ファンタスティックタイム_1_女子高生モブ子の幸せな日々

花の…というにはあまりに平凡で華がない…しかしそんな自分の生き方に誰よりも満足している女子高生、凡人(なみびと)百舞子(もぶこ)には好きな相手がいる。

もちろんこの【好き】というのは恋愛的な意味である
ただし…一般ピープルのそれと違うのは、彼に恋愛して欲しい相手は自分ではない。
モブ子の好きな相手というのはいわゆる”推し”と言うやつである。

幼稚舎から小等部、中等部、そして高等部とずっと一緒の幼馴染ともいえる相手で、今も同じクラスでその愛らしさを愛で続けている。
その名は冨岡義勇君。

義勇君は世界で一番綺麗で可愛い。
本当に存在自体が愛おしい。
可愛いは正義だ。
だから彼には世界で一番包容力のあるカッコいい男の子と恋愛して欲しい。

そんなモブ子の願いを叶えるように、彼の横には常に一人の男の子がいた。
義勇君の運命のイケメン幼馴染、鱗滝錆兎君。

彼らは母親も幼馴染で親友で、同じ日に同じ病院で生まれたという筋金入りの幼馴染だ。
キリリとしてほとんど泣かない強い赤ん坊の錆兎君とぴえぇぴえぇといつも悲し気に泣いているほわほわの赤ん坊の義勇君。
そんな二人は赤ん坊の頃から仲良しで、錆兎君が隣にいないと義勇君が泣くために、隣同士だった冨岡家と鱗滝家は互いの家を隔てる壁を壊して代わりに互いの家まで行きやすいようにと廊下を作ったという密着ぶりである。

なんと義勇君が心細くなったり眠る時にしゃぶる指は自分の物ではなく錆兎君の指だったという過去を聞いた時にはモブ子は変な悲鳴を上げそうになるのを必死にこらえることになった。

完璧だ。
本当に完璧である。
彼らはこの世で最高のカップルだ。
…と、モブ子は彼らの赤ん坊の頃からの逸話を聞くたびそんな思いを強くする。

そしてそんな彼らを完璧と思ったのはモブ子だけではなかったらしい。
義勇君パパの仕事の関係で義勇君が子供服のモデルを務めることになった時、一人では泣きわめく義勇君を心配してついてきてもらった錆兎君とセットでメーカー元に気に入られたらしく、それから二人はずっと有名子ども服ブランドの専属モデルをやっていた。

もちろん、自分がブランドの可愛らしい服を着たい欲は欠片もなくとも、二人がモデルを務めていた子供服ブランドのチラシの蒐集がモブ子の趣味になったのは言うまでもない。

そんな二人が成長して高校生になった頃、先んじてタレントをやっていた双方の姉の影響もあって、二人して幼馴染ユニットとして売り出して活躍することになった時は、モブ子は狂喜乱舞した。

モブ子の最推しの二人である。
売れっ子にならないわけがない。

最初のTV映像デビューは女優でアイドルの二人の姉のユニットが歌っているバックで踊るというもので、さらにその次には逆に彼らが歌っている後ろですでに人気ユニットになっている姉二人が躍るという贅沢なものだった。

その後の彼らの歌は彼らが幼少時からずっとモデルをしていた子どもからティーンズの洋服を手掛けている有名ブランドのコマーシャルで幼少時から今の彼らまでの映像と共に流されて、彼らは女子中高生を中心に一世風靡することになる。

そして今回、なんと彼らはラジオ番組のMCを務めることになったのだ。
幼馴染ユニット水柱による【水柱のファンタスティックタイム】。
もちろんモブ子はその日その時間は一切の予定を却下してスマホにかじりつく日々を送っているのである。

>>> Next (1月22日公開予定)



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