせているのだろう。
村田にはそんな義勇の姿が容易に想像がついてしまう。


「とにかく錆兎という存在が好きだっ!
錆兎が錆兎であるという時点でもうすべてが好ましいっ。
具体的にはまず、顔がいいっ!これは外せないっ!!
世界の至宝だと思うっ!!!」

…お前、普段のあの蚊の鳴くような小さな声はどうしたよ?
普段からその音量出せよ…
と、村田が心の中で突っ込みを入れる程度には大きな声。

「あと男らしいのに優しい性格っ!
細かいことにこだわらなくて大らかなのに困ってたり辛かったりすると気づいて細やかに寄り添って助けてくれる。
あと手もっ!
錆兎が手を握ってくれているとどんなことが起きても大丈夫な気がしてくる。
努力家で実際に才能もあるから何もかもすごく出来る。
剣道も柔道も空手も有段者で強くて、力も持久力もあるから何かあっても俺の一人くらいなんでもないように支えてくれる。
あと勉強もできるからわからないところがあると教えてくれる。
ご飯も美味しいっ!
かあさんの鮭大根がずっと世界で一番の好物だったんだけど、小学校高学年くらいからかな…錆兎がかあさんに料理習いに来て、全く同じ味のものを作れるようになってからは、かあさんのと並んで世界で一番好きな食べ物になったっ。
あとあと…手先が器用で、俺達は毎年秋あたりからその冬に向けてお互いのマフラーを編み始めるんだけど、これが店で売ってるみたいに上手で付け心地が良いんだっ。
それでもって俺が編んだいびつな形のマフラーを嫌な顔もせずに普通につけてくれる優しさも好きだっ。
あとは…体温が高めだから冬は手を繋いだりハグしたりすると温かいのがいいっ。
寒いって言うと自分も寒くても当たり前に上着や手袋を貸してくれたりと優しいし。
ああ、そうだ。
夏の暑い場所での撮影とかでは当たり前に日差しが強い方に立って日よけになってくれるし、冬の寒い場所での撮影では風上に立って風よけになってくれる。
とにかく優しいっ!
顔が良くて頭も良くて運動神経も抜群で男らしくて優しくて思いやりもあって、これを好きにならないなんて絶対におかしいよっ!
他にも具体的には……」

と、まだまだ勢い込んで続けそうな義勇に、
「ストップっ!ストップ、義勇っ!
そろそろ終わりの時間だからなっ」
と、錆兎が慌ててストップをかける。

ああ、確かに質問コーナーの質問の一つの答えに対してはものすごい質量だ。

──まあ…義勇はもちろんだけど、錆兎も大概義勇のことを好きなんだよなぁ…
と言って、村田はまたそっとペンを手に取る。


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