その日のお悩み相談は錆兎がそうして真面目に…しかしバッサリと、他人の好みをとやかく言う奴がおかしいと斬り捨てたところで、質問コーナーに進んでいく。
──質問です。
と、例によってここだけはナレーターの声で紡がれるセリフ。
──好きな人に好きって言えますか?
「「言えるっ!」」
と、二人口をそろえて言う。
好きな相手は好きと言うのが恥ずかしいと思うような年になる以前に隣にいたのだから。
──寒い季節によく飲む飲み物は何ですか?
「粉茶…だな。
自分の机には保温のポットとほうじ茶と日本茶と麦茶の粉茶を並べてる。
電気ポットとかじゃないからいずれお湯が冷めるし、茶葉だと出が悪くなるから。
義勇が居る時は温かいお湯をマメに補充するけど…」
と、答える錆兎に、まるで初めて知った!と言うように義勇が目を丸くした。
「そうだったんだ。
わざわざ補充してくれてたんだな。さすが錆兎!優しいな」
と、ほわほわと嬉しそうに浮かべる笑みは音声番組ではリスナーは見られない。
それを唯一間近で見られることは普段の錆兎の献身に対するご褒美のようなものかもしれない。
「それはいいから。
質問に答えろ。よく飲む飲み物」
と、自分に向けられる笑みがあまりに愛らしいので気恥しさを覚えて促す錆兎に、義勇は、ん~~と考え込んで、
「錆兎が淹れてくれるもの。
暑くても寒くても錆兎がいつでもその時に俺が飲んで美味しいものを淹れてくれるから、これって意識したことはない。
最近だと…チョコレートとかアッサム?とか?…あとキャンディス??」
と、意識したことがないと言うだけあって、義勇は名称をよく覚えていないらしい。
たどたどしく言う義勇の言葉ではリスナーには伝わらないだろう。
…ということで、例によって錆兎が補足する。
「チョコレートはホットチョコレートな。
レンジ可のマグカップに牛乳を七分目ほど入れて、何でも良いから買い込んだ安い板チョコを割り入れてレンチン3分。それを最後混ぜたら出来上がり。
俺は普通のホットミルクの方が好きなんだが義勇は甘いの好きだから。
アッサムはもう紅茶飲む奴はわかると思うけどミルクティに良い茶葉の種類。
これも俺はアールグレイのストレートの方が好きだけど義勇はミルクティが好きだから。
普通にトワイニングのゴールデンアッサムのティーパックを常備している。
キャンディスは飲み物の名ですらないな。
氷砂糖のシロップ漬けだ。
色々な使い方はできるけど、義勇によく飲ませているのはフルーツ系のフレーバーティーにラズベリーのキャンディスをいれたもの」
淡々と説明をする錆兎にスマホの前のお嬢様達はほぉぉ~~!!と感嘆のため息をつく。
こんなイケメンにこんな風に当たり前にこんなものを用意してもらえる義勇が羨ましい。
しかもいかにも男の子と言った感じの錆兎だけにギャップ萌えもある。
そんな中で唯一モブ子は
「さすが錆兎君!
私が義勇君のために選んだ男っ」
と、別に自分が見つけたわけでも連れてきたわけでもないのだが、ドヤ顔でそう言って頷いていた。
──足は速い?
「速いと思う。
リレーが始まった小学校3年生からずっとリレーのアンカーだし」
と、当たり前に肯定する錆兎と
「…50mくらいまでなら速いと思う。
けど、体力がないからそれ以上だと遅くなる」
と、答える義勇。
「…逃げ足とか速いよな、義勇は」
「うん。そういう時はなんでか走れるんだ」
「やる気の問題だと思うぞ。
義勇はなんというか著しく闘争心が欠けてるんだと思う」
「別に勝たなくてもいい。俺の人生に必要なのは錆兎だけだから」
「じゃ、俺がかかってたら頑張って走れるか?」
「うん!でも勝っても負けても錆兎は譲らないから」
と、その後そんな笑い交じりのやりとりが続く。
──暇な時は何をしていますか?
「暇な時間はほぼない」
と、まず錆兎が即答する。
「そうだよね。
錆兎は朝4時半に起きて夜11時に就寝するまでいつだって動いている気がする。
というか、錆兎の時間て一日24時間じゃなくて30時間くらいあるよ、絶対」
「なんだ、それは」
ぽやあっとした様子で言う義勇の言葉に錆兎が軽く噴き出した。
「だって絶対に俺の倍の密度が詰まってる気がするんだ、錆兎の時間て。
俺は暇だったら…錆兎を観察したり錆兎のアルバムみたり…錆兎の声を聴くのに手っ取り早いから俺達の歌を聴いたりしてる」
「ぎゆうぅぅぅ~~~」
隠しもせず錆兎一色な義勇に、錆兎は
「…俺も何か考えながらしなければならないとかじゃない作業の時には、義勇が喜ぶ食べ物とか飲み物とかその他諸々考えてるからなっ」
と、少し照れくさそうにしながらも、それでもきちんと言葉にする。
「まあ…結局暇な時じゃなくてもお互いのこと考えまくってるよな、やつらは…」
と、毎週きちんと聞いてモブ子の話についていかないと殴られるので自分も配信を聴くようになった村田は片手で頬杖をつき、片手で同意を求められそうなあたりのメモを取りながら、ため息交じりに誰にともなくそう呟いた。
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