政略結婚で始まる愛の話_50_急展開1

『あ~…たぶん、”今”なのは、拉致った時の研究者の話だと、本来なら月のアレが始まるのは今月からくらいの予定だったからだろうな…』

冨岡拓郎と分かれてすぐ、慎一に電話を入れて呼び出された旨と言われたことを話したなら、そう、答えが返ってきた。

なるほど。
女性特有のソレが来れば、普通何事かと思う。

『まあ、愚弟は思いがけず適応性があって、投薬後すぐくらいに効果がでてしまったみたいだが…それが良かったのか悪かったのか…』

「今後のあっちの動きとして考えられるのは?」

『強硬手段…は、まあマンションから出ないかぎり無理だけどな。
出る時は気をつけろよ。
あとは…アレか、タレコミか…』

ああ、それもあった…。
錆兎の子どもが生まれるのを阻止したい副社長と組まれると厄介だ。

現在は錆兎はその下で働いているわけだから、仕事と称して変に動かされる可能性は多々ある。
かといって、いま急に会社をやめたいと言ったなら、子がデキたことを勘付かれかねないし、そうなれば面倒なことになる。

資産はそれなりにあって働かなくても食べていける錆兎でも、鱗滝財閥と真っ向から対立するのは少々しんどい。
もちろん家族のためならそれもやむなしだが、しんどいのが自分だけに収まらず、妻子を巻き込む可能性もあるから、それは避けたいと思う。

どうでもいいから流してしまって、副社長に協調して投げやりな人生を送るつもりだった独身時代の自分に比べれば、それでも戦おうと思うのはすごい変化だと錆兎は思うわけなのだが…

「そうなったら最悪、実家を踏み潰せるよう画策しないとな…
出来ればそっちを巻き込みたくないし、上手に逃げてくれ」

『いや、こちらも似たようなもんだ。てか、もっとひどい。
とにかく早急にクソ親父を退陣に持ち込まねえと、今回の愚弟への投薬は会社潰すだけじゃなく、オフクロと弟たちの人生を潰しかねないからな。
もう身内から犯罪者は…とか言ってねえで、軽犯罪を探してそれで牢に放り込んだほうが早い気がしてきた』

ああ、そうだった。
お家騒動どころの話じゃない。
冨岡家は刑事事件と社会的制裁で潰される危険性が多々あるのだ。

本当にお疲れ、不憫な長男…と言ったところだろうか…
電話の向こうで疲れたようなため息を吐き出す慎一に、錆兎は心から同情した。


自分たちは利害が一致する。
とにかく冨岡拓郎の権力を取り上げること。
それが自分たち2人の急務である。

冨岡家より格上の財閥とは言え、跡取りの座から極力遠ざけようとされている自分には、その力はないのだが……

…ああ、仕方ねえな……

自分は下手に動けない。
実家から何かしようとすると、藪をつついて蛇を出すことになりそうだ。

とすると…圧力をかけるには、その他の人脈か……

そこで
「急に悪いな。お前に頼みがあるんだが……」
と、電話をかける先は親友の片割れ。

現在まだ父親がトップにいるわけだが、一応唯一の跡取りで、すでに本社の社長の座を譲られているヤツなら、権力を行使しようとすればそれなりに行使できるはずだ。

緊急事態だ、使えるものはすべて使おう…
そう思ったわけなのだが、なんとタイミングの悪いことに、こちらもいきなり修羅場になっていたらしい。
電話の向こうの親友はなんだか疲れたようなかすれ声だ。

『悪い、今ちっと俺も余裕がねえ…。
ホントはお前にも連絡しようと思ってたんだが……』

「宇髄?何があった?大丈夫か?」

自分の方も色々ゴタゴタはしているが、普段から弱ったところを一切見せない自制心とプライドの塊の宇髄がこんな風に疲れた様子を見せるのは初めてのことだ。

「なあ、俺なにか出来るか?
義勇がああいう状態だから出来ることも限られるけど、それでも出来そうなことならするぞ?」

自分も修羅場真っ最中なわけだが、さすがに心配になってそう声をかける。
それに宇髄が大きなため息をこぼした。
ああ、なんだかわからないが、今の宇髄ならまだ実弥のほうが話を聞けるかもしれない。

そう判断して、錆兎は
「な、そこに実弥はいるか?
いるなら代わってくれ」
と、言う。

同じ会社で宇髄の下で働いているのだから、そばにいることもあるだろうし、いないようなら実弥の携帯にかけなおそう…そう思ったのだが、予想通りいたらしい。

『よお、錆兎、助かったわ。
あのな、宇髄の親父さん、朝に事故で急死したんだァ。
でな、俺らみたいに跡取り問題はねえんだけど、重役らが今後の方針とかで色々揉めてるし、なかには取引先とかに駆け込んだりとか、内部がガタガタになりそうな状態なんだよ。
だから、ほんとどうするかと思ってなァ……
なあ、錆兎、どうしても転職してこれねえかァ?
信用できるあたりでこれなんとかできるの、お前くらいしか思い浮かばねえ』

なんとっ!
いざとなったら駆け込もうと思っていた先がガタガタにっ?!
それは…もちろん親を亡くした親友の心が心配というのもあるが、それだけじゃない。
自分も無関係とは言えない。

かといって…今副社長を刺激するわけには……

いや?これはもしかしてチャンスなのでは?!
と、そこで錆兎はひらめいた。

そうだ、宇髄には悪いが、これは錆兎にとって大きなチャンスだ。
今行動せずにいつ行動する?!

そう思いついたとたん、脳内で計画がバババッとはじき出された。
そして錆兎は走り出す。


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