ファンタスティックタイム_7_目玉焼きの話

この日のお悩み相談コーナーは少しばかり変わったお悩みだった。

「水柱のお二人こんにちは。
すごく変な悩みなんですけど、聞いてもらえますか。
私は高校生である日お弁当に目玉焼きが入ってたんです。
それでうちでは目玉焼きには醤油をかけるので小さな醤油さしが入っていたんですけど、それを一緒にお弁当を食べている子に笑われて、『目玉焼きにはソースだよっ。目玉焼きは洋食なんだからかけるのはソースが正しいって有名なM監督だって言ってたんだよ』って言うんです。
その発言でうちの家の味をバカにされているみたいで、すごく悲しくなったんですが、やっぱり目玉焼きには醤油じゃなくてソースをかけるのが正しいんでしょうか?」

錆兎が読み上げると、義勇が衝撃をうけたように、『そうだったのかっ?!』と目を丸くする。
錆兎の方はと言うと、それにどう答えるかと顎に手をあてて考え込み始めた。

「えっと…目玉焼きに何をかけるかと言うのは本当によくある議論なんだけど…」
と、一呼吸おいたあと、まずは結論。
──なんでも良いんじゃないか?
と言い放つ。


「私見だけどな、他人に迷惑をかける類のものでなければ、これが正しい!という食べ方はないんじゃないかと思っている。
そもそも目玉焼きって大勢でシェアして食べることってあまりないよな?
なら、各自が好きなものをかければいいんじゃないか?
全てを用意するのが難しいから統一して欲しいという珍しい調味料ならとにかくとして、よく言われる醤油にしても塩にしてもソースにしても普通に家庭にはよくある調味料なんだから、好きなものをかけて食べればいいだろう。
敢えて正解は何と言うならば、自分が一番美味しいと思える調味料をかけて食べるのが正解なんだと思う。
この手のことに対してこれだけが正解で他は間違いだと主張する方が偏っていて間違った考えだと俺は思う」

きっぱり言い切る錆兎に、またいつものように隣で義勇がパチパチと拍手をして、それに釣られたリスナー達がスマホの前で同じようにパチパチと拍手をする。

そうしてお答えはお答えとして出しておいて、錆兎は少し自分のこととして続ける。

「うちはたぶん塩なんじゃないかな。
たぶん…というのは、調理の時にかかっているから目玉焼きが食卓に置かれてから何かをかけるという習慣があまりない。
あと…目玉焼きが単体ででてくることもなくて、たいていはベーコンエッグだったり、スパムを刻んで炒めたものと一緒にご飯に乗って出てきたりとかが多くて、ご飯に乗って出てくる時はスパムも目玉焼きも一緒に混ぜて醤油で味付けして食べてるかな」

「あ…それ好き。美味しいよね」
と、錆兎の説明に義勇もにっこり。

「うん。お前は好きだよな。
…ちなみに…俺ん家と義勇ん家は隣同士で、親同士も幼馴染で仲良しで、実は双方の家に向かう廊下があってドア一枚でつながっている少し離れた二世帯住宅みたいな感じなんだ。
だから二人ともよく相手の家に預けられて一緒にご飯食べたりしているので、俺達は家庭の味がほぼ一緒」
と、いきなり錆兎の家のご飯の感想を述べる義勇の言葉に対しても、錆兎の説明が入る。

「俺はほぼ好き嫌いはないんだけど義勇は微妙にこだわりがあるから、いつか家を出る時に困らないように義勇が好きな料理を作れるよう俺が料理を習う相手はうちの母じゃなくて義勇のおばさんだったりするんだ。
義勇のおばさんは和食が美味くて俺の方は母と言うより父が燻製とか餃子とかトマトやホワイトソースとか、冷凍保存とかする系の物をよく作るから、それも習ってたり。
義勇は料理そのものより家庭菜園とかよくやってるから、年取ったら一緒に田舎に行って半自給自足できるくらい野菜つくって暮らしたいなとか、今からそんな話をよくしている」

と、この回のこの話に関しては、のちに事務所の先輩の宇髄に
──お前らさ、実家出て年寄りになるまで二人で暮らしてる前提ってことかぁ?
と、突っ込みをいれられることになる。

もちろんそれに対しては
──もちろんそのつもりだけどっ?
と、何故そうじゃないのかわからないといった声音で返事をする二人だった。



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