ファンタスティックタイム_2_ご相談コーナー

【水柱のファンタスティックタイム】
…それは今人気の幼馴染ユニット水柱の二人に対するリスナーの質問や2人に伝えたい事お悩みなどのコーナーで構成されるラジオ番組である。

そして今日も
「鱗滝錆兎ですっ!」
「冨岡義勇です…」
「「この時間が俺達と俺達の大切なファンとの楽しい交流の場になりますように…水柱のファンタスティックタイムっ」」
の言葉で番組がスタートした。

リスナーからは見えないが二人仲良く色違いのおそろいの服を着て並んで座っている。
いつものことではあるが番組の担当の人間は二人のテーブルの前にお菓子を用意してくれていて、義勇は最初の『冨岡義勇です』の言葉を言い終わると、おもむろにそれに手を伸ばしてもきゅもきゅと食べ始めるので、進行役は必然的に錆兎となる。

「お前…しゃべってなんぼのラジオ番組で始まって早々に菓子を食うなっ」
と言う錆兎に
「…もっ…もぐっ…ごっくん……だって…食べても食べなくてもしゃべるのは錆兎だから…。
俺は話すの上手くないし…」
と最初の一口を飲み込み終わった義勇が答えて錆兎が大きくため息をつく。

毎回そんな感じのやりとりが入って二人のファンがそんな二人になごみながら本題に入っていくのだ。

二人に対しての相談だったりメッセージだったり質問だったりと、その時によって内容はランダムだが、今回は最初に相談だったようだ。
錆兎が耳心地の良い声でリスナーのお便りを読み始める。

「それでは今日は相談です。
ラジオネーム旅太郎さんから。
『水柱のお二人こんにちは。
最初は彼女に勧められて聞き始めたファンタスティックタイムですが、最近では誰に言われなくとも気づけば欠かさず聞くようになりました。
特に錆兎さんの最近の軟弱な男にはなかなかない一本筋の通った男らしさは同性として憧れています』」

と、そこでそれまで黙って菓子を食べていた義勇がごっくんとそれを飲み込んで

「それは正しいな。
錆兎は世界一男らしい男だ」
と、コメントする。

そんな風に義勇が錆兎を褒める言葉を拾って全力で肯定するのはいつものことで、モブ子を含めたファンの女子達はスマホの前でそんな錆兎が大好きな義勇にうんうんと大きく頷くのが常だ。

しかも毎回そんな義勇に
「お前なぁ……」
と、突っ込みをいれかけて、何を言っていいかわからずに一瞬絶句して、それから諦めて何事もなかったかのように続けていく錆兎が可愛いとファンがスマホの前でバタバタ転がりまわるのもまた常である。

そんなリスナーの事情は置いておいて、錆兎は今日も突っ込むのを諦めて話を続けていく。

『さてそんな水柱のお二人にご相談があるのですが、聞いてください。
俺は現在社会人なんですが大学時代の友人達とも交流が続いていて、今度男4人と女2人の合計6人で一泊二日の旅行に行くことになりました。
ですが彼女がありえない!と猛反対しています。
個人的には二人きりでとかではないので問題ないと思っているのですが、そんなにありえないことでしょうか?
こちらやSNSで聞いてみて、それを踏まえて彼女を納得させたいのですが、どう言えばいいでしょうか?
ちなみに…気の置けない友人同士の旅行で友人たちが気を遣うので彼女も一緒にという選択肢はありません』

「…ということだが、義勇はどう思う?」
読み終わってマイクに拾われない程度の小さなため息をついた錆兎。

義勇は早々に聞かれるであろうことを予測してお菓子を飲み込み終わったあと次を食べずに待機していた。

そして…こちらはマイクも気にせず大きくため息。
そして言う。

──それを俺に聞くのか?
…と。

──へ???
と、その義勇の言葉に一部リスナーは首をかしげ、一部のよく彼を知るリスナーは噴出したことと思う。

「俺には錆兎以外にはあと2人しか友達がいないし、その二人はカップルだ。
ゆえに恋愛感情のない6人の友人での旅行はできないし、そもそも反対する彼女もいない」
と、思い切り明後日の方向の返事を返す義勇に番組を聞いているリスナーたちは噴出し、錆兎は頭を抱えた。

「…いや…そういうことではなくて…」
と、困ったように言う錆兎。

でもその義勇のとんでも返答に錆兎は頭が少し冷めてきたように思う。

「まあ…義勇からこの手の返答を引き出すのは難しいので、俺が引き継ぐということで」
と、暗に義勇にはお菓子を食べる作業を続行して良いと言葉と目配せで告げて、錆兎はもう一度はがきに視線を向けた。
そして少し考えて続ける。

「ええと…前提が間違っていると思います。
問題は異性の混じった旅行が世間的に正しいかどうかじゃない。
彼女が嫌かどうかだと思うんですね。
だから考えるべきは彼女がどうして嫌か、どうしたらその気持ちが和らぐのか、…そして究極は旅行と彼女の気持ちのどちらを取るかじゃないですか?
前者だとしたら最悪彼女との別れもありうるということで。

俺なら…俺ならですけどね。
絶対的に正しいとか間違っているとかじゃなく感情的な好き嫌いの問題で自分が嫌だと思っていることを恋人がしたいと言った時に、何故嫌かとかどうすれば俺の気持ちが多少なりとも収まるかではなく、いきなりそれを正しいと思っている第三者を大勢集められて、
『大勢が正しいと言っているから普通は正しいんだ、お前が間違っている、だから嫌がるお前がおかしいんだから私はそれをやるんだ』
と言われたら冷めると思います。

こういう問題って…外から埋めるよりも内側から溶かすものではないかなと。
だから数に任せて踏みつぶすようなやり方はプライベートな人間関係においては百害あって一利なしじゃないでしょうか。

まず相手が何が嫌なのか…条件を変えるなり代替えに何かしてあげるなりして譲歩を引き出せないのか…変に味方を作って徒党を組んで彼女を踏みつぶすのではなく、寄り添って話し合ってあげた方が良いと思います。
どうしても彼女が嫌だというなら今回は諦めて、いきなり泊まりとかではなく普通に友人達に会う時に彼女に会わせて”知らない人”でなくなるようにするとか、彼女と今後も付き合っていくなら、彼女が嫌ではなくなる方向で考えていった方が良いんじゃないでしょうか?
男らしさと言うのは強いから周りに横暴に振る舞うということではなく、他人よりも多く持っている分の能力を他人を守るために使う、余裕があるから俺に任せておけと他の人間の何かを背負ってやれることだと俺は思っています」
と、その言葉におそらく隣で義勇が拍手をしているらしきパチパチという音が聞こえる。

そしてその音に呼応するように、リスナーのお嬢さんたちも誰が見ているわけでもなく、誰が聞いているわけでもないのだが、一緒にパチパチと拍手をするのがお約束なわけなのである。

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